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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第二章

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境界を喰らう腕

 上位影の腕が――

 空気ごと裂きながら

 ソーマとリュミへ一直線に伸びる。


――ギギギギギィッ!!


「ソーマさん!!

 避けて!!」

 リュミの声が震える。


「無理だって!!

 空間が歪んでんだよここ!!」


 影の腕は、光を押しつぶすように迫ってくる。


「二人とも離れろ!!」

 ガルムが斧を構えるが――

 距離が遠い。


間に合わない。


 その瞬間。


――バチィィィィンッ!!!!


 峠の奥から、鋭い雷光が一直線に落ちた。


 雷は影の腕へ命中し、

 腕全体が痙攣けいれんしながら吹き飛ぶ。


「……え?」

「……いまの雷……」


 セシリアが呆然と呟く。


「私の魔法じゃない……!?」


「じゃあ誰が……?」

 ソーマが峠の奥を見る。


 薄い霧が揺れ、

 岩の上に“少女の影”が立っていた。


 黒い外套。

 赤いメッシュの短髪。

 鋭い琥珀の瞳。

 足首には古い枷痕かせあと


 小柄で、

 しかし周囲の空気を支配するような静けさ。


 その少女は杖を肩に担ぎ、

 ふっとため息をついた。


「……空の匂いが、変だった」


 まるで、

 この異常が“自分を呼んだ”と言わんばかりに。


 ソーマは目を丸くする。


「き、君……誰……!?」


 少女は首だけでこちらを見る。


「イサナ。

 イサナ・ヴェルミリオ」


「名乗るのそこだけ!?」

 ソーマが思わずツッコむ。


「他に言うことある?」

 淡々と返され、ソーマは固まった。


(なんだこの子……

 空気も会話も掴めない……!!)


 ガルムが走り寄る。


「おいお前!!

 いきなり雷ぶっ放してきて……

 助かったぞ!!」


「そう。よかった」


「よかったって……

 お前、平然としてんな!!」


「生きるためにやっただけだよ」


(会話が……成立してるようで成立してない……!!)


 セシリアが警戒するように杖を構えた。


「ちょっと待って。

 あなた……どうやって雷落としたの?

 魔術反応が全然ないわよ」


「魔術じゃない」


 イサナは足元を軽く叩く。


「《残影歩法ざんえいほほう》の“踏み込みかみなり”。

 霊脈れいみゃくの隙間を踏むと、

 たまに雷の層に触れる」


「霊脈の隙間……?」

 ソーマが目を瞬く。


「うん。見えない“薄い線”みたいなやつ。

 そこを踏むと、少しだけ場所を飛べるし、

 雷も拾える」


「なにそれ!?

 物理法則の負け!?

 世界、ちゃんとして!!」

 ソーマが叫ぶ。


「うるさい」

 淡々と返される。


「う、うるさくない!!

 正しく驚いてるだけ!!」


 イサナはソーマとリュミを見る。


「……あなたたち、

 “空の底”を押し返そうとしてる」


「え!?

 なんで分かるの……?」

 ソーマが戸惑う。


「見たら分かるよ。

 揺れが“反発してる”」


 イサナは空を指差す。


「本来、空と地の揺れって“落ちる方向”が普通。

 でも、あなたたちの揺れは逆。

 “押し返してる”」


「リュミの同調どうちょうと……

 俺の残響予報エコー・フォーキャストの揺れが重なって――」


「重ねた揺れで“空を支えてる”んでしょ」


「支えるって単語が怖いんだけど!!

 俺そんな大役やってんの!?!?」


「うるさい」


「うるさい多くない!?」


 上位影が、イサナに向かって赤い線の目を大きく開いた。


――ギギギィィッ!!


 三本の腕を一気に伸ばす。


「イサナさん!!

 危ない!!」

 リュミが叫ぶ。


 だがイサナは動かない。


「大丈夫」


 上位影の腕が迫る。


――ギッ!!


 瞬間、イサナは足元の“何もない空間”を踏んだ。


「《残影歩法》――

 “雷層踏み”」


――バチィィッ!!


 足元から雷光が噴き出し、

 影の腕が爆ぜて飛び散る。


「な、なにそれ……!!

 足元に雷……!?」

 ソーマが口を開ける。


「たまたま。

 雷の層があったから踏んだだけ」


「たまたまって言葉の使い方が怖い!!」


 イサナは杖を前に向け、

 上位影を睨みつけた。


「……嫌な揺れ。

 “外側”の匂いがする」


「外側……?」

 ソーマの背中に冷たい汗が流れる。


 イサナは淡々と続けた。


「あなたの揺れにも似てる」


「俺の……揺れ……?」


「うん。

 “この世界の揺れじゃない”。

 だから気づいた」


 ソーマの心臓が跳ねた。


(外側……

 “前の世界”の揺れ……?

 この子は……それを感じ取ったっていうのか……?)


 イサナは杖を構え、

 短く言った。


「ソーマ。

 空、押し返せる?」


「……押し返してるよ!!

 でもまだ足りない!!」


「じゃあ、押して。

 その間の“敵”、全部斬るから」


「……!!

 頼もしい!!」


「別に頼もしくないよ。

 ただ――ムカついてるだけ」


「え……?」


「この影の揺れ。

 “私の故郷の残り火”と同じだから」


 その瞳は、

 さっきよりもずっと鋭かった。


 イサナが前に出ると、

 三本の影の腕が同時に襲いかかる。


「ガルム!!

 セシリア!!

 合わせるぞ!!」

 ソーマが叫ぶ。


「おう!!」

「了解!!」


 ガルムは斧で食い止め、

 セシリアは雷壁らいへきで支え、

 イサナは雷光で切り裂く。


 その背後で――

 ソーマとリュミは揺れを合わせ、

 空の底を押し返し続けた。


 上位影が咆哮する。


――ギャアアアア!!


 裂け目がさらに広がり、

 巨大な“本体”が覗き始める。


「嘘だろ……

 本体まだ出てなかったの……!?」

 ソーマが青ざめる。


 その奥から――

 声が届く。


――『……来い……予報持ち……』


 イサナが小さく呟く。


「やっぱり……

 狙われてるの、あなた」


 ソーマは拳を震わせた。


(なんなんだよ……

 俺は……何を呼ばれてる……?)


 裂け目の奥で、

 影の本体がゆっくりと姿を現そうとしていた。

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