空の崩落――第一波
中央霊脈核が、
巨大な心臓のように脈打った瞬間――
――バンッ!!
部屋全体が光に包まれ、
ソーマは思わず目を閉じた。
けれど、耳だけは“全て”を捉えてしまう。
ザザザザザ……!!
(揺れが……跳ねてる!?
これ、今までの比じゃない――!)
「ソーマさん、しっかり!!」
リュミエールが腕を支えた。
光の中でも彼女の手だけははっきり感じる。
ガルムの怒号が響く。
「セシリア!! これは何が起きてる!!」
「核が“自律防衛”に入ってる!!
霊脈本流に異常負荷がかかったときに発動する仕組みよ!」
「要するに簡単に言うと!?」
「“大地も空もヤバいです!!”」
「言い方がざっくりすぎる――!!」
怒鳴り合う二人の声が揺れる室内に反響する。
霊脈核からは、青白い光が波のように四方へ伸びていく。
そのたびに床が震え、壁の魔導文字がノイズを発する。
「うぅ……耳が……」
(声じゃない……けど、“何か”が押し寄せてくる……)
そのとき。
ソーマの耳奥で、
はっきりとした“方向”を持った揺れが走る。
(……天井……いや、“空”の方向!?)
「天象庁の上空!!
そこから何かが――!」
言い終える前に、
上から轟音が落ちてきた。
――ゴォォォン!!
「来たわね……第一波……!」
セシリアが歯を食いしばる。
霊脈核の光が天井を突き抜けるように伸び、
次の瞬間――
天象庁全体が、
“上から叩きつけられた”ように揺れた。
――ドガァァァン!!
「うわっ!?」「キャッ!」「くそっ!!」
三人は床に踏ん張る。
天井から砂埃が舞い、灯が一瞬だけ消えかける。
(これ……前世で聞いた“突風”でも、地震でもない……
空そのものが……“落ちた”みたいな……!)
ソーマの鼓膜が焼けるように揺れる。
ザザザッ!! ザァァン!!
(違う……声じゃない……。
これは、“関節がずれた音”みたいな……空が軋んでる音だ……!!)
と、そのとき。
リュミエールが震える手で胸を押さえた。
「……空が……泣いてる……!」
「泣くって表現やめて怖いから!!」
ソーマが叫ぶ。
本当に“悲鳴”のようなものが天井へ響いたのだ。
セシリアが魔導パネルを必死に操作する。
「外の魔力膜が崩れかけてる!
王都上空の《天層》が一部剥がれたわ!!」
「剥がれる!?」
「だから第一波よ!!
このまま剥離が進むと、
落雷・魔霧・霊圧乱流が一気に王都へ降りてくる!」
「え、普通にヤバいやつだよねそれ!!?」
「普通どころじゃないわ!!」
ガルムが斧を構え直す。
「外へ出るぞ!!
庁舎が崩れたら俺らも巻き込まれる!!」
「ちょ、ちょっと待って!
まだ予報が――!」
ソーマが耳を押さえると、
揺れの方向が急激に“南西”へと変わった。
(南西方向……“王城”だ)
「ガル!! リュミ!!
次は王城の方に来る!!」
「なんで分かる!?」
「揺れが引っ張ってるんだよ!!」
「……この混乱でよくそんなに情報拾えるわね……」
セシリアが呆れつつも感心したように呟く。
その瞬間――
――ピシィ……ッ!!
天井に細い亀裂が走った。
「っ!! 急げ!!!」
ガルムがリュミエールとソーマを肩で押し出す。
三人は霊脈核の部屋を飛び出し、
揺れる廊下を駆け抜けた。
警報が鳴り響き、職員たちが慌てて避難誘導を始める。
「隊長!!」「上から崩れています!」「外へ急いでください!!」
ガルムが怒鳴る。
「全員落ち着け!!
第二波が来る前に外に出ろ!!」
セシリアも走りながらパネルを操作する。
「霊脈の乱流がひどい……!
次の衝撃が来たら、天象庁の観測塔が倒れる!!」
「それまずいってレベルじゃないよ!!?」
「だから急げって言ってるの!!」
ソーマは必死に鼓膜の揺れを追い、
次の“落下点”を探る。
(南西の揺れは……強くなってる!
でも周期が変だ……
これは“落ちる準備をしてる周期”だ……!)
「外!! 早く外に!!
ここじゃ空が見えない!!」
半ば叫ぶように言うと、
ガルムが前を指差して叫んだ。
「出口だ!! 走れ!!」
三人は最後の角を曲がり――
大扉を突き破るように外へ飛び出した。
冷たい風が吹きつける。
そして、ソーマたちが見たものは――
王都の上空に浮かぶ、
“巨大な裂け目”。
夜空のように暗い亀裂が、
じわり、じわりと広がっていた。
「……嘘だろ……」
ガルムが呆然と呟く。
リュミエールは震える声で言った。
「空が……落ちてくる……!」
セシリアは歯を噛みしめた。
「これは“崩落前兆”。
第一波は終わりじゃない――
本番は、これからよ!!」
ソーマの耳奥が、ついに声そのものを捉えた。
『……落ちる……“影”が……落ちる……』
(影……!?)
ソーマは顔を上げた。
裂け目の奥――
“何か黒いもの”がうごめいている。
「――来る!!
《落下現象》第二波だ!!」
王都の空が、轟音とともに裂けた。




