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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第一章

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天象庁本部と最初の衝突

 王都レウェン中央高台ちゅうおうこうだいは、

 郊外とは別物の静けさに包まれていた。


 街の喧騒けんそうが下に沈み、

 高台の石畳には、ただ冷たい風だけが吹く。


「ここが……天象庁か」


 ソーマは巨大な建物を見上げた。


 白い塔と、広い庁舎。

 整然とした庭に、気象観測用の魔導器がいくつも並んでいる。


「騒がしくねぇのは、緊急時だからだ」

 ガルムが短く言う。


 そして、リュミエールが少し緊張した様子で呟く。


「……私、ここに来るの久しぶりです。

 大聖堂だいせいどうにいた頃、何度か呼ばれただけで……」


「緊張するのか?」


「しますよ! こんな大きな場所……」


「俺も緊張してる……」


「ソーマさんは緊張しなくて大丈夫です」


「なんで!?」


「場慣れが大事なので!」


「根拠がない励まし!!」


 そんな掛け合いをしながら庁舎に近づくと、

 広い大扉の前に数人の職員が待ち構えていた。


「ガルム隊長、お戻りに――」


 職員の一人がそう言いかけ、ソーマを見て止まった。


「……あれ? 新しい……?」


「新入りだ」

「違う!」

「新入りだろ」

「違うって言ってる!!」


 わちゃわちゃしている横で、

 奥から落ち着いた声が響いた。


「――静かに。

 騒ぐとデータが狂うわよ」


 姿を現したのは長身の女性。

 紺のポニーテール、白衣、鋭い緑の瞳。


 ソーマは思わず息を呑む。


(この人……美人なのになんか怖い……!)


 彼女は三人を一瞥し、特にソーマを長く観察した。


「あなたが……“例の予報の子”ね?」


「こ……?」


 ソーマが抗議しようとすると、ガルムが肩を叩いた。


「紹介する。

 セシリア・クローヴァイン。天象庁の“魔導観測士かんそくし”。

 気象魔導の専門家だ」


「あの……よろしく……」


 ソーマが控えめに頭を下げると――


 セシリアは微笑まずに、

 “研究対象を見る目”でソーマを見つめた。


「……あなた、本当に“聞こえる”の?」


「えっ、あ、はい……いや、はいっていうか……聞こえたり……」


「どっち?」


「すみません、あの、プレッシャーが……!」


「弱いわね」


「性格の話じゃないですよね!?」


 リュミエールが慌てて間に入る。


「セシリアさん、ソーマさんは本当に“揺らぎ”を感じ取れるんです。

 観測塔かんそくとうでも、明確に反応していました」


「なら証明してもらうわ。

 ほら、これを見なさい」


 セシリアが手を翻すと、

 宙に青白い魔導のパネルが展開された。


 そこには複雑な線と数値、

 空の温度・魔力量・霊脈流動れいみゃくりゅうどうが映し出されている。


「今この瞬間の“王都上空の揺れ”を示したデータよ。

 普通の術師じゅつしなら――」


「分からん」

「ガルムさん、一秒で諦めた!?」


「こんな細けぇ数字読めるか」


「読んでくださいよ!!」


 ソーマは顔を近づけ、必死に見るが――


「……これ、完全に理系のやつじゃん……

 地味に難易度高い……」


「あなた、前世では天気の仕事をしていたんでしょう?」

 セシリアが眉をひそめる。


「え、どうして知って……」


「ド田舎の村から“気象の専門用語を自然に使う庶民”が出る確率は

 ゼロに近いわ」


「言われてみればそうだけど!?」


 ガルムがぼそっと呟く。


「ソーマ、言ってねぇのか?」


「言うチャンスなかったんだよ!!」


 セシリアは白衣の裾を翻し、言葉を続ける。


「いいわ。

 このデータを“どう感じる”?」


 ソーマは深呼吸し、耳を澄ませた。


 ザ……ザザ……。


(揺れは……確かに“上空”。

 でもゆっくり東へ伸びて……)


「……“王城おうじょうの方向”に続いてます」


 セシリアの緑の瞳が見開かれた。


「……根拠は?」


「揺らぎが引っ張ってる感じがする。

 細い線みたいに……」


「“霊脈の流向りゅうこう”の逆流方向と一致してる……!」


 セシリアがパネルの数値を操作し、信じられないという顔をした。


「本当に……感じ取ってるのね。

 あなた、どうなってるの?」


「どうなってるのって言われても……」


 そこへガルムが豪快に割って入る。


「とりあえず!

 コイツ腹減って集中できねぇんだよ!」


「えっ?」


「は?」


「ガルお前……空気読め……!」


「腹減ってるだろ?」


「減ってるけど!!」


 リュミエールが慌てて笑いながら言う。


「ソーマさん、私たち、まだ昼食べてませんでしたね……」


「そうだよ!セシリアさん!

 まずは昼飯だ!」


「あなたたち、ここ研究機関なのよ?

 “とりあえず飯”みたいなノリで頼らないで」


「研究の前に健康だ!」

「健康は大事!」

「いや私に言われても……!」


 静寂を破るように、

 天象庁本部の廊下に笑いが広がった。


 セシリアは深い溜息をつきながらも、

 どこか微かに口元を柔らかくした。


「……分かったわ。

 休憩室に案内する。

 ただし――」


 彼女はソーマを鋭く指差す。


「あなたとは後で“じっくり”話を聞くからね?」


「えぇ……」


「逃がさないわよ?」


「怖っ!!」


 リュミエールがそっと言う。


「セシリアさん、ちょっと楽しそうです……」


「楽しそうなの!? これ楽しんでるの!?!?」


 ガルムは笑いながら、

 ソーマの背中をどんと叩いた。


「いいじゃねぇか。

 こういう奴が味方だと心強いぞ」


「どこが!!?」


 そんな賑やかなやり取りのまま、

 三人は天象庁本部に足を踏み入れた。


 まだ知らない。

 この場所が、後に彼らの“運命の中心”になることを――


 今はただ、

 ほんの一瞬の“日常の会話”が続いていた。

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