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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第二章

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残滓峠と空の底

 残滓峠ざんしとうげへ向かう道は、

 朝だというのにやけに薄暗かった。


 太陽は昇っているはずなのに、

 空気は色を濁らせ、

 風だけがざわざわと山肌を撫でている。


「……空、沈んでるな」

 ガルムが腕を組む。


「沈むって……何……?」

 ソーマが顔をしかめる。


「空の“そう”が重なりすぎて圧が下がってる証拠よ」

 セシリアは歩きながら空へ魔導具を向ける。


残滓ざんし密度も高い。

 普通の嵐じゃないわね……」


「やっぱり予報の“空の底が開く”って……

 これのことか……?」

 ソーマが呟く。


 リュミは静かに目を閉じ、

 山に流れる気配を感じ取っていた。


「……流れが乱れてます。

 魔力が“左右に引き裂かれている”みたい……」


「左右に?」

「嵐って普通は“一方向”からくるものなのに……

 これは、まるで“何かに引っ張られている”ような……」


(……引っ張る……?

 嵐を……?)


 ソーマの耳奥がビクリと震えた。


――ザザ……ザァ……


(まただ……!)


 だが、予報はやはり

 “途中で止まってしまう”。


 峠の入口へ差し掛かると、

 周囲はひどく静かになった。


 鳥の鳴き声はなく、

 木々の影が妙に長く伸びている。


「ここが……残滓峠……」

 ソーマが息を呑む。


 リュミが袖を握る。


「ソーマさん……

 ここ……怖い……です」


「大丈夫。

 俺たちがついてる」


 ソーマは微笑み返しながらも、

 峠全体から“冷たい呼吸”が聞こえる気がしていた。


 隊長から預かった地図では、

 峠の先に“霊脈の裂け目”があるらしい。


「おい、あれ見ろ」

 ガルムが前方を指した。


 斜面に沿って、

 細長い“黒い線”が走っていた。


「裂けてる……?」

「地割れ? いや……地面じゃないわ」

 セシリアがしゃがむ。


 黒い線は地表に空いているのではなく――

 空気そのものが裂けている。


「空気が……破れてる……?」

 ソーマが青ざめる。


「ここまで露骨なの、初めて見たわ……」

 セシリアの声が震える。


 リュミが両手を胸の前で組み、

 そっと祈るように目を閉じる。


「この裂け目……

 向こう側から“何か”が引っ張ってる……

 すごく、強い……」


「何かって……魔物?」

「魔物……ではありません。

 もっと……方向性が違う……」


 リュミの震える声に、

 背筋が冷える。


 そんな中――


――ザザ……ザ……ッ!!


 ソーマの耳奥が激しく揺れた。


(また……!)


――『……強い降下流こうかりゅう……

   地表への急激な落下……

   “沈降現象ちんこうげんしょう”発生――』


「沈降って……上から下に一気に押しつぶされるやつ!?」

 ソーマが叫ぶ。


「それ……山で起きたら……」

 セシリアの顔が青くなる。


「峠が丸ごと潰れるわ!!」


 ガルムが斧を構える。


「じゃあ急いで原因ぶっ壊すぞ!!」


「乱暴すぎる!!

 でも気持ちは分かる!!」


 だが――


――ザァァァァ……ッ……


 風が逆流した。


「なんだこれ……!!」

 ソーマが身を低くする。


 風が前後左右に揺れ、

 足元の落ち葉があり得ない方向へ吸い込まれていく。


「……嘘……」

 リュミが蒼白になる。


「空の“底”が……下がってきてる……!」


「下がるって……どういうこと!?」


「空が……地面に落ちてくる……!!」


「おいちょっと待てそれ世界終わるだろ!!?」


 セシリアが叫び返す。


「現実に起きてるのよ!!

 霊脈が逆流してる!!

 この峠そのものが“下に引かれてる”!!」


(空が……落ちる……?

 そんなこと、あり得るのか……!?)


 そのとき、

 ソーマの耳に“第二の揺れ”が混ざった。


――『……声を、聞け……』


「またそれ……!?

 誰なんだよ……!」


 ソーマは峠を見回した。


 風の向こう、

 裂け目の奥で――


 誰かの“影”が揺れていた。


「……誰かいる……!」


「ソーマ! 一人で行くな!!」

 ガルムが叫ぶ。


「違う!!

 あれ……人の形じゃない!!」


 影は、ふわりと揺れてこちらを向いた。


 人の輪郭をしているのに、

 中身が空っぽのような――

 “立っているはずのない存在”。


 そしてその影は、

 明確にソーマへ呼びかけた。


『――来たか、“予報持ち(よほうもち)”』


「……っ!?」


 ソーマの背筋が粟立つ。


 リュミが震える声で言った。


「ソーマさん……

 あれ、“この世界の存在じゃない”……!!」


(分かる……

 揺れが……完全に“外側”だ……)


 影は霧のように形を揺らしながら、

 ゆっくりと近づいてくる。


「……お前、誰だ……?」


 影は一拍置き――


『――“君の世界まえせ”の残り火だ』


 その言葉を聞いた瞬間、

 ソーマの心臓が止まった。


(……俺の……世界……!?)

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