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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第一章

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27/207

残滓の谷へ出発――境界の風へ

 北門へ向かう途中――

 王都レウェンは朝陽を浴びて輝いていたが、

 どこか“色が薄く”見える気がした。


(……いや、気のせいじゃない。

 世界の揺れが昨日からずっと“浅い”……

 まるで呼吸が浅い人みたいに……不安定だ)


 ソーマの耳奥には、

 微かなざらつきが絶えず漂っていた。


――ザ……ザ……。


(……あれが《残滓ざんしの谷》からの声……

 呼ばれてる……)


 そんな不安を抱えつつ北門へ到着すると――


「おーい!! こっちだ!!」


 門横で手を振っている人物がいた。


 中背で痩せ気味、

 眼鏡をかけた青年術士。


「……誰?」

 ソーマが小声でリュミに訊く。


「天象庁の……地形観測ちけいかんそく担当の人です」

 リュミが答える。


「ああ、“地形オタク”のルードか」

 ガルムがぽんと手を叩いた。


「地形オタクって言うな!!」

 青年術士――ルードが全力で抗議した。


「お前、図星だろ」

「図星なのは否定しねぇけど言わなくていいだろ!!」


 だいぶ扱いが雑だった。



 ルードが咳払いし、丁寧に頭を下げた。


「初めまして予報持ち(よほうもち)殿。

 今回、案内役を務めますルード・アルマンです」


「あ、どうも……ソーマです」

 ソーマも頭を下げる。


「で、ルード。

 “例の場所”はどうやって行くんだ?」

 セシリアが本題に切り込む。


 ルードは地図を広げ――

 いきなり真ん中を指で“つまむように”持ち上げた。


「えっ……何して……」


「ここです」


「地図が曲がった!?!?」

 ソーマが叫ぶ。


「あー……これ“地形重奏ちけいじゅうそう”だな」

 ガルムが適当に言う。


「何それカッコつけた適当ワード!?!?」

 ソーマが即ツッコミ。


 ルードは説明した。


「《残滓の谷》は本来、

 地図に載る“層”とは別の地形に属しているんです。

 大陸の境界がずれるとき――

 地形そのものが“二重化”することがあって」


「に、二重化……?」


「はい。

 その“上層”と“下層”の狭間に、

 半消失領域はんしょうしつりょういきができる。

 そこが……《残滓の谷》です」


「ちょっと待って理解が追いつかない!!」

「簡単に言うと――」


 セシリアが指三本で説明する。


「大陸が動く → 地形がズレる → 空白スキマができる → 落ちると死ぬ」


「最後だけ急に物騒!!」


「うるさいわね、事実でしょ」

「否定はしないけど言い方!!」



 ルードは地図を直し、

 重い言葉を残した。


「《残滓の谷》は……

 “世界が失敗した場所” と言われています」


 風がひんやりと冷たい。


「失敗……?」

 リュミが呟く。


「世界が世界であるために、

 本来流れるはずの霊脈れいみゃくが“途切れる”場所。

 空が歪み、大地が波打ち、

 迷ったら二度と出られないと言われています」


「二度と……?」

 ソーマの心臓が跳ねる。


「安心しろ。

 お前たちは戻ってくる」

 ガルムがにやりと笑う。


「根拠は?」

 セシリアが冷たい目を向ける。


「気合い」

「最悪の根拠!!」


 リュミがほわっと微笑んで言う。


「大丈夫ですよ……ガルさんの“気合い”は、

 だいたい本当に何とかなるので……」


「フォローになってるようでおかしいからねそれ!!」

 ソーマが叫ぶ。


――その時。


――ザザ……ザ……。


 ソーマの耳奥に揺れ。


『……さむ……い……

 こわ……い……

 おち……て……ない……』


「っ……!」


「ソーマさん!!?」

 リュミが支えた。


「また声か!?」

 ガルムが剣を抜きかける。


「違う……

 敵意じゃない……

 ただ……“寒い”って……」


「寒い?」

 セシリアが眉をひそめる。


「《残滓の谷》の気温は低い。

 霊脈が途切れているせいで温度が下がるんだ」

 ルードが補足する。


「ってことは……」

 ソーマが呟く。


(あの声は……

 本当に“谷”から呼んでる……)


「……助けを求めてるのかもしれない」


 リュミが静かに言った。


「あの影の……“残った部分”が……?」


「そうだろうな」

 ガルムが腕を鳴らす。


「行くしかないだろ、ソーマ」


「……ああ。

 行かなきゃ……」



 門兵が門を開ける。


――ギギィ……。


 外気が冷たく、

 王都とは違う空の色が広がった。


 ルードが先頭に立つ。


「では案内します。

 《残滓ざんしの谷》へ」


 ソーマたちは深呼吸し、

 境界の地へ足を踏み出した。


 世界の“継ぎ目”へ。


 誰かの「助けて」が届いた場所へ。

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