境界帯へ――揺れる空と割れた大地
王都の北門を出てしばらく歩くと、
景色は徐々に“普通ではないもの”へ変わり始めた。
街道沿いの林は緑のはずなのに――
ところどころ色が“抜け落ちて”いる。
「あれ……木の葉、色が……」
リュミが思わず手を伸ばす。
葉のはずが、触ると
ざらつく“紙切れ”みたいに崩れた。
「……うわ」
「世界のバグか?」
ガルムが顔をしかめる。
「残滓が多すぎて、存在が混線してるのよ」
セシリアは冷静に観察して説明する。
「混線って言い方やめて!
急に難しそう!!」
ソーマがすかさずツッコミ。
「実際難しいのよ」
「じゃあもっと優しく言って……」
「世界が“疲れてる”状態」
「擬人化が急!!」
そんな軽口を挟みつつ、進んでいく。
◆
数時間歩くと――
景色はさらに“不自然さ”を増していた。
地面が波打つように盛り上がり、
大地そのものが脈打つように“ふるふる”と揺れている。
「……これが“境界帯”」
案内役ルードの声が少し震えていた。
「大丈夫なのかここ……
地面が“呼吸”してない?」
ソーマが思わず言う。
「それ霊脈の流れよ。
本来は地下深くで流れてるものが、
ここでは地表近くに浮き上がってるの」
セシリアが説明する。
「つまり?」
ガルムがシンプルに聞く。
「つまり――踏むとたまに跳ねる」
セシリアが真顔で言う。
「跳ねる!?」
「跳ねます」
リュミが断言。
そして――
ぼよん。
「うわぁ!!??」
ソーマが謎のジャンプをする。
地面がまるでトランポリンみたいに一瞬沈んで跳ねたのだ。
「ほら言った」
セシリアのドヤ顔。
「言ったじゃなくてさ!!
危険だよこれ!!」
「ソーマさん大丈夫ですか……!」
リュミが慌てて袖を掴む。
「おい!はしゃぐな!危ねぇぞ!」
「はしゃいでないよ!地面に跳ばされたの!!」
「いや、なんか楽しそうだったから」
「一ミリも楽しそうじゃないよ!!!」
◆
さらに進むと、空の色まで変わり始めていた。
青と白の“境界線”が揺れ、
一部がグレーににじんでいる。
「空が……滲んでる……?」
ソーマが仰ぐ。
「これは霊脈だけじゃなく、
“空の層”も薄くなってる証拠ね……」
セシリアがため息をつく。
「空の層って何?」
ガルムが首をかしげる。
「空の膜よ」
「膜。」
「膜なんだよ。」
セシリアとリュミが簡潔すぎる説明をしてくる。
「雑ゥ!!!」
ソーマが叫ぶ。
「でも事実です」
リュミがこくんと頷く。
その優しい頷きが妙に説得力を持っていて、
ソーマは反論できなかった。
◆
道が細くなる。
足元には無数の“裂け目の線”――
ただし深くはない、小さなヒビだ。
ルードが立ち止まり、慎重にいう。
「ここから先は――
《半消失領域》の端です」
「端?」
ソーマが息を呑む。
「この先に踏み込むと、
空間がゆがみ始めます。
来た道に戻るつもりでも、
“道が同じ位置に存在しない”ことがある」
「こわ……」
ソーマの背に汗が流れる。
「でも安心しろソーマ」
ガルムが肩を叩く。
「安心できねぇよガルムの“安心しろ”は信用できない」
「なんでだよ!!?」
「あなた、
たまに方向音痴ですし……」
リュミが小さく補足する。
「おい巫女!!
そこは優しく嘘ついて!!!」
ガルムが呻いた。
「……正直でいいと思うわ」
セシリアがさらっと言う。
「なんで全方向から刺してくるの!!?」
◆
そんな会話をしていると――
――ザザ……ザ……ッ。
ソーマの耳奥に再び揺れが走る。
『……さむい……
こわい……
おちて……ない……』
(……同じ声……)
寒さと恐怖を訴える、
頼りない声。
その直後――
――キィ……ン……
耳の奥に、金属がこすれるような痛み。
「っつ……!」
「ソーマさん!!?」
リュミがすぐに支える。
セシリアも駆け寄る。
「また声……!?
どういう内容!?」
「……“そこ”に……いる……」
ソーマは震える声で答えた。
「“谷”の奥に……
まだ落ちきってないものが……
“引っかかってる”……!」
「引っかかってる……?」
ガルムが眉をしかめる。
「裂け目……か、
別世界の残滓が……
“半分だけ落ちた状態”……?」
セシリアの言葉に、リュミが静かに頷いた。
「その可能性……高いです。
すごく……不安定です」
風が冷たく吹き抜けた。
ルードが深く息を吸い、言い切る。
「……この先が《残滓の谷》です。
戻るなら、ここが最後です」
ソーマは前を見た。
揺れる空。
裂けた大地。
深い霧と、薄い空気。
(……でも行くしかないんだ)
「行こう。
――呼ばれてるから」
仲間が頷いた。
世界の継ぎ目へ。
“影”が落ちかけた場所へ。
一行は、境界の裂け目へと踏み込んだ。




