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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第一章

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戦闘後の静寂と、影が残したもの

 原初影げんしょえい霧散むさんし、

 空の裂け目がゆっくり閉じていくと――


 王都レウェンに、

 久しぶりの“静かな風”が吹いた。


 その風は、

 どこか泣いているような、

 それでいて安堵あんどするような、不思議な風だった。


「……終わった、のか?」

 ガルムが斧を肩にかついだまま、息をつく。


「とりあえず……ね」

 セシリアが魔導パネルを閉じながら、肩を落とす。


 リュミエールは地面に座り込んでいた。

 風壁を何度も展開し、全身が震えている。


「リュミ!!」

 ソーマが駆け寄る。


「だ、大丈夫です……。ちょっと……疲れただけで……」


「ちょっとのレベルじゃなかったよ!!

 風壁三連続とか、絶対無茶だった!!」


「でも……みんなが……無事で……」

 リュミは微笑む。


(……ほんと……強い子だ……)


 ガルムもドカッと隣に座り込んだ。


「お前ら……俺の斧の方が疲れてんだぞ……」

 と言いつつ、誰より息が上がっている。


「ガルムさんが一番重労働でしたよ」

 リュミが笑う。


「だろ!?もっと褒めてくれ!」


「はい、よく頑張りましたね」

 リュミが素直に褒める。


「なんか……先生みたい……」

 ガルムが照れる。


 セシリアが呆れる。


「あなたたち……戦い終わった瞬間に日常に戻らないでよ……。

 私はまだ心拍数が200近いんだからね」


「200はウソだろ!!」

 ソーマがツッコミを入れる。


「ハァ!? 本当に200あったら死ぬでしょ!!」

 セシリアが自分でさらにツッコんでいた。


 ――と、その時。


 ソーマの視界に、“黒い染み”が映る。


「……あれ」

 地面の端が影色に染まったまま。

 原初影が触れた跡だ。


影化えいかの跡。触らないで」

 セシリアが即座に警告する。


「触らないよ!!」

「触っちゃダメよソーマ!!」

「触らねぇって言ってんだろ!!」


 三方向から過保護なツッコミが飛ぶ。


「でも……どうすればいいんだ?」

 ソーマが影化跡を見つめながら呟く。


「普通は……時間で自然回復するはずなんだけど」

 セシリアが眉をひそめる。


「でも今回のは……“別世界の残滓ざんし”。

 浄化しない限り、黒いまま残る可能性がある」


「浄化って、どうやって……?」

 リュミが心配そうに尋ねる。


神殿しんでんの結界術か、測候院そっこういんの高等術式ね。

 私たちじゃ手出しできないわ」


(神殿か……測候院……

 どっちも“俺の予報”を狙ってくる組織じゃん……)


 ソーマの胃がきゅっと縮む。


「ソーマさん……?」

 リュミが覗き込む。


「あっ、いや……何でもない」

 ごまかすように頭を振った。


 すると――


天象庁てんしょうちょう部隊、到着!!!

 負傷者を確認しつつ前線の後処理に回れ!!」


 遠くから複数の足音が近づいてきた。


「あ、来た」

 セシリアが軽く手を振る。


 天象庁の制服を着た術士や兵士が走り込み、

 周囲の残滓ざんし濃度を量り始める。


 その中で、ひときわ大きな影が近づいてきた。


「おう、お前ら!!」

 鉄のように分厚い声。


「レ、レオン隊長……!!」

 ガルムがびしっと直立した。


 天象庁第一部隊長――

 レオン・ファルガード。

 ガルムの元上司であり、

 “天象庁の壁”と呼ばれる重戦士だった。


「なんだお前。死にそうな顔してるくせに、よく立ってたな」

「隊長こそ……鎧凹んでますけど……」


「気にすんな。さっき巨大な影に踏まれただけだ」

「踏まれた!?」


 ソーマが思わず声を上げた。


「まぁ、お前らが止めてくれたんだろ。

 助かった。礼を言う」


「い、いえ……!」

 ソーマは思わず背筋を伸ばす。


 レオン隊長がソーマを見る。


「お前が……噂の“予報持ち(よほうもち)”か」


 ソーマの心臓が跳ねた。


(来た……絶対この話題来ると思ってた……!!)


「え、えっと……その……」

「緊張すんな。褒めてんだよ」


「へっ!?」

「お前の指示がなきゃ、俺たちも王都も大損害だっただろ」

「え!?あ、はぁ……」


 ソーマはあまり褒められるタイプじゃないので混乱した。


 しかし、レオン隊長の顔はすぐ厳しくなる。


「だが――

 “あの裂け目”はまだ終わっていない」


「!」


「空に残った霊脈の亀裂……

 あれは完全に閉じきっていない。

 測候院と神殿が合同で解析することになるだろう」


(合同……!!

 よりによってこの二つが……!!)


 ソーマの顔が青ざめた。


 リュミが不安そうに袖を引く。


「ソーマさん……?」


 レオン隊長は続ける。


「戻ったら話を聞かせてもらうぞ。

 “お前が何を見たのか”。

 そして――」


 視線が鋭くなる。


「あの影が“何を言ったのか” もな」


「……!!」


(聞こえていたのか……?

 “助けて”って声……)


 ソーマは唾を飲み込んだ。


 セシリアも息を呑む。


「ソーマ……まさか……」


「……分からない。

 でも……たしかに聞こえたんだ。

 “助けて”って……」


 風が静かに吹いた。

 夜空には裂け目の名残りがうっすらと残る。


 その空を見上げながら、

 ソーマは確信する。


(あれは……攻撃じゃなかった。

 “何かが”……“誰かが”……)


(――こっちへ来たがっていた。)


 リュミが小さく呟いた。


「……次にまた来たら……

 今度はちゃんと、守りたいですね」


「……ああ」


 ソーマは拳を握った。


 その時。


 ガルムがぼそっと言った。


「なぁ……そろそろ……腹減らないか……?」


 全員の緊張が一気に吹き飛ぶ。


「急すぎない!?」

「空気読んでよガル!!」

「でも……私もお腹減りました……」

「リュミまで!?」


 レオン隊長がため息をつく。


「お前ら……少しは緊張感持てよ……」


 しかし――

 その表情は、どこか優しかった。


――――そして、夜は明けていく。


王都最大の影災えいさいの翌日が始まる。

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