影の落下集団と、三人の連携戦
王都の上空に開いた裂け目は、
もはや“空の傷”というより――
世界そのものの裂断 に近かった。
――ゴゴゴ……ッ!!
地響きのような唸り。
押し返されるような風圧。
そして裂け目の奥――
“別世界の影”がうごめいている。
「……なにあれ……形が……歪んでる……」
リュミエールが震える声で呟く。
影核体とは違う。
もっと“輪郭がはっきりしている”のに、
それが逆におぞましい。
「なんだよ……影なのに“立体”って……!?」
ソーマが胃の奥をぎゅっと掴まれたように息をのむ。
「ソーマ!揺れは!?方向は!!」
ガルムが肩越しに叫ぶ。
「数が……増えてる!!
少なくとも三体! いや……四、五……
どれが本体か分からない!!」
「増えるなぁぁ!!」
ガルムが吠える。
セシリアが魔導パネルを睨みつけた。
「影の密度……完全に異常よ!!
魔力値が“アステリアの生物”じゃない!!」
「じゃあ何なの……!」
「残滓よ。
――“別世界で死にきれなかった現象の残骸” !!」
「現象が残骸化って何だよ!?分かりやすく言って!」
ソーマが悲鳴を上げる。
「向こうの世界で死にきれなかった“幽霊みたいな災害”!」
「それ絶対やばいやつじゃん!!」
そんな叫びの最中――
ついに“最初の影”が落下した。
――ズオオォォン!!
空気が沈むような低音。
黒い塊が通りへ叩きつけられ、
地面と建物が震動した。
「来るぞ!!構えろッ!!」
ガルムが斧を構える。
「ソーマさん、揺れを!進路を教えてください!」
リュミエールが手を伸ばす。
「わかった!!」
ソーマは鼓膜に集中した。
ザザザザッ……!
(来る……右から二体……!
そして上から一体……!)
「三方向!!
右の路地に二体!!
上空から直落下が一体!!」
「了解!!」
リュミが風壁を張り巡らせる。
「《風避けの結界》……三重!!」
強烈な風の壁が展開され、落下軌道を僅かにずらした。
――ゴォン!
本来なら直撃する一体が、
結界に弾かれて屋根へ逸れた。
「ぐっ……! 押される……!」
リュミの肩が震える。
「無理すんな!!」
ガルムが横につき、斧で衝撃波を受け流した。
続いて、路地から黒い影が二つ飛び出してくる。
――ギャアァ……ッ!
「来たな!!」
ガルムは前へ踏み込み、
風壁の内側に入った影をまとめて薙ぎ払う。
――ドゴォッ!!
衝撃で影が霧散するが、完全には消えない。
霧散した“破片”が、再び集まろうとする。
「再生してる!?!?」
ソーマが叫ぶ。
「“核”を叩いてないからよ!!」
セシリアが雷素を凝縮する。
「ソーマ!!核の方向はどっち!!」
「上!!影の中心じゃない!!上の“尾の付け根”!!」
「また尾かよ!!!」
ガルムが叫びつつ跳躍。
「そっちかい!!」
――ズガァァン!!
斧が影の核部に命中し、
黒い塊は悲鳴をあげながら崩れた。
「ガル、ナイス!!」
「任せろ!!この程度……!」
――バチッ!!
突然、上空から“黒い稲妻のような影光”が走った。
「ガルムさん!!!」
リュミが叫ぶ。
ガルムはすんでのところで避けたが、
影光が通った場所の石畳が“黒く焦げる”。
「な、なんだ今の……!?
雷……じゃない……影が焼いてる!?」
「影に焼かれるって何だよ!!概念が怖ぇよ!!」
セシリアが短く結論を出す。
「――第二波の“本命”が来るわよ!!
これはまだ“予兆”!!」
「まだ予兆なの!?!?」
ソーマが絶叫。
しかしその答えはすぐに空が示した。
裂け目がさらに開き――
“人影のようなもの”が複数、輪郭を揺らしながら現れた。
人よりも細長く、
鳥のような羽を持つものもいる。
けれど目だけが、どれも“虚無の白”。
リュミが震える。
「……あれ……
形が不安定なのに……すごく“悲しんでる”気配です……」
「悲しんでる?」
ソーマは息をのむ。
(揺れも……泣いてるみたいだ……
まるで……“帰れずに落ちてきた”みたいな……)
セシリアが歯を食いしばる。
「情けは禁物よリュミ!!
“残滓”は情緒を装うことがある!!
本能で揺らがされる!!」
「……はい!!」
その瞬間――
空から一体が真っ直ぐ落ちてきた。
「来るぞ!!」
「ガル、俺につけ!!」
ソーマが叫ぶ。
「おう!!」
「リュミ、風を一点集中!!」
「分かりました!!」
ソーマが指差した方向へ風壁が収束し、
落下軌道を一瞬だけ止める。
そこへ――
ガルムの全力の斧撃。
――ズガガァァァン!!
影の頭部に直撃し、
残滓が爆ぜるように四方へ散った。
しかし。
散った破片が、
また空へ吸い上げられるように集まっていく。
「再生しやがる……!!」
ガルムが奥歯を噛む。
「影……戻っていく……!?
なんで!?」
ソーマの耳奥に、
破片の“揺れ”が一斉に向かう方向が流れ込む。
(――“裂け目の奥”……!
そこに“本当の核”がある……!)
「みんな!!
敵の“核”は地上じゃない!!
空の奥!!裂け目の向こうだ!!」
「向こう!?!?」
「どうすりゃいいのよそんなの!!」
「届かないんですけど!!」
ガルムが斧を構え直し、叫ぶ。
「じゃあ――届く位置までぶん投げてくれ!!」
「お前は何を言ってんだ!!?」
ソーマがツッコミを入れる。
「ソーマ!!お前の指示通り何度も突っ込んできただろ!!
今さら驚くな!!」
「いや驚くわ!!常識の殻を破るにも限度が――!」
影たちが再び降下を開始する。
ソーマは息を吸い、そして叫んだ。
「……来るぞ!!
これが『第二波・本体』だ!!」
空から、
人型とも鳥型ともつかない黒影が
一斉に降り注ぎ始めた。




