落下現象・第二波と“黒い影
王都の上空に走る裂け目が、
まるで生き物のように広がっていく。
――メキ……メキィ……!
空の皮膚が裂けるような音。
ソーマは背筋が凍るのを感じた。
(これは……自然現象じゃない。“意思”がある……!)
リュミエールは胸を押さえ、震え声でつぶやく。
「空の“層”が剥がれて……
何かが押し出されてる……!」
「押し出されてるって、何だよそれ!!」
ソーマが悲鳴を上げる。
「空が産んでるみたいです……」
「怖い例えやめて!!??」
ガルムは斧を構えながら、状況をにらむ。
「どっからどう見ても……“出産”というより“排水溝の詰まり”だろ」
「余計に怖いわ!!」
「確かに臭いイメージですね……」
「リュミまで乗っからないで!!」
そんな掛け合いが続く中――
空の裂け目が、ついに“形”を押し出した。
黒い塊。
霧とも影とも言い難い、不定形の存在。
それは――
“尾だけの魔物”にも見えた。
「……あれ……」
ソーマの脳裏に、森で見た“黒い尾”がよみがえる。
(そうだ……昨日からずっと、あれに似た揺れが続いてた)
セシリアが鋭い声をあげる。
「全員、構えて!!
《影残滓》――いや、もっと濃度が高い!!
これは“影核体”よ!!」
「影核体!? それ強いの!?」
ソーマが叫ぶ。
「簡単に言うと――」
「“倒しづらくてウザい”やつだ!!」
ガルムが即答した。
「解説が一番分かりやすい……!!」
「ウザイとか言ってる場合じゃないわよ!!」
セシリアが怒鳴る。
影核体は、
裂け目からぶらりと落ちるように落下し――
王都の中央通りへ激突した。
――ドゴォォォンッ!!
衝撃波が走り、天象庁の観測塔が揺れる。
「やばっ!!」
「近い!!」
「ソーマ、低く伏せろ!!」
ガルムがソーマとリュミエールを覆うように立ちはだかり、
風圧を身体で受け止めた。
地面がひび割れるほどの衝撃にも、
ガルムは巨体をぐっと踏ん張らせる。
「ぐ……っ!! なんて圧だ……!!」
「ガルムさん!!!」
「大丈夫!?」
「問題ねぇ!!
これぐらいの風圧、北方じゃ“朝の挨拶”みてぇなもんだ!!」
「北方どんなとこなんだよ!!」
ソーマが叫ぶ。
影核体がゆらりと立ち上がる。
形は定まらない。
それでも“顔”と呼べそうな部分が、こちらを向いた。
ノイズのような叫びが響く。
――ァァ……ァアア……。
「……うっ……!!」
ソーマの耳奥が、同じノイズで締め付けられた。
(声じゃない……
でも“呼んでる”。
呼んでるって……何を!?)
リュミエールがソーマの手を取る。
「ソーマさん……!
あなたにしか“方向”が分からないんです!
揺れを教えて!!」
「っ……! わかった!」
ソーマは痛みをこらえ、
揺れの向きを追い始めた。
(影核体の中心……いや違う……
影じゃない。“奥”に何かいる……!)
「ガル!!
狙うべき場所が分かった!!」
「どこだ!!」
「中心じゃなくて――後ろ!!
尾の方角だ!!」
「尾だぁ!?」
「魔物の核は普通“前”じゃないの……!?」
セシリアが驚く。
「知らねぇが、ソーマが言うならやる!!」
ガルムが強化を発動させる。
――ゴウッ!!
戦意が燃え、魔力が血管を走る。
リュミエールが結界を張る。
「《風避けの結界》……!
ガルムさん、行って!!」
「おうよ!!」
ガルムの巨体が突っ込み、
影核体の後方へ回り込む。
影が気配を察して振り返ろうとするが――
「させるか!!」
リュミが風壁を操作し、影の動きを封じた。
セシリアも雷素を一点収束させる。
「そこよ!! ガルム!!」
「砕けぇぇぇ!!」
――ドゴォォォォン!!
ガルムの斧が、影核体の“尾”の根本に叩き込まれた。
影核体が悲鳴のような波動を放ち、
体が一気に崩れ始める。
――ァアア……ッ!!
煙のように霧散していく影。
やがて、遅れて衝撃が空へ返った。
――ズン……!
裂け目が一瞬だけ縮む。
「っ……やった……!?」
ソーマが言うと、セシリアが叫ぶ。
「まだよ!!
第一体を落としただけ!!
裂け目が閉じ切ってない!!」
リュミが震える。
「上から……まだ“何か”が来ます……!」
ソーマの耳にも、
新たな揺れが重なった。
(……違う。
さっきよりも“重い”……!)
「第二波“本体”が来る!!
しかも……“複数”!!」
「複数!?!?」
「ちょ……本気で言ってんのソーマ!?」
「冗談だったら俺だって言いたいわ!!」
その瞬間、上空の裂け目が――
バキィィィィッッ!!
さらに広がった。
そして。
影ではない、“形を持った何か”のシルエットが
ゆっくり姿を現し始める。
「……あれは……」
リュミエールが震えながらつぶやく。
「魔物……じゃない……
“落ちてきた別世界の残滓”です……!」
(まさか……前世の予報と繋がってる……?)
ソーマは息を呑む。
「……皆……
“本番”が来るぞ」
空が、巨大に、崩れ落ち始めた。




