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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第二章

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金髪の青年と王都の揺れ

 夕暮れに染まる王都レウェン。

 中央通りは人々であふれ、

 市場の灯りが次々とともり始めていた。


 その雑踏の中で――

 一人だけ、空気が沈む人物がいた。


 淡い金髪。

 灰青色の瞳。

 品のある顔立ちだが、

 どこか“影”の匂いがまとわりついている。


 笑っていないのに、笑っているような。

 泣いていないのに、泣いているような。


(……揺れてる)


 屋上からその青年を見下ろしていたのは、

 イサナだった。


(峠の影と同じ……

 “外側の匂い”)


 彼女の瞳が細く光る。


 青年は人混みの中でふと立ち止まり、

 空を見上げた。


「……もうすぐだ」


 そう小さく呟く。

 その声は、

 人には届かないほど微弱な囁き。


 だがイサナには――

 はっきりと聞こえた。


(“もうすぐ”……?

 何が?)


 青年は通りの奥へ向かう。

 その歩みに合わせ、

 周囲の光がわずかに揺らぐ。


 人々は気づかない。

 けれど確かに、

 その青年の周囲だけ“霊脈が薄い”。


(……この感覚……

 嫌い)


 イサナは屋上から飛ぶように降りた。


「《残影歩法ざんえいほほう》」


 一瞬で大通りの影に着地し、

 青年の背を追う。


 しばらくしたところで、

 青年はふと足を止めた。


 広場に面した噴水の前。

 夕闇に灯るランプの光の中で、

 彼は振り返り――


「……つけてきたね?」


 まっすぐイサナを見た。


 イサナの足が、瞬間止まった。


(見られてる……?

 気配を完全に消してたのに……)


 青年は穏やかな声で言う。


「俺を追う理由は?

 迷子の子猫でもないだろう?」


 柔らかい声。

 けれど、

 その奥に何か“底の見えない揺れ”がある。


「……あなた。

 “揺れてる”」


 イサナは杖を前に出す。


残滓ざんしをまとってる。

 普通じゃない」


「“普通じゃない”ねぇ……」


 青年は苦笑した。


「それを言うなら、君も普通じゃないよ?」


 イサナの眉がわずかに動く。


「君、

 この王都の人間じゃないでしょ?」


「……っ」


「匂いで分かる。

 “外で育った匂い”」


 イサナの心臓がひとつ跳ねた。


(この人……

 私の“生い立ち”の匂いまで嗅ぎ分ける……?)


 青年は歩み寄り、

 イサナの目の前で立ち止まる。


「君さ、

 境界の揺れを見る力……持ってるよね?」


「……どこで知った」


「峠の揺れ。

 “閉じた瞬間”に気づいたから」


 イサナの目が鋭く細められた。


(……この人。

 峠の出来事を“感じて”いた……?)


「じゃあ質問を返すよ」

 青年は薄く微笑む。


「境界を閉ざした“あの黒髪の少年”――

 彼は、どこにいるの?」


 イサナの背に冷たいものが走る。


(ソーマ……

 この人、ソーマを探してる……!?)


 青年は首をかしげた。


「ソーマくん、だっけ?

 “予報持ち”の子」


「なぜ……名前を……!」


「聞いたよ。

 市街の噂でね。

 “空を押し返した少年がいた”って」


 青年の瞳が、

 ぞくりとするほど静かに輝いた。


「ようやく……ひとつ、見つかった」


「見つかった……?」


「うん。

 “鍵”(キー)のひとつが」


 イサナは杖を強く握った。


(この人……

 ソーマを“呼んでいる側”の気配……!)


「……ソーマには……

 あなたを会わせたくない」


 イサナが低く言う。


「そう?

 俺は会いたいけどね」

 青年は無邪気に笑う。


「彼の揺れは特別なんだ。

 “外側”に繋がる、貴重な揺れだから」


「……ッ!!」


「境界が開くには、

 “鍵”が要るんだよ」


 その瞬間――

 イサナは青年から感じた。


 影の匂い。


 峠で感じた、あの“境界喰い(さかいぐい)”の匂いと

 似ている気配。


(……こいつ……

 あの影と、同じ“外の揺れ”を持ってる……!)


 青年はイサナの耳元でささやいた。


「ソーマくんに伝えてよ」


「伝えない」

 即答した。


「まあ聞きなよ。

 どうせ彼には届くから」


 青年はイサナの目を真っ直ぐ見つめ、

 意味深な笑みを浮かべた。


「――“すぐに迎えに行く”って」


 イサナの全身が凍りつく。


「……あなた、何者」


 青年は答えず、

 噴水の光の中へすっと歩き出した。


「また会おうね、君も」


 人混みの中へ消える。

 その背中から――

 不気味なほど静かな揺れが漂っていた。


 イサナはしばらく動けなかった。


(ソーマ……

 “外側の揺れ”に……また狙われてる……)


 胸に鈍い痛みが広がる。


 そして、

 小さく呟いた。


「……絶対に。

 会わせない」

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