間に合わなかった声
遅れが、
すべてを救うわけではない。
その事実は、
いつも
遅れてやってくる。
夕方、
天象庁に
短い報せが入った。
王都北端、
倉庫街の一角。
軽傷者、一名。
致命傷ではない。
命は助かっている。
それでも――
声は、間に合わなかった。
現場に着いたとき、
若い男が
壁にもたれて座っていた。
顔色は青いが、
意識はある。
「……大丈夫ですか……」
ソーマの問いに、
男は
力なく笑った。
「……はい……
大丈夫……
です……」
だが、
その目は
揺れていた。
「……掲示……
見ました……」
「……今日は……
出てなくて……」
「……だから……
自分で……
考えた……」
その言葉に、
ソーマは
息を詰めた。
男は続ける。
「……いつもなら……
急いで……
運ぶ時間で……」
「……今日は……
遅らせた……」
「……でも……」
言葉が、
途切れる。
「……一緒に……
いた人が……」
視線が、
地面に落ちる。
崩れた棚。
散乱した木箱。
血の跡。
もう一人は、
先に運ばれていた。
命に別状はない。
だが、
恐怖は残った。
「……俺が……
声を……
かけるの……
遅れた……」
「……急ぐな、
って……
言えなかった……」
それが、
間に合わなかった声だ。
ソーマは、
その場で
何も言えなかった。
慰めれば、
嘘になる。
否定すれば、
奪う。
だから――
ただ、
一緒に
立ち尽くした。
夜。
天象庁の屋上。
風が、
弱く吹いている。
リュミが、
静かに言った。
「……空が……
沈んでいます……」
「……怒ってはいません……」
「……でも……
覚えています……」
セシリアは、
報告書を
閉じた。
「……遅れは……
万能じゃない……」
「……だからこそ……
選び続ける……
必要がある……」
ガルムが、
低く唸る。
「……間に合わねぇ
ことも……
ある……」
ソーマは、
夜空を見上げた。
(……遅れは……
救いになる……)
(……同時に……
言い訳にも……
なり得る……)
帳面を開く。
震える手で、
一行を書く。
――遅れは、
免罪符ではない。
――間に合わなかった声は、
消えない。
――だから、
聞き続ける。
ペンを置く。
(……忘れない……)
(……数にも……
しない……)
王都の夜は、
静かだ。
だがその静けさの下で、
声にならなかった声が、
確かに
残っている。




