表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/207

選択――欠片を抱くか、手放すか

 影主えいぬしが近づくたび、

 谷全体の空気が“ひゅうっ”と冷えていく。


 影の子はリュミの胸元で震え、

 影主の黒い核は脈打つように揺れている。


『……かえせ……

 おれの……かけら……』


「返せ返せって……

 言ってる場合じゃないだろ!!」

 ソーマが叫ぶが、声は揺れる谷に吸われていく。


 ガルムが斧を構え、セシリアが魔導具を展開する。


「いつでもいけるぞ、ソーマ!!」

「攻撃するなら言いなさい!!

 術式は準備できてる!!」


(攻撃か……)

(でも、影主を攻撃したら……この子が……!?)


 リュミは影の子を抱きしめたまま

 ソーマの方を見つめていた。


「ソーマさん……

 “どちらを守るか”じゃありません」


「……え?」


「“あなたが、誰を見捨てられないのか”です」


(……そうか……)


 影主の声は冷たく、

 影の子の声は弱くて消え入りそう。


――ザザ……ザ……


『……さむい……

 こわい……

 ひとりは……いや……』


 その声は、ソーマの耳奥を震わせるたび

 胸が締めつけられた。


(……俺も……ひとりは……嫌だった……

 前世でも……

 こっちに来ても……)


 ソーマの拳が震えた。



「ソーマ。早く決めろ!!」

 ガルムが叫ぶ。


「時間ねぇぞ!

 谷そのものが崩れかけてる!!」


 大地が不規則に揺れ、

 霧が歪み、光が波打つ。


「ソーマさん……」

 リュミが静かに言う。


「わたしは……

 あなたの選ぶ方を支えます」


 その一言で――

 ソーマの迷いが、すっと晴れた。


「……決めたよ」


 影主が核を震わせ、

 影の子がリュミにしがみつく。


 ソーマは深呼吸し、

 二人の間に立った。



「――この子は渡さない」


 影主の核が“濁った鼓動”を打つ。


『……なぜ……』


「この子は“欠片”かもしれないけど……

 それ以前に“助けを求めた声”だ」


『……おれの……もの……』


「違う。

 “もの”じゃない」


 ソーマは影主を真っ直ぐ見た。


「落ちてきて、さまよって、

 寒くて、怖くて……

 それでも“助けて”って言ったんだ。

 ――俺は、その声を無視できない!!」


 影主の核が大きく震えた。


『……それは……

 ゆるされない……』


「許されなくても構わない!!

 でも、見捨てることだけはできない!!!」



 その瞬間――

 リュミがソーマの背へそっと手を添えた。


「……わたしも同じ気持ちです」


「リュミ……」


「この子は生きたいと言っています。

 “影主の一部”であろうと……

 それ以上の“想い”を持っている……

 そう感じます」


 影主の白い膜が震えた。


『……わからない……

 その声は……

 おれではない……』


「そうだよ。

 この子はもう“あなたの欠片”じゃない。

 “一つの声”なんだ」


 影主の核に、ヒビが入った。


――ピシィ……


『……声……

 おれの……?

 おれ……じゃ……ない……?』


 まるで混乱するように、

 影主の輪郭が不安定になる。



 セシリアが息を呑む。


「ソーマ……!

 そのまま“揺れ”を固定して!!

 影主が自分と欠片の境界を見失いかけてる!!」


「つまり!?」

「つまり!

 ソーマの言葉が“核の揺れ”に効いてるのよ!!」


「言葉で倒せるの!?」

「倒すんじゃなくて“理解させる”の!!」


「それが一番難しいんだよ!!!」


 ガルムが叫ぶ。


「うるせぇ!!

 とりあえず続けろ!!

 ソーマの言葉が一番効いてんだから!!」


「なんで俺が影主の説得係なんだよ!!!」


「チーム内で一番“話が通じるタイプ”だからだ!!」

「それ俺が一番イヤだよ!!」


(でも……やるしかない……!!)



 ソーマは影主の揺れに集中する。


 影主の声と影の子の声が

 わずかに重なっている。


(この揺れ……

 “別れたい”と“戻りたい”が混ざってる……

 まるで自分の意思と残滓が喧嘩してるみたいに……)


「影主……!」


 ソーマは踏み込んだ。


「お前は、この子を“自分”だと思ってる。

 でもこの子は――

 もう“別の存在”なんだ!!」


『……べつ……?』


「そうだ。

 お前の一部だったかもしれない。

 でも、この子は“お前じゃない未来”を見てる!!」


『……みらい……』


「返せ返せって言うけど……

 この子は戻りたいなんて言ってない!!

 “助けて”って言ったんだ!!

 なら――

 守らなきゃいけないだろ!!」


 影主の輪郭が、ふっと揺れる。


『……まもる……?

 おれが……?』


「違う!!!」


 ソーマは叫ぶ。


「俺たちが守る!!

 だから――

 お前はこの子から“手を離せ”!!」


 白い谷が、一瞬静まった。


 影主の核が震え、

 影の子の揺れが落ち着く。


 そして――


『……わかった……』


 影主は、一歩だけ下がった。


『……そのこは……

 もう……“おれ”じゃ……ない……』


 リュミの腕の中で、影の子が小さく震える。


『……いきて……

 いい……の……?』


「もちろんです」

 リュミが優しく答えた。


「あなたは……あなたです」


 影主が静かに溶けるように霧散し――

 谷の黒い亀裂が閉じていった。


――――スゥ…………


 すべてが、静かになった。



「……やった……?」

 ソーマが呆然と呟く。


「ソーマ……

 本当にやりきったな……」

 ガルムがぽんと肩を叩く。


「ソーマさん……

 すごかったです……」

 リュミが微笑む。


「いや……俺も……

 こんな展開は知らないよ……?」


 セシリアが腕を組む。


「でも……

 あんな存在を“話し合いで”止めた人、

 たぶん世界初よ。

 誇りなさい。

 ちょっとだけ」


「ちょっとだけなんだね!!?」


 谷全体の霧が晴れ、

 影主の残り香だけが静かに風に溶けていく。


 ソーマは息をついた。


(……よかった……

 本当に……よかった……)


 だが――

 そのとき耳奥に、別の揺れが走った。


――ザ……ザァ……


(……え……?)


 弱い声が一言だけ囁いた。


『……ありがとう……』


 その声に、ソーマは確かに応えた。


「……どういたしまして」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ