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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第二章

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空の底で呼ぶ影

 目の前の“影”は、

 人の形をしていながら――中身が存在していなかった。


 輪郭はふわりと揺れ、

 中心は空洞くうどうのようにぼやけている。


 それなのに――

 声だけは、やけに“明確”だった。


『……来たな、予報持ち(よほうもち)……』


 ソーマの喉が音を失う。


(なんで……

 俺のスキル名を知ってる……?)


 影は、足がないはずなのに、

 滑るようにこちらへ近づいてくる。


 リュミが震える声で言った。


「ソーマさん……

 あれ、本当に……

 “この世界の存在じゃない”……」


「なんで分かるんだ……?」

 ソーマが小声で尋ねる。


「揺れが……違うんです。

 アステリアの“空気のそう”を通っていない……

 外側の……もっと遠いところから……」


(……外側……?

 俺の前世世界が、アステリアの“外側”……)


 セシリアも魔導具を構えて分析した。


「ソーマ。

 あれの魔力波形……見たことないわ。

 この世界のどんな魔物とも一致しない」


「……消えているようで……消えてない……?」

「そう。

 “ある”と“ない”の境界みたいな存在よ」


「なんだよその不気味な定義……!」

 ソーマが震える。


 影の“穴”のような顔が、

 ソーマのほうへ向いた。


『……久しいな……』


「久しいって……

 俺、あんたのこと知らない……!」


『……そうだろう。

 だが――“わたしは、お前を知っている”』


 ソーマの背中に冷水が流れた。


(……なんだよ……

 なんで俺を……?)


 影はゆっくりと、

 峠の裂け目のほうを振り向いた。


『空のそこが落ちる……

 それは、偶然ではない……』


「空の底……って何なんだよ!!」


 影は答えず、

 一歩こちらへ踏み込む。


――ザ……ッ。


 その瞬間、ソーマの耳奥が強烈に揺れた。


――『……落下……沈降……

   空の“破断はだん”……

   境界層が崩壊……』


「破断……!?

 境界層って……空と地面の境目!?」

 ソーマが青ざめる。


「それが崩れたら……

 空気全体が“落ちてくる”わよ!!」

 セシリアが叫ぶ。


「え!?世界終わるじゃん!?」

「だから必死で言ってるのよ馬鹿!!」


 影は、静かに言った。


『予報持ちよ……

 “お前の世界まえせ”が消えかけている』


「……っ!?」


『その揺れがここへ届き……

 空の底を引きずり込んでいる……』


 ソーマの心臓が跳ねた。


「……俺の……前の世界が……

 こっちを……壊してる……?」


『壊す気はない。

 ただ――

 “助けて”いるのだ』


「助ける……?」

「誰を……?」


 影は微かに揺れた。


『……“自分自身”を』


 その瞬間、峠全体が揺れた。


――ゴゴ……ッ!!


 地面ではなく、

 空が沈む音だった。


 ガルムが叫ぶ。


「ソーマ!!

 今の影の言葉、どういう意味だ!!」


「分かんないよ!!

 こっちが聞きたいよ!!」


 風が逆巻き、

 裂け目から黒いもやが溢れてくる。


 影はその中心へすべるように戻りながら――

 最後にソーマへ向けて言う。


残滓ざんしの峠が、

 “次のゲート”になる……』


「門……?」

 ソーマが息を呑む。


『お前は……

 どちらの空を――選ぶ……?』


 影の姿が完全に裂け目に飲まれた。


 次の瞬間――


――バチィィッ!!


 空から巨大な雷光が落ちた。


「伏せろッ!!」

 ガルムがソーマを突き飛ばす。


 地面が爆ぜ、

 空がうねり、

 峠全体が“落ちるように沈む”。


「これ……予報の“落下現象らっかげんしょう”……!」

 ソーマが叫ぶ。


「全員、構えろッ!!」

 セシリアが魔導具を展開する。


「リュミ、同調どうちょう!!」

 ガルムが叫ぶ。


「はいっ!!」


 リュミは一気に両手を広げ、

 峠全体の“揺れ”を読み取る。


「ソーマさん!!

 この山……“中心部に向かって沈んでます”!!」


「沈むって何だよ!!

 山は立ってろ!!」


「言ってる場合じゃないです!!」


 その瞬間――

 霧の奥から、黒い“影の波”が押し寄せる。


「魔物の群れ……!!

 しかも……“世界外”の揺れ……!!」

 セシリアが叫ぶ。


「ソーマ!!

 作戦だ!!

 なにか俺たちにできることは!!」


 風が唸り、

 空が沈み、

 峠が落ちていく。


 ソーマは歯を食いしばる。


(選べって……言った……

 どちらの空を……って……)


 耳奥で最後の揺れが響く。


――『……聞け……』


「聞いてるよ……!!

 俺に……何をしろって言うんだよ……!!」


 ソーマは叫びながら、

 迫りくる影の大群へ向かって前に出た。


「みんな!!

 構えて!!

 ここからが本番だ!!」


 空の底が沈む音が――

 峠全体を包み込んだ。

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