表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

141/207

名前をつけない痛み

王都では、出来事にすぐ名前がつく。


事故。

軽傷。

想定内。

対応済み。


名前がつけば、整理できる。

整理できれば、片付いた気になる。


だが、その日ソーマが感じていたのは、どうしても名前にならない違和感だった。


北端の倉庫街。

片付いた現場。

戻った日常。


それでも、あの若い男の視線だけが、頭から離れない。


「大丈夫です」


そう言いながら、彼は「怖かった」とも「後悔している」とも言わなかった。

言わなかったのではない。

言葉にできなかったのだ。


天象庁に戻ると、報告書が回ってきていた。


「被害:軽微」

「精神的影響:記録なし」


ソーマは、その一文で指を止めた。


(……記録されてないだけだ)


(……存在しなかったことには、ならない)


セシリアが、横から静かに言った。


「……名前をつけないと、管理できない。

 でも、つけた瞬間に零れるものもある」


「……ああ」


ガルムが腕を組む。


「痛ぇもんは、数字にすると急に軽く見えるからな」


リュミは、少し考えてから口を開いた。


「……空は……名前をつけません……」


「……重いとか、軽いとか……

 ただ……そこにあるだけです……」


その言葉に、ソーマは小さく息を吐いた。


(……それでいい……)


(……全部を……管理しなくていい……)


夕方、掲示板の前に立つ。


今日の掲示は、短い一文だけだった。


――今日、少しだけ不安だったことは何ですか。


説明も、誘導もない。


人々は立ち止まり、首をかしげ、それぞれの答えを胸の中で探す。

誰も発表しないし、共有もしない。


それでも、その問いは確かに残った。


夜。

屋上。


王都の灯りは変わらない。

だが、ソーマの視界は少しだけ違って見えていた。


帳面を開き、ゆっくりと書く。


――名前をつけない痛みは、消えない。

――だが、無視しなければ、人を鈍らせない。

――残しておけば、それでいい。


ペンを置く。


世界は、相変わらず不完全だ。

だが、不完全さに無理に名前をつけなければ、壊さずに済むものもある。


それだけで、世界はほんの少し優しくなる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ