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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第二章

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峠の報告と灰色の勧誘

 残滓峠の空がようやく落ち着きを取り戻した頃。

 全員、祝福の気配よりもまず疲労が勝っていた。


 ガルムは地面に寝そべり、

 セシリアは魔導手袋を外して手をぶらぶらさせ、

 リュミはソーマの横で霊脈の落ち着きを確認している。


 そして――

 イサナだけは、峠の端に立ち、

 じっと空を見つめていた。


(……ひび、消えた)


(でも……匂いは残ってる)


 その眼差しは、

 普通の少女のものではなかった。


「よし、帰るか!!」

 ガルムが突然立ち上がった。


「お前、さっきまで“死ぬ”とか言ってなかった?」

 ソーマがツッコむ。


「死にかけた時ほど、帰り道がうまい酒に感じるんだ」

「そんな哲学いらない」

「いるだろ!? 人生に必要な知恵だぞ!?」


 ガルムの妙な持論にソーマが頭を抱える。


「とりあえず、王都に報告ね」

 セシリアが立ち上がる。


「今回の件、天象庁てんしょうちょうだけじゃなくて

 王城も巻き込む規模よ。

 この“境界揺れ”は……国家級」


「うわぁ……また偉い人の前で説明かぁ……」

 ソーマが肩を落とす。


「頑張ってください」

 リュミが小さく笑った。


「え、俺だけ!?

 みんなで行こうよ!?

 ガルムとか一番説得力あるだろ!?」


「ソーマ、俺は言葉が苦手だ」

「知ってるけど!!」


 そこへ、イサナがふらりと近づく。


「……私も行く」


「え?」

 ソーマが目を丸くする。


「王都へ」


「え、なんで!?

 いや、来てくれるのは嬉しいけど、なんで!?」


「匂い。

 あの影の匂い、王都の方にも薄く流れてた」


「嘘だろ……!?」

 セシリアが青ざめる。


「残滓峠の揺らぎと……王都の揺らぎが、

 一瞬だけ繋がってた感じ」


「繋がるな世界!!」

 ソーマが叫ぶ。


「あれは“呼び声”だった」

 イサナが淡々と続ける。


「ソーマ、“あなた”を呼んでる声。

 あれ、峠からだけじゃなかった」


「……まじで……?」

 ソーマの背に冷たい汗が伝う。


「王都のどこかにも、

 “同じ揺れ”がある」


「王都に……俺を呼ぶ場所が……?」


「うん」


 イサナの琥珀の瞳が、

 ほんの少しだけ鋭く細められた。


「だから行く。

 あなたが狙われてるなら、見張る必要がある」


「見張る!?」

 ソーマが情けない声を上げる。


「守るとも言う。

 見張るとも言う」


「言い方が悪い!!」


 ガルムが肩を叩く。


「まあいいじゃねぇかソーマ。

 仲間が増えるってのは悪くねぇ」


「増えてるか……?

 監視されてるだけじゃない……?」

「仲間の第一歩なんてそんなもんだ」


「俺の世界の常識と違うな!?」


 リュミがそっとソーマに近づいた。


「ソーマさん。

 わたし……イサナさんが来てくれるの、

 少し安心です」


「リュミまで!?

 俺そんなに危うい!!?」


「はい」

 即答。


「うわあ俺そんなに頼りなく見えてた!?

 俺、がんばってるつもりなんだけど!!」


「知ってます。

 だからこそ、支えが多いほうがいいんです」

 リュミが微笑んだ。


「……そういう言い方は、

 なんか、嬉しい……」

 ソーマが耳を赤くする。


「よし決まりだな!」

 ガルムが手を叩く。


「王都へ戻って、

 報告して、

 飯食って、

 風呂入って、

 寝る!!」


「それ全部大事だけど優先順位強いな!?」

 ソーマが叫ぶ。


「お前……風呂入らずに寝られるか?」

「いや、まあ……たしかに……」


「でかしたわガルム。

 今回だけは同意する」

 セシリアも珍しく素直だ。


「うん、風呂」

 イサナも淡々と言う。


「イサナも風呂派なの!?!?

 喋る量のわりに生活感ある!!」


「生活してるからね」


「そりゃそうだけど!!」


こうして――

ソーマたちは、

残滓峠での異常を乗り越えた足で

王都へ戻ることになった。


だがその途中。


ソーマの耳奥で、

ふっと短いノイズが走る。


――ザ……。


――『……次は……王都……中心部……』


「……王都……中心部……?」


思わず漏れた独り言に、

リュミが首を傾げる。


「……ソーマさん?」


「いや……

 なんでも……ないと思う……」


だが胸の奥に、

強いざわめきが残っていた。


(王都で……何かが待ってる……?)


その予感は、

当たりすぎてほしい未来ではなく――

外れてほしい未来だった。

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