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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第一章

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崩落――世界が裏返る瞬間

 真っ白な光が爆ぜ、

 音が消えた。


 世界が“息を止めた”ような静寂。


 次の瞬間――

 床だったはずの白層はくそうが、

 ぱきん、と氷のように割れた。


「やばっ……!!

 リュミ、掴まって!!」

 ソーマが叫ぶ。


 リュミはソーマの手をしっかり握り返しているが、

 その足元はぐらぐらと沈む。


「ソーマさんっ……!!

 足場が……!!」


「大丈夫、まだ“落ちてない”!!」


 そう言いながらも、

 白層は次々に裂けていく。


――パキ、パキパキパキィィ!!


 響きは空間全体に広がり、

 白い世界が“瓦解がかい”していく。



 ソーマは腕に抱えた“影の子”を確認した。


 子どもは形を持たない影の輪郭に近く、

 小さな体を丸めて震えている。


『……さむい……さむい……』

『……こわい……おちる……』


(大丈夫……まだ助けられる……)


 そう言い聞かせようとした瞬間――


――ビシィィィ!!!


 頭上からも“白い天井”が割れた。


「上も割れるの!?!?」

「ソーマさんっ、早く……!!」


 リュミが必死に叫ぶ。


 白い破片が雨のように降り注ぎ、

 触れるとふわりと霧のように消える。

 それなのに、なぜか“質量”を感じる。


 まるで夢が壊れていくようだ。



『戻れッ!! 二人とも!!』


 鋭い声が響く。


 ソーマは振り返ったが、姿は見えない。

 声が、どこから来ているのか分からない。


「誰だ……!?

 さっきから警告してくる声……!」

 ソーマが叫ぶ。


『ここは“死層しそう”だ!!

 生きた者が長くいれば、魂が摩耗まもうする!!

 早く出ろ!!!』


「死層……って……

 魂まで削られるってこと?」

 リュミの顔が青ざめる。


『その子を連れていくな!!

 “落ちかけたもの”は世界を歪める!!』


「落ちかけたもの……?」

 ソーマが顔をしかめる。


『その子は“どちらの世界にも属していない”!!

 そのまま持ち帰れば――

 どちらかが崩れる!!!』


 ソーマの心臓が止まりかけた。


(……どちらかが……崩れる……?

 アステリアか……

 前世の世界か……)


 影の子は震えながら、

 小さな声で囁いた。


『……ひとりに……しないで……』


「っ……!」


(どうすれば……

 この子を見捨てれば……助かる……?

 でも……見捨てられるかよ……!)


 逡巡している間にも――

 白層は崩れ続けていく。



 ガンッ!!!


 白い床の破片が大きく裂け落ちた。


「ソーマさん!!」

 リュミが叫ぶ。


 ソーマは覚悟を決めた。


「……リュミ。

 この子、抱えてて」


「わたしが……?」


「俺が前に出る。

 出口を探す……!!」


「……はい!!」


 リュミは震える影の子を胸に抱きしめ、

 その手でそっと包む。


「大丈夫……大丈夫ですよ……

 もう寒くないから……」


 その優しい声に、

 影の子の揺れがわずかに落ち着いた。


(よし……いける……)



 ソーマは耳奥の揺れに意識を集中させた。


 雑音は混ざっているが、

 微かに“出口の揺れ”がある。


(……南東……!)


「リュミ、こっち!」

「分かりました!」


 二人は崩れる白層を走る。


 足元が沈む。

 空間が波打つ。

 視界が歪む。


 白い世界が“音もなく崩落していく”なか――

 二人は呼吸の音すら失いながら突き進んだ。



 裂けた壁の向こう――

 淡い青の光が見える。


「出口……!」

 ソーマの声が震える。


『来るな……!!

 戻れ……!!』


 警告の声が響くが――

 ソーマは振り返らなかった。


『……いっしょ……

 いっしょ……』


 影の子が、リュミの胸の中で小さく震える。


(そうだ……一緒に帰るんだ……)


「リュミ!!

 飛ぶぞ!!!」


「はいっ!!」


 そして――

 二人は青の光へと飛び込んだ。



 光が弾けた。


 白層が、背後で完全に崩落する。


――――バキィィィンッ!!!


(間に合った……!?)


 重力が戻り――


 ソーマたちは、現実の大地に叩きつけられた。


 ドサッ!!


「いっっったぁぁぁぁ!!!」

 ソーマが派手に転がる。


「ソーマさんっ!!

 大丈夫ですか!!?」

 リュミが慌てて駆け寄る。


「俺は全然大丈夫じゃない!!

 背中砕けたかもしれん……!!」


「いや、砕けてはないだろ」

 ガルムの声が頭上から降りてきた。


「お前……!!

 生きてた!!」


「お前が勝手に落ちてったんだろうが!!」


 セシリアも息を切らしながら歩み寄る。


「まったく……!

 何回死にかければ気が済むのよアンタ!!」


「いや、俺だって好きで落ちたわけじゃ……!」


 そんな騒ぎの中で――


「……あ……」


 リュミが腕の中を見た。


 影の子が、

 まだ小さく、弱々しく揺れていた。


 光にあてられ、

 姿が少しだけ“明確な輪郭”を持ち始めている。


「……この子……

 本当に……落ちかけてた……」


 ソーマは息を呑んだ。


(助けることはできた……

 だけど……本当にこれでよかったのか……?)


 そのとき――


――ザザ……ザ……ッ。


 耳奥に最後の揺れ。


『……ありが……とう……』


 弱い、温かい声だった。


 ソーマは拳を握った。


(……救えてよかった……)


 だがその直後――

 谷の奥から“異様に冷たい風”が吹いた。


「っ……なに……!?」

 リュミが肩を震わせる。


「……影の気配が……濃くなってきてる」

 セシリアが顔を上げた。


 ソーマの耳奥にもはっきり聞こえる。


――ザ……ザザァ……。


 声が変わった。


 さっきまでの弱い声ではなく、

 圧のある、低い揺れ。


(……誰だ……?

 誰か……“別の存在”が……)


 その直後――

 谷の中央から、黒い亀裂が音もなく走った。


――ピシ……ピシィッ……!!!


 ガルムが斧を構え、低く唸る。


「……来るぞ」


 影の“主”が、ようやく姿を表そうとしていた。

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