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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第一章

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戦後処理と、測候院の思惑

 影災えいさいの翌朝――

 王都レウェンは、昨日の混乱が嘘のように“静か”だった。


 とはいえ、あちこちに瓦礫がれきや黒い影跡が残り、

 街中には朝から天象庁てんしょうちょうと市民が

 慌ただしく動き回っている。


 そんな中――

 ソーマたちは、天象庁本部の一角にある医務室で

 まとめて“仮検診”を受けることになっていた。


「……うう、腕上げるの痛い……」

 ソーマが肩をぐるぐる回す。


「お前は昨日、影鳥にぶっ飛ばされてたからな」

 ガルムが隣で腕組みをしている。


「ぶっ飛ばされてねぇよ!

 ちょっとよろけただけだよ!!」


「いや、完全にぶっ飛んでた」

「ぶっ飛んでましたよ」

「ぶっ飛んでたわね」


 三方向からの満場一致。


「お前ら……!!」


 その横で、リュミエールはというと――


「……あっ、ソーマさん。

 昨日の風壁の反動で……腕のところだけ日焼けみたいに赤いです」

「えっ!?なんで!?」


風聖術ふうせいじゅつは、魔力熱が皮膚に残るんです。

 私は慣れてるから大丈夫ですけど……ソーマさんは……」


「慣れないよ!!

 変なところ赤くなってたら恥ずかしいじゃん!!」


「……それは……えっと……恥ずかしいですね」

 リュミが小さくうつむく。


「いや照れなくていいから!!」

 ソーマの顔が逆に赤くなる。


 セシリアがコホンと咳払いした。


「はいはい、仲良くするのは後にして。

 今は“検診”。

 昨日あれだけ影を浴びたんだから、

 念のため“影気えいき残存”のチェックが必要よ」


 医務官が入室し、三人を順番に診る。


「異常なし。

 影化えいかの進行も、魔力汚染も見られない。

 ただし――」


「ただし?」

 ソーマが身構える。


「あなたは耳の負担が大きいようだ。

 睡眠を多めに取りなさい」


「ですよねー……」

 ソーマは頭を抱えた。


「むしろよく“あんな揺れ”を受け止められたわね」

 セシリアが感心したように言う。


「それは……なんとなく……耳の奥で“形”が分かるんだよ。

 説明できないけど」


「それ説明してるようで全然説明してないのよ」

「ごめんって……」


 そんな軽口を交わしていた時――


「失礼します」

 静かなノック音。


 入ってきたのは、白い外套がいとうをまとった女性だった。


「……測候院そっこういん……!」

 セシリアが表情を引き締める。


 女性は落ち着いた声で名乗る。


「測候院・情報記録部、

 アステル・ルフレと申します」


 年齢は30ほど。

 柔らかい微笑みなのに、目だけが鋭い。


(……この人……ただ者じゃないな)


「昨夜の影災えいさいについて、

 あなた方から事情を伺いたく参りました」


「情報聞き出しに来たか……」

 ガルムが小声でぼやく。


「すぐ疑うんじゃない!!」

 セシリアが小突く。


 アステルは淡々と言った。


「王都上空に開いた“裂け目”。

 そしてその中から現れた影たち。

 これは、測候院の予測史上“前例のない事象”です。

 ――ですが」


 視線がソーマに向けられる。


「あなたは、事前に“揺れ”を把握していたとか」


「……まぁ、少しは……」


「“少し”では済みません。

 天象庁隊長レオン殿からも報告がありました。

 “予報持ち(よほうもち)”の能力が戦局を左右した、と」


 ソーマの胃がキュッと縮む。


(ヤバい……嫌な方向に話が進んでる……)


 アステルは優雅に微笑んだ。


「あなたの耳に聞こえる“予兆音”――

 ぜひ、その仕組みを測候院で調査させていただきたいのです」


「えええええぇぇぇぇ!??」

 三人の大絶叫。


「いやいやいやいや!!

 俺の耳のことは……その……なんというか……

 どう説明したらいいか……!!」


「説明できないなら、なおさら調査する価値がありますね」


「ちょっと待って!!

 勝手に決めないで!!」


「もちろん強制ではありません」

 アステルは微笑む。


(絶対強制じゃん……この言い方……!!)


「ただし、王都の安全のためにも必要な調査です。

 協力していただけない場合――」


 ソーマの背にぞわっと冷たいものが走る。


「――天象庁全体の任務に制限がかかる可能性があります」


「制限!?」

「はぁ!?」

「えっ、それ困る!!」


 三方向から反応が飛ぶ。


(うわあああぁぁ……!!!

 完全に逃げられない空気になってる……!!)


 そんな中――

 リュミが一歩前に出た。


「……測候院さん」

 いつもの柔らかい声ではなく、

 珍しく芯のある声だった。


「ソーマさんの能力は……

 世界にとって大切なものだと思います。

 だからこそ、無理に調べたり、

 本人が嫌がる形で扱われるべきではありません」


 アステルの目がわずかに揺れた。


「……なるほど。

 “白光の巫女はっこうのみこ”の言葉ですね」


「えっ……」

 リュミが目を丸くする。


「あなたの同調どうちょう能力は

 測候院でも注目されているのですよ。

 ――もちろん、あなたも調査対象です」


「えっ……えっ……!?!?」

 リュミの顔が一気に青くなる。


「リュミのことまで……!!」

 ソーマが思わず前に出る。


「待ってください!

 リュミを巻き込まないでください!!」


「巻き込む?構いませんよ」

 アステルの声は変わらず柔らかい。


「あなた方はセットですから」


「セット!?!?」

 三方向からの大絶叫(本日二度目)。


(どんな認識だよそれ……!!

 セットって……コンビ扱いか!?

 いや否定はしないけど!!)


 アステルは最後に淡々と告げた。


「後ほど正式な通達を送ります。

 測候院はあなたの協力を求めています。

 ――拒否権はありますが、推奨はしません」


(…………結局、脅されてる……!!)


 アステルが退室すると同時に、

 三人の肩から一気に力が抜けた。


「なぁ……ソーマ……」

 ガルムがぽつりと呟く。


「お前……ほんとに大丈夫か?

 なんか……世界中に見つかってきてねぇか……?」


「……だよなぁ……

 俺……予報聞いてるだけなのに……

 なんでこんなことになってるんだ……?」


 セシリアがため息をつく。


「それが“未知の能力”を持つってことよ。

 でも……」


「でも?」

 ソーマが振り返る。


「……私たちがついてるでしょ」


 セシリアは照れ隠しのように視線を逸らした。


 リュミもそっと笑う。


「はい。ソーマさんは一人じゃありません」


 ガルムは胸を拳で叩いた。


「何が来ようが、ぶっ飛ばすだけだ!!」


(……なんだよ……

 結局、心強いじゃん……)


 ソーマは小さく笑った。


 だが――

 その直後、耳奥に微かな揺れが走る。


 昨日のとは違う、

 もっと弱く、もっと遠い揺れ。


(……なんだ?)


――ザ……ザ……。


 小さな、かすれた声が紛れ込む。


『……み……つ……け……て……』


「……!!」


 ソーマは思わず身を震わせた。


(また……声……!?

 “見つけて”……?

 何を……? 誰を……!?)


 戦いは終わっても、

 “影の声”はソーマを離してくれなかった。

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