表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/207

初日の洗礼

 王都レウェンの門をくぐった瞬間――


 ソーマは思わず言葉を失った。


「……デカ……」


 考えてみれば当たり前だが、

 今まで村と森しか見ていなかった身にとって、

 王都の石畳いしだたみと整備された街路は完全に“別世界”だった。


 商人の呼び声、魔導器の音、遠くを飛ぶ雲船うんせん――

 どこもかしこも活気に溢れている。


「おーいソーマ、口開きっぱなしだぞ」


「だ、だって普通に飛行船飛んでるし!?」


雲船うんせんぐらいで騒ぐな。あれは地方にも――」


「地方に飛んでねぇよ! 俺のとこ飛んでなかったよ!」


「……まぁそりゃ、お前がいたのは“霧の谷の果ての村”だからな」


「場所がハードモードなんだよ!」


 ガルムに盛大にツッコむと、リュミエールが嬉しそうに笑った。


「ソーマさん、王都は初めてですものね。

 よかったら案内しますよ。

 ……と言いたいところですが、私も孤児院と大聖堂だいせいどうにしか行ったことがなくて」


「どちらにせよ初心者じゃん!」


 そんなやり取りをしていると、

 王都の人々が三人を見てひそひそ話し始めた。


「あっ、天象庁てんしょうちょうだ」

「筋肉でかっ……!」

「銀髪の巫女みこさんかわ……」

「黒髪のあれ誰?」


 最後が一番刺さる。


「“あれ”って言われた……」


「気にすんなソーマ。

 お前、どっからどう見ても“新入り”だからな」


「悪気なく刺すな!!」


 街路を歩いていると、屋台の匂いが漂ってくる。


「串焼きいかがー!

 今朝とれた山鳥だよー!」


「山鳥……!」


 ソーマの腹がきゅるると鳴った。


 リュミエールが優しく微笑む。


「王都に来た記念に、食べてみませんか?」


「いやいやリュミ、こんな時に寄り道――」


 と言いかけたガルムは、すでに串を三本買っていた。


「おう、うめぇぞこれ。お前らも買え」


「お前が一番寄り道してんじゃねぇか!!」


「腹が減っては戦はできん。基本だろ」


「正論ぽく言うな!」


 屋台の店主が面白そうに笑う。


「兄ちゃんら賑やかだなぁ。

 王都は初めてかい?」


「俺だけ初めてです……」


「なら気をつけなよ。

 王都は広いし、迷う奴はすぐ迷う」


「俺は迷わない。方向感覚には自信あるし」


「……ソーマさん」


 リュミエールがそっと指差す。


「さっきから、東に行くはずが……逆の西へ向かっています」


「えっ……」


「このまま行くと市場いちばじゃなくて屠殺場とさつじょうですよ」


「なぜその選択肢!?」


 ガルムが盛大に肩を叩いた。


「あーー! 方向音痴だな!? お前絶対方向音痴だろ!」


「違う! さっきの揺らぎで勘が狂っただけだ!」


「どのみち狂ってんじゃねぇか!」


「言葉の暴力!!!」


 屋台の周りに笑いが巻き起こる。


 だが、リュミエールだけはふと表情を曇らせた。


「……ソーマさんの揺らぎ、まだ続いていますね」


 楽しげな空気が、少しだけ静まる。


「うん。

 なんていうか……王都の“中心”に向かって引かれてる気がする」


「中心……?」


天象庁てんしょうちょう本部がある“中央高台ちゅうおうこうだい”だろうな」


 ガルムが斧を直す。


「とりあえず本部へ向かうぞ」


「……あ、その前に」


 リュミエールがソーマの袖をつまんだ。


「ソーマさん、その……王都に来たばかりですし……

 その……靴、ちょっと汚れてますよ?」


「え、あ、うん……ごめん」


 リュミエールがしゃがんで、布でそっと泥を拭う。

 その姿に、通りすがりの人々がひそひそざわつく。


「銀髪の巫女みこが……あれ恋人か?」

「王都に来た途端リア充か……」

「黒髪のあいつうらやま……」


 ソーマの顔が真っ赤になる。


「い、いいってリュミ! 自分でやるから!」


「え、だって……仲間の身だしなみは大事ですし……」


「“仲間”の一言で急に照れなくなるの何!?」


 そこへガルムがぼそっと呟く。


「……いい雰囲気じゃねぇか」


「聞こえてんだよ!

 お前絶対にからかってるだろ!」


「からかってねぇよ。微笑ましいだけだ」


「言い方で絶対にからかってんだよ!!」


 街路のあちこちから笑い声が飛び交う。


 王都の空はまだ薄く揺らいでいるが、

 この瞬間だけは、不穏な予兆が遠くに感じた。


(……こういう時間がずっと続けばいいのにな)


 ほんの一瞬、そんな甘い考えが胸をかすめた。


 だが――

 ソーマの耳奥は、またひどく淡い揺れを響かせ始める。


 ザ……ザ……。


(……まだ沈黙中か。

 でも、揺れは確実に“中心”へ向かってる)


「ガル、リュミ。

 やっぱり、行こう。天象庁本部へ」


 二人は同時に頷いた。


 賑やかな王都を抜け、

 ソーマたちは中央高台へと向かって歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ