黒影群との総力戦
空の裂け目から溢れ出した黒影たちが――
まるで雨のように、次々と王都へ降り注ぐ。
――ギャアアァァ……ッ!
形の定まらない叫びが、空気を震わせる。
(揺れが多すぎる……!
一体一体の“方向情報”が重なり合ってる……!)
ソーマは耳奥に走る無数の揺らぎを、
必死に選り分けようとした。
「ソーマさん!! 無理に全部受けないで!」
リュミエールの声が飛ぶ。
「でも……揺れの“核”だけは拾わないと……!」
セシリアが雷素を集めながら怒鳴った。
「一人で全部読み取るつもり!?
死ぬわよ!!」
「じゃあどうしろって言う!!」
「任せなさい!!
私が“揺れの波形”をデータに起こす!!
あなたは“方向だけ”に集中して!」
「できるのそれ!?」
「私は天才!!」
「根拠が雑ぅ!!」
しかしセシリアの指は迷いなく魔導パネルを走り、
揺れの周波を魔導式に変換していく。
「……ほんとにやってる……」
ソーマは驚愕しながらも方向感覚に集中した。
(波形……波形……
あれだ、“濁ってる揺れ”が“危険”の合図だ……!)
「ガル!! リュミ!!
“濁った揺れ”のやつが本命!!
南西・北・真上!! 三方向!!」
「三方向って多いわ!!」
「多いってレベルじゃねぇ!!」
「でも今はそれしか分かんない!!」
黒影たちが迫る。
リュミが三方向へ一気に風壁を張る。
――バッ!!
「《風避けの結界》三重展開……っ!!」
同時展開は負担が大きい。
リュミの顔は一瞬で青ざめた。
「リュミ!!無理すんな!!」
ソーマが駆け寄ろうとするが、
「大丈夫です……!
あなたが“方向”を出してくれるなら……
私はまだ動けます……!」
「もう十分すごいよ!!」
ガルムが斧を担ぎ、咆哮する。
「うおお!! 三方向だろうが四方向だろうが来い!!
まずは“北”のやつをぶっ飛ばす!!」
「だからなんでそんなに元気なんだ!!」
「元気じゃねぇと死ぬんだよ!!」
その瞬間、北側から黒影の群れが突進してきた。
――ギャアアッ!!
「来るぞガル!!」
「分かってらぁ!!」
ガルムは影群の中心へ突っ込み――
――ドゴォォォン!!
地面を砕く勢いで斧を叩き込んだ。
影たちは衝撃で散らばるが、
細かい霧へ変わり、また合体しようとする。
「くどいんだよ再生すんな!!」
ガルムが怒鳴る。
「核を叩けって言ったでしょ!!」
セシリアが雷素を一気に解放する。
――バチィィッ!!
霧状の影の中からわずかに濃い場所――
“核が潜む層”だけを焼き切る。
核を失った影が、闇へ溶けるように消えた。
「よし……一体落とした!!」
セシリアが息をつく。
しかし、ソーマの耳は休まらない。
(まだ……まだ“濁った揺れ”が続いてる……!!
こいつら、まだ本命じゃない……!)
「ガル!! リュミ!!
本命は“真上”のやつ!!!」
「真上!? うわっ!!」
ガルムが見上げた瞬間――
裂け目の奥から、
“尾のついた影鳥”のような存在が降下してきた。
翼の形も曖昧で、
輪郭がノイズで揺れている。
ソーマが叫ぶ。
「こいつ……さっきの“尾だけの影”と同じ揺れだ!!
上位種だ!!」
「上位種!!?」
「つまり強いのね!!」
「すごく強い!!」
「分かりやすい!!」
ガルムが斧を構え直す。
影鳥がリュミの結界へ突っ込む。
――バリィィッ!!
「くっ……!! 押される……!!」
リュミの足が滑る。
「リュミ!!」
ソーマが駆け寄ると――
「ソーマさんは“方向”に集中してください!!
私は大丈夫です!!」
「でも!!」
「あなたの予報は誰にも代われません!!
――だから、私が守ります!!」
「ぐっ……!!」
(リュミ……!
俺が揺れを外したら……みんな死ぬ……!
そうだ……今は“予報の精度”が命なんだ……!)
ソーマはぐっと目を閉じ、
耳奥の揺れだけを頼りに空を指した。
「ガル!!
影鳥の“核”は右の翼の根本!!
揺れが一点に集中してる!!」
「よっしゃ!!」
ガルムが助走をつけ、跳んだ。
斧が雷をまとい、影鳥へ迫る。
「どりゃああああ!!!」
――ズガァァン!!
核心への一撃。
影鳥が悲鳴の波動を発し、
影をまき散らして崩れ落ちる。
「すご……一撃で……」
リュミが驚きながら呟く。
「ガル!!やった!!」
「任せろってんだ……!!」
だが。
その喜びは、本当に一瞬だけだった。
ソーマの耳奥が――
これまでで一番“強い揺れ”を跳ね返した。
ザザザザザザッッ!!!!
「っ!!」
「ソーマさん!?」
「……来る……!
これが……“本命中の本命”……!!」
「本命のさらに本命!?!?」
「お前どれだけ増やす気だ!!」
「違う!!俺じゃなくて向こうが増やしてんだよ!!」
空の裂け目が、
これまでと“質の違う音”を響かせた。
――メキリ……メリ……ッ!!
黒影の奥。
裂け目の“さらに向こう”から――
人影のような、しかし人ではない何か が、
ゆっくりと外へ押し出されてくる。
リュミが息を呑む。
「……あれ……
“生き物”じゃ……ない……」
セシリアが声を震わせる。
「データにない……!
霊脈に存在しない……!!
アステリア(この世界)の**“履歴にない影”**……!!」
ガルムが斧を握り直す。
「つまり……なんなんだよあれは!!」
ソーマだけが、
その影の揺れを“確かに知っていた”。
(この揺れ……
森で感じた“声の切れ端”……
あの“影の尾”……
全部……これの予兆だったんだ……!)
ソーマは震えながら呟いた。
「……あれは……
“別世界の残響そのもの” だ」
上空から落ちてくる巨大な黒影。
その輪郭には――
この世界に存在しない“顔”のような模様 が浮かんでいる。
「――来るぞ!!!
“第三波”だ!!」
世界が、軋みながら迎え撃つ。




