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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第一章

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中央霊脈核と、世界の鼓動

 天象庁てんしょうちょう本部の奥は、

 外観からは想像できないほど静かだった。


 廊下は魔導灯まどうとうによる淡い青光に照らされ、

 壁には霊脈流動れいみゃくりゅうどうを記録する細い管と魔導文字が走っている。


 ソーマは軽く鳥肌を立てた。


「……ここ、“病院の地下”みたいな雰囲気あるよね」


「例えがピンポイントですね」

 リュミエールが小さく笑う。


「うむ。たしかに静かすぎて、死体が歩いてきそうだ」

 ガルムが真顔で言う。


「やめろガル!! 想像するだろ!!」


「ソーマ、お前って幽霊怖いのか?」


「普通に怖いわ! 異世界だろうが地球だろうが無理なもんは無理!」


「かわいいわね」

 セシリアが無表情で刺してくる。


「言い方にトゲがある!!?」


 そんな掛け合いも、

 “ある一点”を境に、自然と消えていった。


 ――霊力れいりょくの密度が、変わった。


 肌に触れる空気が重たく、冷たく――

 ソーマの耳奥に走る揺らぎも強まる。


(……ここだ。

 “中心”に近づいてる)


 通路の先に、

 大きな曲線状の扉が立ちはだかった。


 淡い銀色に輝くその扉には、

 王国の紋章と、複数の魔術封印まじゅつふういんが刻まれている。


「これが……中央霊脈核れいみゃくかく?」


「正確には、その“外郭がいかく”よ」

 セシリアが答える。


「核そのものは、この先の隔離区画かくりくかくにある。

 許可された観測士と騎士団の上層しか立ち入れないわ」


「お前入れるの?」とガルム。


「当然よ」

 セシリアは白衣の胸元を軽く叩く。

 そこには天象庁の上位認証章が輝いていた。


「じゃ、俺たちは……?」


「“たまたま”私が案内すれば入れるわ」


「“たまたま”って何だよ」

 ソーマがツッコむ。


「本来なら面倒な手続きがいるの。でも私は天才だから」


「自分で言うタイプの天才かぁ……」


「事実よ?」

「やめろ、その顔で即答するの逆に恥ずかしいからやめろ」


 やりとりが続くが――

 リュミエールだけは扉をじっと見つめていた。


 その目は、震えている。


「……リュミ?」

 ソーマが声をかけると、彼女は小さく首を振った。


「ここ……

 “すごく痛んでます”」


「痛んでる?」


霊脈れいみゃくの層がねじれていて……

 何かが内側から押してるみたいで……」


 リュミエールの頬に一筋、冷や汗が流れる。


「ここ数年で一番悪い状態です」


 その言葉に、セシリアが眉をひそめた。


「リュミエール、あなた……

 天象同調てんしょうどうちょうがここまで細かく分かるの?」


「えっと……はい……」


「目立たないようにしなさい。

 神殿しんでんが見たら“引き抜き”に来るわよ」


「ひ、引き抜き……!?」


 ソーマが青ざめる。


「リュミが神殿に連れていかれるのは嫌だな……」


「なんでソーマが真っ先に嫌がるんだ?」

 ガルムがにやりとする。


「そ、それは……えっと……!」


「守りたい姫扱いか?」

「違うって言ってる!!」


「いいわよソーマ」

 リュミエールがほんのり笑う。


「守ってくれるって言われたら……嬉しいですし」


「ぎゃあああ急にかわいいこと言うな!!」

 ソーマが顔を真っ赤にする。


「お前ら廊下で何の茶番してんだよ……」

 セシリアが額を押さえる。


「……もう行くわよ。開けるわね」


 セシリアは扉に手をかざすと、

 魔術封印の紋が淡く光り、音もなく解かれていった。


――ゴウン……。


 扉がゆっくりと開き、

 冷気と霊脈のうねりが押し寄せてくる。


 ソーマは思わず立ちすくむ。


(これが……世界の心臓……)


 部屋の中央に浮かぶのは、

 淡く光る巨大な球体だった。


 青と白の霊力が渦を巻き、

 まるで“空そのもの”が凝縮されたような美しさ。


中央霊脈核ちゅうおうれいみゃくかく……

 まじで……こんなものがあるのか……」


「本で見るより実物の方が迫力あるだろ?」

 ガルムがうなずく。


「世界の“呼吸こきゅう”そのものだ。

 魔物も天気も、みんなここから始まる」


 リュミエールは胸に手を当て、震える声で言った。


「でも……今は呼吸が荒い。

 苦しそう……」


 セシリアが魔導パネルを開く。


「見なさい。数値が狂ってる」


「……!」


 数字の流れは常に波を描くはずが、

 今は“跳ねるように不規則”に動いている。


 ソーマの耳奥が、また強く揺れた。


 ザザザザ――!


(来る……!)


「ソーマ?」

 リュミエールが振り向く。


「揺れが……さっきより強い。

 中心から……何か“叫んでる”みたいだ……!」


「叫び……?」

 ガルムが眉をひそめる。


 そのとき――


 ソーマの耳の奥に、“音にならない衝撃”が走った。


 ズンッ!!


「――っ!!」


「ソーマさん!?」

 リュミエールが慌てて支える。


(声じゃない……

 でも、確かに何か言ってる……!)


 ソーマは震える声で絞り出した。


「“開く”……って……聞こえた……」


 セシリアが硬直する。


「開く……?

 まさか――」


 言い終える前に。


 中央霊脈核の光が、突然強く脈打った。


――ドンッ!!


「っ!? 離れろ!!」

 ガルムが叫ぶ。


 青白い光が波のように室内を走り、

 床を揺らし、壁の魔導文字が乱れた。


「核が……暴走しかけてる!!」

 セシリアが叫ぶ。


「暴走!?」


「王都の空を支えてる“まく”が歪んでるのよ!

 このままじゃ――」


 ソーマの耳が、ついに“何か”を捉えた。


 音にならない。

 でも確かに言葉だった。


『――落ちる』


(……っ!?)


 ソーマは顔を上げた。


「みんな!!

 《空が落ちる(おちる)》!!」


 その瞬間――

 霊脈核の光が弾け、

 巨大な衝撃が高台全体を揺らした。

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