王都帰還と天象庁の騒動
王都レウェンの東門が見えてきた頃。
ソーマたちはすでに、
峠での疲労と眠気で足取りがぐねぐねしていた。
「ようやく帰ってきたぜ……!!
文明の匂いだ……!!」
ガルムが両腕を広げる。
「その言い方だと、今まで未開の地みたいだよ」
ソーマがぼそっと言う。
「未開だろ!?
空落ちるわ影出るわ、文明じゃねぇよ!!」
「……たしかに今日は未開だったわ」
セシリアが珍しく同意してため息をついた。
「ごめん、イサナ。
こういう会話、慣れてる?」
ソーマが気を遣って尋ねる。
「慣れてない」
イサナが短く言った。
「慣れてないんだ!?
じゃあ今どういう気持ち!?!」
「うるさい」
「そこだけ安定して言うのやめて!?」
◆
王都の衛兵がソーマたちの姿を認めると、
目を丸くした。
「お、お前たち……!
天象庁から捜索隊が出ていたぞ!!
戻ってきたのか!!」
「え、捜索隊?」
ソーマが固まる。
「おう。
“空の底が沈んだ”とかいう報告が入ったからな。
てっきり全滅したと思って――」
「ちょっと待て!?
そんな最悪の前提で動いてたの!?」
「峠で空が裂けてたって噂もあってな……」
「いや裂けてたけど!!
今さら否定できないけど!!」
衛兵たちが口々に「生きてたか!」「すげぇな……」とざわつく。
「……ソーマさん、
わたしたち、思ったより大事件だったみたいです……」
リュミは半泣き。
「俺も怖いよ……
今から“大人たちへの説明”が……」
ソーマが胃を押さえる。
◆
天象庁へ向かう途中、
王都の街並みはいつものようににぎわっていた。
市場の呼び声。
露店の香ばしい匂い。
空を飛ぶ雲船の影。
「うおおお……!!
俺、文明の力に涙出てきた……!!」
ガルムが感動する。
「ガルムさん……
あなた文明への感動多くないですか?」
リュミが笑う。
「当たり前だ!!
文明は最高だ!!
俺はもう二度と空が沈む場所に行きたくねぇ!!」
「じゃあ仕事辞める?」
セシリアが真顔で言った。
「辞めねぇよ!!
飯が食えなくなる!!」
「現金な……」
ソーマが呟く。
◆
天象庁の玄関へ着くと――
すでに中は騒然としていた。
「戻ったぞー!!」
ガルムが元気よく扉を押し開ける。
その瞬間、
中にいた職員たちの視線が一斉にソーマへ集中した。
――ざわっ……
「あれがソーマか……」
「峠の件を押し返したって噂の……」
「予報持ち……本物……?」
「生きて帰ってきてる……すご……」
「え!?
なに!?
みんなの視線怖い!!!」
ソーマが後ずさる。
「ソーマ。
人気出てる」
イサナが無感情に言った。
「無感情で言わないで!?
プレッシャー倍になるから!!」
◆
「おかえりなさい。
本当に……無事でよかった……」
通路の奥から歩いてきたのは――
天象庁の名物局長、セイルだった。
白髪を後ろに流し、
眼鏡の奥の眼差しは冷静だが、
どこか安堵も感じられる。
「セイルさん……!」
「今回の件、
王城からも緊急照会が来ている。
あなたたちから詳細を聞かねばならないが……」
セイルはソーマをじっと見つめた。
「その前に――
本当に、よくやってくれた」
「うっ……」
ソーマの目が潤む。
「認められた……!!
なんか……褒められた……!!」
「ソーマさん!!
よかったです!!」
リュミも涙目。
「泣くな。
オッサンの前で泣くな」
ガルムが肩を叩く。
「やかましい!!
俺だって頑張ったんだよ!!」
◆
セイルはふと横の少女に目を向ける。
「……そちらは?」
「イサナ・ヴェルミリオ」
イサナは短く名乗る。
「今回の“境界揺れ”に強く反応していた子で……
一緒に戦ってくれました」
ソーマが説明する。
「今後も、しばらくは共に行動するつもり」
「ほう……《残影歩法》の使い手、か」
セイルの眉がわずかに上がる。
「この天象庁としても、ぜひ力を借りたい。
ソーマたちの行動班に加わってもらえないだろうか?」
「行動班……!?」
ソーマが叫ぶ。
「また班が拡張するの!?
俺、そんな大所帯のリーダーじゃないよ!?」
「リーダーとは言ってない」
セシリアが淡々と刺す。
「聞こえてた!?」
◆
セイルはイサナを見つめたまま言った。
「どうだね、イサナくん。
天象庁に籍を置く気は?」
イサナはほんの少しだけ考えて――
「嫌」
「秒で拒否!?」
ソーマが叫ぶ。
「単独行動がいい」
イサナははっきり言った。
「でも、ソーマの近くにはいる」
「結局いるの!?
どういう距離感!?!?」
「監視」
「いや監視て言うなってば!!!」
◆
そのやりとりを見て、
セイルは小さく笑った。
「……まあ、
形にこだわる必要はないだろう。
必要な時、必要な場所で協力してくれればいい」
「うん」
イサナが頷く。
「ただし」
セイルは真顔に戻った。
「ひとつだけ注意しておきたい。
今回の“境界揺れ”……
王都中心部にも同質の反応が一瞬出た」
「やっぱり……!」
ソーマの顔が強張る。
「王都のどこに?」
セシリアが問い詰める。
「まだ特定できていない。
ただ――
揺れの発生源は“人”の気配に近かった」
「“人”……?」
リュミが息をのむ。
「つまり、
“王都の誰か”が境界を揺らしている可能性がある」
天象庁の空気が一瞬で張り詰める。
「次の任務は――
“王都内部の揺れの探索”だ」
セイルの眼差しが鋭く光った。
「ソーマ。
君の予報が、また必要になる」




