空を押し返す者たち
空の底が――
ほんのわずかに“上へ戻った”。
「お……おおお……!?
空、上がってる!!」
ガルムが目を見開く。
「まさか本当に押し返せるなんて……!!」
セシリアも声を震わせる。
ソーマはリュミの手を握りしめたまま、
二つの揺れを同調させていた。
(未来の揺れ……
現在の揺れ……
重なれば、“空の動き”そのものが変えられる……)
リュミの背中の魔紋が、
まるで呼応するように光を強めていく。
「ソーマさん……!
“空の層”の向きを……
変えられます……!」
「できるんだな……!!
よし、なら――」
ソーマはぐっと前へ踏み込む。
「押し返すぞ!!
いけるところまで!!」
「はい!!」
◆
だが、その瞬間。
影の“上位種”がこちらを向いた。
赤い線の目が、
二人を射抜くように細められる。
――ギ……ギギギッ……
「……こっち見た……!!」
ソーマの背筋が凍る。
「ヤバいわね……!
二人を“敵と認識”したわ!!」
セシリアが叫ぶ。
上位影が裂け目へ腕を突っ込むと――。
――バチィィンッ!!
「っ……!!
空の底の沈降が強まった……!」
リュミが呻く。
「押し返してるのに……
向こうも押してきてるのか!!」
『……壊すな……』
ソーマの耳奥で声が囁く。
(こいつ……
俺たちの行動を“妨害”してる……!)
上位影は、
空の層そのものを歪ませながら、
二人の“押し返し”を相殺しにかかっていた。
◆
その間にも――
影の群れは勢いを増して迫る。
「こいつら止まらねぇぞ!!」
ガルムが斧でまとめて叩き斬る。
「数が多すぎる!!
ソーマ!
二人が押せる間に時間を稼ぐ!!」
セシリアが雷糸を再展開する。
「《雷結界》!!」
幾重もの青白い線が前方に広がり、
影を焼きながら侵攻を遅らせた。
「ガルム!!
右側!!」
「おう!!」
ガルムが雷糸の隙間を抜けてくる影を、
一撃で地面へ叩きつけ粉砕する。
「ハッ!!
次!!
来るならまとめて来い!!」
「ガルム、無茶しないで!!」
「無茶してんのは空のほうだ!!」
◆
だが――
上位影は、じっとソーマたちを見据えたまま
“腕の向き”を変えた。
空の底に向かって
さらに強く吸い込む動作をする。
――ゴォォッ!!
「っ……!!
押し負ける……!!」
ソーマが歯を食いしばる。
リュミの額にも汗がにじむ。
「空……沈んでます……!
まだ……持ちますけど……!」
(くそ……!!
押す力が足りない……!」
耳奥で、声が再び囁いた。
――『……“もう一つ”の揺れ……
まだ……眠っている……』
「もう一つ……?」
ソーマは周囲を見回した。
「ソーマさん……?
何か見えましたか……?」
リュミが問う。
「いや……違う……
この揺れ……どこかで……」
◆
ふと、胸の奥に浮かんだ“気配”。
(影の子……?)
宿舎に預けた、
あの影の子の、微弱な揺れ。
あれは――ソーマと同じ周波数に近かった。
(もしかして……
あの子の揺れも……
“外側”の揺れ……?)
――ザ……ッ
ほんの一瞬、
耳奥に“子どもの声”のような揺れが走る。
(……呼んでる……?
俺たちを……?)
◆
ソーマは息を吸い、
リュミの手を強く握った。
「リュミ!!
もう少しだけ強く合わせるぞ!!」
「はいっ!!」
二人の揺れが再度重なり――
――ゴッ!!
空の底が、もう一段“上へ押し返された”。
「おおおお!!
空が……上がってるぞ!!」
ガルムが叫ぶ。
「すごい……
本当に押し返せてる……!!」
セシリアも息を呑む。
上位影の赤い線の目が、
明らかに揺れた。
――ギギ……ッ!!
「怒ってる!?
怒ってるよね!?
空を押し返されたの気にしてるよね!?!」
ソーマが叫ぶ。
「当たり前でしょ!!
あれの“食事”を邪魔してるのよ!!」
セシリアの説明も怖い。
「食事ぃ!?
空の底って食うもんじゃないだろ!!」
「知らないわよ!!
私だって初めてよ!!」
「ソーマ!!
もっと行けるか!!」
ガルムが叫ぶ。
「行ける!!
でもあと一押しだ……!!」
◆
ソーマとリュミは、
最後の力で揺れを重ね――
空の底を、さらに押し返そうとする。
だが――
上位影が、
ついに“こちらへ腕を向けた”。
――ギ……ギギギ……!!
赤い線の目が大きく開き、
空気が黒色に染まり始める。
「ソーマさん!!
あれ……来ます!!
“直接”!!」
「うわあああ!!
避けろって言われても避けられるか!!」
影の腕が、
二人へと迫った。




