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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第二章

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空の門が開くとき

 裂け目の奥で――

 黒いもやが渦巻き、

 巨大な“本体”がゆっくりと姿を現し始めた。


 腕ではない。

 首でもない。


 “胴体の一部”が、沈んだ空の底から

 重たく抜け出してくるようだった。


――ズ……ズズ……ッ……


「いやいやいや……デカすぎない!?」

 ソーマの声は裏返った。


「ソーマさん……

 あれ、峠全体より大きい……!」

 リュミが息を呑む。


「本体が出たら……

 この峠そのものが“飲まれる”!!」

 セシリアの声が震える。


「飲まれるって表現やめろ!!

 世界が食べられるって聞こえる!!」

「実際に食べられてるのよ!!

 空と霊脈ごと!!!」


「やめろおおお現実味を出すなああ!!」

 ソーマの悲鳴が空へ溶けた。


 上位影は怒りで揺れ、

 三本の腕を再び伸ばし――

 今度は ソーマただ一人 を狙った。


「ソーマ!!!」

「ソーマさん!!」


「来るぞソーマ!!

 絶対避けろ!!」

 ガルムが叫ぶ。


だが――

空と地の揺れが乱れる中、

ソーマはすぐに避けられない。


(……なんで……

 なんで俺だけ……?)


――『来い……予報持ち……』


(また……その声……!

 何なんだよお前は!!)


 腕が迫る。


 迫る。


 もう避けられない。


 その瞬間――


――カンッ!


 細く鋭い音。

 イサナの足が、空間の“隙間”を踏み抜いた。


「――《残影歩法》」


 影の腕が飛んでくる直前、

 イサナがソーマの前へ一瞬で現れた。


「えッ!?

 イサナ!!?」


「動かないで」


――バチンッ!!


 雷光が真横にほとばしり、

 影の腕が電撃で弾け飛ぶ。


「イサナ……

 助け……」

「喋ると揺れる」

「ごめん!!」


 イサナはソーマをちらりと見た。


「追われてる理由、

 なんとなく分かった」


「何……?」


「あなたの揺れ……

 “帰れる道”だから」


ソーマの心臓が跳ねた。


(帰れる……道……?

 俺が……?)


「影の本体……

 “世界の外側”と繋がってる。

 多分――

 あなたの世界まえせの残り火」


「……前の世界……?」


「そう。

 だからあなたを呼ぶ。

 境界を越える“キー”として」


「鍵!?

 俺が鍵……?

 ちょっと待って聞いてないよそんなの!!」


「今聞いたじゃん」


「そうだけど!!

 そうなんだけど!!」


 イサナは上位影を見据える。


境界きょうかいを喰う存在。

 あれは“食べ物”としてあなたを欲しがってる」


「食べ物って言うな!!

 急に話怖すぎるから!!!」


「だって本当だよ。

 あなたの揺れは特別。

 “世界の端”そのもの」


「端って何!!

 俺そんなギリギリの存在なの!!?」


「うるさい」


「今日だけで十回くらい言われてるぞそれ!!」


 その時、リュミが悲鳴を上げた。


「ソーマさん!!

 空が……

 空の底が……また沈みはじめてます!!」


 見れば、

 上位影の本体が出てきたことで

 空の破断が加速している。


――ゴゴゴゴ……


 山が、空へ吸い込まれるように沈む。


「クソ!!

 押し返しても押し返しても……!!」

 ソーマは歯を食いしばる。


「敵の“見えてない揺れ”が併せて押し返してるのよ!!」

 セシリアが叫ぶ。


「つまり……

 押し返す力が足りない!!」

 ガルムが斧を振りながら叫ぶ。


「じゃあどうするのよ!!」

 セシリアが腕を震わせる。


 その時、

 イサナが珍しく“焦り”を見せた顔で呟いた。


「……マズい。

 本体が出始めたら……

 “空”じゃなくて“地”が飲まれる……」


「地ぃ!?

 地面も沈むの!?

 何その世界の終わり二段構え!!」

 ソーマの悲鳴が木霊する。


「だから言ったでしょ。

 境界喰い(さかいぐい)だって」


「境界喰い!!?

 名前ついてんの怖いんだけど!!」


 イサナが静かに杖を構える。


「でも、終わらせる方法が一つだけある」


「あるの!?

 あるなら早く言って!!」

 ソーマが叫ぶ。


イサナはソーマの胸に手を当てた。


 その指先が拾う、

 ソーマだけの揺れ。


「――“あなたの揺れをゲートにする”。

 その揺れで、境界を閉じる」


「俺を門に!?!?

 閉じるってどうやって!!?

 僕、門の使い方習ったことないよ!??」


 イサナは静かに言った。


「できるよ。

 あなたなら」


「理由!!?

 なんで俺なら!!?」


 リュミが震える声で言う。


「ソーマさん……

 あなたの予報は“世界外”と繋がってる。

 その揺れは……

 この世界の“外側を閉じる鍵”になり得ます……!」


「俺のスキルそんな危険物だったの!?!?」

 ソーマは叫ぶ。


「いつか言うつもりだった」

 リュミが申し訳なさそうに目を伏せる。


「言うなら今日だろ!!

 いや、言わなきゃいけないの今日だろ!!」


 イサナが前に出る。


「ソーマ。

 “空の押し返し”を最大まで強める。

 その揺れを――

 境界そのものへ叩き込む」


「叩き込むって……

 俺、そんなことできる……?」


「できるようにする。

 私が」


 その声は、

 短いが――絶対の自信に満ちていた。


 裂け目の向こうで、

 巨大な影の本体が、

 ついに“頭部”らしき形を覗かせた。


――ギャアアアアアアアア!!!


 空と地が一斉に震え、

 大地が沈む。


「まずい!!

 本体出てきたら本当に世界終わる!!」

 セシリアが絶叫する。


「ソーマ!!

 やるなら今だ!!」

 ガルムが影の腕を押し返しながら吠える。


 リュミが震える手を

 ソーマの手にそっと重ねる。


「ソーマさん……

 わたし、必ず支えます。

 “今”の揺れは……

 全部わたしが掴みます」


「リュミ……」


 イサナが杖を構え、

 静かに言い放つ。


「境界を閉じる“ソーマ”――

 準備しよ。

 あとは押すだけ」


(押すだけって……

 こんなの……)


 だがソーマは震える拳を握りしめる。


(誰かがやらなきゃ……

 この世界、落ちる……)


「わかった……!

 やる!!

 行くぞリュミ!!」


「はい!!」


 二人の揺れが重なり――

 空が大きく押し返される。


裂け目が震え、影の本体が揺らぐ。


「今だソーマ!!

 境界へ――叩き込め!!」


 イサナの声が雷鳴のように響いた。


ソーマは叫ぶ。


「押し返すんじゃない……

 閉じる!!」


巨大な影の本体が、

その瞬間――僅かに後退した。

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