王都の揺れ、探し人
報告を終えたソーマたちは、
天象庁を出た瞬間、その場で同時に崩れ落ちた。
「はぁぁぁ……疲れた……!!」
ソーマは石畳にぺたんと座り込む。
「おい座るな。
王都の真ん中で“難民の姿勢”やめろ」
ガルムが肩を揺さぶる。
「足が動かない……」
「動かせ。帰り道は動かないと帰れないぞ」
「正論すぎる……!!」
◆
そんなやり取りを見た通行人たちがちらちらと好奇の目を向けてくる。
「ねぇ、あれが“予報持ち”じゃない?」
「あの黒髪の子よね……?」
「隣の銀髪の子は巫女よ……?」
「他の二人も強いって噂……」
「ちょっと待って、
俺いま普通に一般市民の噂話の対象になってる!?」
ソーマが慌てて立ち上がる。
「……目立ってる」
イサナが淡々と評価する。
「評価しないで!!
プレッシャーになるから!!」
「慣れればいい」
「慣れたくないよ!!」
◆
「ま、まずは休みましょ」
リュミが落ち着いた声で提案した。
「今日はもう何もやれませんよね?
揺れの探索も明日からで……」
「そうね……」
セシリアが大きく伸びをする。
「体力も魔力もすっからかん。
明日から本気出しましょ」
「いや今日出そうとしたら死んでたよな」
ソーマが真顔で言う。
「今日は風呂だ。
飯だ。
寝るぞ!!」
ガルムが再び力強く宣言した。
「ガルムさん、もうそれ固定スローガンでいい気がします」
リュミが笑う。
「いいスローガンだろ!!
生きる上で一番大事だ!!」
◆
ソーマたちは天象庁の“簡易宿舎”へ戻ることにした。
いま彼らが借りているのは四人部屋だが、
今回の功績で個室が与えられる可能性も出ている。
「イサナも泊まってく?」
ソーマが振り返ると、
「泊まらない」
即答だった。
「え、帰るの?」
「帰らない」
「帰らないの!?
じゃあどこに……?」
「外」
「外!?!?
王都の外に寝るの!?」
「街中の“残滓が薄い場所”を探す。
そういう寝方してる」
「サバイバルすぎる生活様式!!?」
「慣れてる」
「やめません!?
文明の中で寝ません!?
ベッドとか使おうよ!?」
「……検討する」
イサナは少しだけ考えた顔をする。
「(検討した……!!)」
ソーマが小声で感動した。
◆
宿舎への道すがら、
リュミがふと足を止めた。
「……ソーマさん」
「どした?」
「さっきの……予報……
“王都中心部”って言ってましたよね」
「……ああ」
ソーマの背筋がひやりとする。
「その……何か心当たりは……?」
「ない。
まったくないよ。
王都に来たばかりだし……」
だが心の奥にひっかかりがある。
(向こうの世界と、
王都の揺れが……
どうして同じなんだ……?)
ソーマの沈黙に気づいたリュミは
そっと袖をつまむ。
「……無理に答えなくていいです。
ソーマさんの心が苦しくなるなら」
「リュミ……」
「でも、
一緒に探しましょう。
“揺れの持ち主”も、
“呼ばれている理由”も」
その言葉で、
胸の圧がすっと軽くなる。
「ありがとな。
……ほんとに」
◆
そこへ、
セシリアがひょいと顔を出す。
「ちょっと。
人が感動してるところ悪いけど、
ソーマ、一つだけ聞いていい?」
「ん?」
「あなた、
今日の峠でほんの一瞬――
別の景色、見えてたわよね?」
「……ッ!?」
その場が凍る。
「やっぱり」
セシリアの目が鋭く光る。
「あなた、揺れに“引っ張られてた”」
「……それは……」
ソーマは言葉に詰まった。
「ああいうの、危険よ。
異世界の揺れに興奮した脳は
本来の存在位置を忘れることがあるの。
最悪、“こちら側から”消える」
「消える……?」
リュミの顔がさっと青ざめた。
「ソーマさんは……
消えたりしません!!」
「もちろん、まだ大丈夫よ」
セシリアは真剣な声で続けた。
「でも、王都の揺れを探るときは
“意識の捕縛”に気をつけて」
「……意識の捕縛?」
ソーマが聞き返す。
「境界に近い揺れに触れた者ほど、
向こう側に“引かれる”のよ」
イサナが横目で見つめる。
「ソーマは……
鍵だから。
普通の人より“薄い場所”に引かれやすい」
「薄いって言うな……怖いから……」
「事実」
「やっぱりね!!」
◆
そのまま宿舎に入り、
全員ふだんより疲れた足で
広間へどさどさと座り込む。
そして――
「風呂ー!!!」
一番に叫んだのはガルムだった。
「いいから入れみんな!
臭い!!
峠の死の匂いが染み付いてる!!」
「ガルムさんに言われたくないです!」
リュミが笑いながらタオルを持つ。
「ソーマ、先に行け。
倒れる前に流しちゃえ」
セシリアも笑う。
「いや、俺そんなに臭い!?」
「今日に限ってはかなり」
「イサナまで言った!?」
◆
そんな和気あいあいの空気の中。
ソーマはふと、
窓の外の王都を見た。
夕暮れの影が長く伸び、
街灯が点り始める頃――
(……どこだ……?
王都の中の……“同じ揺れ”……)
胸のざわめきはまだ消えていなかった。
◆
その頃。
王都中心部の、とある大通り。
人混みの中を、
一人の青年が歩いていた。
淡い金髪に、
どこか疲れた目。
彼が通り過ぎるたびに――
空気がひやりと“沈む”。
気づく者はいない。
ただ一人を除いて。
建物の屋上からその青年を見下ろす小柄な影。
「……やっぱり。
あんたが“揺れてる”」
イサナの声だった。




