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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第四章

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残るものを数えるな

人は、

残ったものを

数えたがる。


助かった人数。

被害の規模。

減った事故。


数字は、

安心をくれる。


だが――

失われかけたものは、

数えられない。


朝。


王都北端の倉庫街。

昨日の現場は、

すでに片付けられていた。


壊れた棚は撤去され、

床は洗われ、

血の跡もない。


通りすがりの男が、

言う。


「……大事にならなくて

 よかったな……」


それは、

正しい。


だが――

十分ではない。


ソーマは、

その言葉に

何も返さず、

ただ頷いた。


(……残ったのは……

 恐怖と……

 後悔だ……)


(……それは……

 数字に……

 ならない……)


昼。


天象庁の会議。


報告は、

簡潔だった。


「人的被害、

 軽微」


「全体影響、

 限定的」


「対応は、

 概ね適切」


誰も、

間違ったことは

言っていない。


だからこそ――

空気が、

重い。


セシリアが、

静かに言った。


「……“成功”って

 言葉を……

 使いますか……?」


誰も、

答えなかった。


ガルムが、

腕を組む。


「……使ったら……

 終わりだな……」


リュミは、

胸に手を当てて

呟く。


「……空が……

 冷えています……」


「……数えられなかった

 ものが……

 残っています……」


夕方。


広場。


人々は、

いつも通り

行き交っている。


掲示板の前で、

誰かが

立ち止まる。


――今日、

 あなたが

 一番迷ったのは

 どこですか。


その問いは、

もう新しくない。


だが、

今日だけは

違った。


若い女が、

ぽつりと

言う。


「……昨日……

 北の倉庫……

 行こうか……

 迷った……」


隣の男が、

続ける。


「……俺も……

 あの道……

 避けた……」


会話は、

広がらない。


だが――

消えもしない。


それでいい。


ソーマは、

少し離れた場所で

それを聞いていた。


(……数えなくていい……)


(……残ってるって

 分かれば……

 それで……)


夜。


天象庁の屋上。


風は弱く、

雲は低い。


リュミが、

空を見上げる。


「……空が……

 静かです……」


「……良くも……

 悪くも……

 言っていません……」


セシリアが、

数値を閉じる。


「……評価不能……

 って感じね……」


ガルムが、

鼻を鳴らす。


「……都合のいい

 数字が……

 出ねぇ……」


ソーマは、

帳面を開いた。


――残るものは、

 数えるな。


――数えた瞬間、

 切り捨てが

 始まる。


――覚えていれば、

 十分だ。


ペンを置く。


(……世界は……

 結果を……

 求める……)


(……でも……

 俺は……

 残ったものを……

 見る……)


王都の空は、

相変わらず

曇っている。


だが――

その下で、

人々は

昨日より

少しだけ

慎重に歩いていた。


それは、

誰かの功績ではない。


数えられなかった

何かが、

確かに

残っているからだ。

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