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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第一章

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28/207

境界帯へ――揺れる空と割れた大地

 王都レウェンの北門を出てしばらく歩くと、

 景色は徐々に“普通ではないもの”へ変わり始めた。


 街道沿いの林は緑のはずなのに――

 ところどころ色が“抜け落ちて”いる。


「あれ……木の葉、色が……」

 リュミが思わず手を伸ばす。


 葉のはずが、触ると

 ざらつく“紙切れ”みたいに崩れた。


「……うわ」

「世界のバグか?」

 ガルムが顔をしかめる。


残滓ざんしが多すぎて、存在が混線してるのよ」

 セシリアは冷静に観察して説明する。


「混線って言い方やめて!

 急に難しそう!!」

 ソーマがすかさずツッコミ。


「実際難しいのよ」

「じゃあもっと優しく言って……」


「世界が“疲れてる”状態」

「擬人化が急!!」


 そんな軽口を挟みつつ、進んでいく。



 数時間歩くと――

 景色はさらに“不自然さ”を増していた。


 地面が波打つように盛り上がり、

 大地そのものが脈打つように“ふるふる”と揺れている。


「……これが“境界帯きょうかいたい”」

 案内役ルードの声が少し震えていた。


「大丈夫なのかここ……

 地面が“呼吸”してない?」

 ソーマが思わず言う。


「それ霊脈れいみゃくの流れよ。

 本来は地下深くで流れてるものが、

 ここでは地表近くに浮き上がってるの」

 セシリアが説明する。


「つまり?」

 ガルムがシンプルに聞く。


「つまり――踏むとたまに跳ねる」

 セシリアが真顔で言う。


「跳ねる!?」

「跳ねます」

 リュミが断言。


 そして――


ぼよん。


「うわぁ!!??」

 ソーマが謎のジャンプをする。

 地面がまるでトランポリンみたいに一瞬沈んで跳ねたのだ。


「ほら言った」

 セシリアのドヤ顔。


「言ったじゃなくてさ!!

 危険だよこれ!!」


「ソーマさん大丈夫ですか……!」

 リュミが慌てて袖を掴む。


「おい!はしゃぐな!危ねぇぞ!」

「はしゃいでないよ!地面に跳ばされたの!!」


「いや、なんか楽しそうだったから」

「一ミリも楽しそうじゃないよ!!!」



 さらに進むと、空の色まで変わり始めていた。


 青と白の“境界線”が揺れ、

 一部がグレーににじんでいる。


「空が……にじんでる……?」

 ソーマが仰ぐ。


「これは霊脈だけじゃなく、

 “空のそう”も薄くなってる証拠ね……」

 セシリアがため息をつく。


「空の層って何?」

 ガルムが首をかしげる。


「空のまくよ」

「膜。」

「膜なんだよ。」

 セシリアとリュミが簡潔すぎる説明をしてくる。


「雑ゥ!!!」

 ソーマが叫ぶ。


「でも事実です」

 リュミがこくんと頷く。


 その優しい頷きが妙に説得力を持っていて、

 ソーマは反論できなかった。



 道が細くなる。


 足元には無数の“裂け目の線”――

 ただし深くはない、小さなヒビだ。


 ルードが立ち止まり、慎重にいう。


「ここから先は――

 《半消失領域はんしょうしつりょういき》の端です」


「端?」

 ソーマが息を呑む。


「この先に踏み込むと、

 空間がゆがみ始めます。

 来た道に戻るつもりでも、

 “道が同じ位置に存在しない”ことがある」


「こわ……」

 ソーマの背に汗が流れる。


「でも安心しろソーマ」

 ガルムが肩を叩く。


「安心できねぇよガルムの“安心しろ”は信用できない」

「なんでだよ!!?」


「あなた、

 たまに方向音痴ですし……」

 リュミが小さく補足する。


「おい巫女!!

 そこは優しく嘘ついて!!!」

 ガルムが呻いた。


「……正直でいいと思うわ」

 セシリアがさらっと言う。


「なんで全方向から刺してくるの!!?」



 そんな会話をしていると――


――ザザ……ザ……ッ。


 ソーマの耳奥に再び揺れが走る。


『……さむい……

 こわい……

 おちて……ない……』


(……同じ声……)


 寒さと恐怖を訴える、

 頼りない声。


 その直後――


――キィ……ン……


 耳の奥に、金属がこすれるような痛み。


「っつ……!」


「ソーマさん!!?」

 リュミがすぐに支える。


 セシリアも駆け寄る。


「また声……!?

 どういう内容!?」


「……“そこ”に……いる……」

 ソーマは震える声で答えた。


「“谷”の奥に……

 まだ落ちきってないものが……

 “引っかかってる”……!」


「引っかかってる……?」

 ガルムが眉をしかめる。


「裂け目……か、

 別世界の残滓ざんしが……

 “半分だけ落ちた状態”……?」


 セシリアの言葉に、リュミが静かに頷いた。


「その可能性……高いです。

 すごく……不安定です」


 風が冷たく吹き抜けた。


 ルードが深く息を吸い、言い切る。


「……この先が《残滓の谷》です。

 戻るなら、ここが最後です」


 ソーマは前を見た。


 揺れる空。

 裂けた大地。

 深い霧と、薄い空気。


(……でも行くしかないんだ)


「行こう。

 ――呼ばれてるから」


 仲間が頷いた。


 世界の継ぎ目へ。

 “影”が落ちかけた場所へ。


 一行は、境界の裂け目へと踏み込んだ。

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