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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第一章

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報告と波紋――王都へ帰還

 白い霧が完全に消えたあと――

 残滓ざんしの谷は、嘘のように静かだった。


 揺れていた大地は落ち着き、

 空の色も“普通の灰色”に戻っている。


「……終わったんだよな?」

 ガルムが斧を肩に担ぎながら言う。


「たぶん……終わりました。

 谷の揺れが安定しています」

 リュミが頷く。


 セシリアも魔導具で周囲を確認し、


「残滓濃度も低下してる……

 影主の核が消えたことで、

 この谷の“歪み”がほぼリセットされたのね」


「よし、帰ろうか……

 俺もう足ガクガクなんだけど……」

 ソーマがふらふらと立ち上がる。


「お前は毎回限界まで頑張りすぎなんだよ」

「ガルムは毎回元気すぎるんだよ!!」



 帰り道は、行きとは比べものにならないほど歩きやすかった。


 波打っていた大地は平らになり、

 空気のざらつきも薄れている。


「この谷……

 本当に“落ち着いた”んだね……」

 ソーマが呟く。


 リュミは胸元を見る。


 影の子は、

 リュミの腕に包まれたまま小さく揺れていた。


 先ほどまで不安定だった輪郭は、

 今は“少しだけ暖かさ”を帯びている。


「……眠ってますね」

 リュミが微笑む。


「……この子、どうなるんだろうな」

 ソーマがぽつりと言う。


「世界に馴染むまでは時間がかかるでしょうけど……

 “生きよう”としています。

 それだけで十分ですよ」


「……ああ。

 よかった……」



 王都へ戻る途中、

 ルードが何度も振り返ってはメモを取っていた。


「はあ……はぁ……

 “半消失領域はんしょうしつりょういき”の安定化なんて、

 記録残ってませんでしたよ……!

 すごい……すごすぎる……」


「いや、すごいのはソーマたちよ」

 セシリアが肩をすくめる。


「俺は最後ほぼ走ってただけだぞ」

「走れる時点で化け物なのよあなたは!」


「褒められてる気がしねぇ!」


 いつもの掛け合いが戻ってきた。


 ソーマは思わず笑ってしまう。


(……あぁ……帰ってきたんだ)



 そして――

 王都レウェン北門が、ついに見えた。


 門の前には既に天象庁てんしょうちょうの部隊が待機しており、

 見慣れた人物が一歩前へ出た。


「戻ったか」


 レオン隊長だ。


「レオン隊長……!」

 ソーマが駆け寄る。


「無事で何よりだ。

 ……本当に無事か?」


「えっと……

 まあ、死にかけましたけど無事です!」


「死にかけるな」

「そこは“よく頑張った”とか言って!!」


 レオン隊長は深い溜息をついたあと、

 少しだけ口元を緩めた。


「よくやった。

 ――本当に、よく戻った」


「……っ!」


 その一言は、

 ソーマの胸に重く響いた。



「それで……報告を聞かせてもらおう」

 レオン隊長が促す。


 ソーマは谷で起きたことを順に説明した。


 影主の出現。

 影の子。

 白層への落下。

 ふたつの声。

 そして――“選択”。


 説明を終えたころには、

 隊長だけでなく周囲の職員も静まりかえっていた。


「……影主を“言葉”で止めた、だと?」

 レオン隊長が驚愕の表情で言う。


「まあ……たまたま……?」

「たまたまで済む規模じゃないわよ!!!」

 セシリアが即ツッコミする。


「予報持ち(よほうもち)の能力……

 やはり規格外だな……」

 レオン隊長は腕を組む。


 そのとき――


「その子……」

 リュミの腕の中の“影の子”に気づいたのは、

 隊長の隣にいた天象庁医療班だった。


「これは……生体反応があります!

 でも魔力構造がまったく読めない……!」


「当然よ。

 異世界残滓ざんしに近い構造だもの」

 セシリアがきっぱり言う。


「どうしますか隊長……

 この子……」


 レオン隊長はしばし黙り込み――

 そして決断した。


「保護する。

 ――天象庁の庇護下に置く」


 その返答に、

 ソーマもリュミもほっと息をついた。


「ただし」

 隊長の目が鋭くなる。


「この件はまだ“王家”も“神殿”も知らない。

 全て我々で処理する。

 ……特に“神殿”には絶対に悟らせるな」


「そ、そんな危険なんですか……?」

 ソーマが尋ねる。


「影主の欠片……?

 神殿がその意味をどう解釈するか分からん。

 巫女絡みの“神託”にして奪う可能性もある」


 リュミが小さく身を縮めた。


「じゃあ……」

 セシリアが続ける。


「ソーマたち四人は――

 事の全容を知る“最初の観測者”になったわけね」


「そ……そんな大役……?」

 ソーマの声が震える。


「大役だ。

 だからこそ――守れ」


 レオン隊長は

 影の子をそっと見下ろした。


「この子も、

 お前たち自身もだ」


 その一言に、

 仲間全員が小さくうなずく。



 その帰り道。


 王都の夕暮れは美しく、

 空は淡い赤色に染まっていた。


 ソーマは歩きながら、

 胸の奥のわずかな疼きを感じていた。


(……“影主の欠片”……

 あれは本当にこれでよかったのかな……)


『……ありがとう……』


 ふと耳奥で響いた、あの小さな声。


(……うん。

 あれが答えだ)


 隣ではリュミが

 大切そうに影の子を抱きしめている。


「ソーマさん」

「ん?」


「……おかえりなさい」


「……ただいま」


 その言葉に、

 ソーマはようやく“戻ってきた”実感を得た。

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