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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第一章

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12/207

沈黙する予報と、王都の門

 観測塔かんそくとうを出た頃には、

 空は夕暮れに近いはずなのに――どこか“色が薄い”。


 まるで世界全体が僅かにノイズを帯び始めたような、不安な空だ。


「急ぐぞ。

 王都まであと半日だ。夜を跨ぐけど仕方ねぇ」


 ガルム・レオニダスが先頭に立ち、街道を踏みしめる。


 ソーマは深く息を吸い、揺れる鼓膜を押さえた。


(揺らぎが……強い。

 昨日からずっと続いてるけど、今は段違いだ……)


 ザ……ザザ……。


 耳奥の雑音は少しも弱まらない。

 ただ、予報だけが――沈黙したままだ。


 リュミエールが隣から囁く。


「ソーマさん、声……聞こえませんか?」


「……聞こえない。

 “予報がない”揺れだ。

 ……これが、いちばん嫌なんだ」


「“天気のない予報”。

 あなたが言っていた“最大の危険信号”ですね」


 ソーマは頷く。


「前世でも、こういう時……“大きな何か”が来た」


 胸の奥が不気味な冷たさに締め付けられる。


**


 街道沿いの森は静かだった。

 風すら吹かず、虫の声もない。


「……変だな。

 森が“息してねぇ”」


 ガルムが斧に手をやりながら警戒する。


 リュミエールは目を閉じ、揺らぎを感じ取ろうとした。


「魔力流が……止まりかけています。

 川の流れが凍る前みたいな……そんな静けさ」


 ソーマは無意識に喉を鳴らす。


(これは……“揺れが消える直前”の空気だ)


 そして突然――


 どこからともなく“空気の膜が破れる”ような音がした。


――パキ……ン。


「っ!?」


 全員が一斉に空を見る。


 薄雲が一瞬だけ、不自然に裂けたように見えた。


「裂け目……? いや、違う……

 世界の“層”がめくれた……?」


 リュミエールの声が震える。


 しかし裂け目はすぐ元に戻り、痕跡はどこにも残らない。


 ガルムが呻く。


「……どういう状況だよこれ。

 ソーマ、お前の耳は?」


「……沈黙したまま。

 でも……揺れが近い。

 すぐそこまで来てる気がする」


 街道を進み続けると、

 遠くに巨大な影が見えてきた。


 暗い空の下――

 石造りの巨大な外壁と、高い門。


王都レウェン……!」


 リュミエールが小声で呟く。


 しかしその表情は喜びではなく、不安に染まっていた。


 ガルムが足を止める。


「門が……開いてねぇな」


 近づくにつれ、異様さがはっきりしてきた。


 本来なら人の声が絶えないはずの王都前の街道が――


 静まり返っている。


 門の前に列もなく、荷馬車の影もない。

 衛兵は立っているが、空気が張りつめていた。


 ソーマが門へ向かうと、衛兵の一人が声を張り上げた。


「止まれ!! ここから先、王都への入城は制限中だ!」


 緊迫した声。

 表情には疲労と警戒が滲んでいる。


 ガルムが前に出る。


天象庁てんしょうちょうのガルム・レオニダスだ。

 後方支部から急行指示が出てる。門を開けろ」


 衛兵は息を呑み、すぐに背筋を伸ばした。


「失礼しました……!

 ですが……本当にお急ぎください。

 ――王都の空に“落ちる気配”があるんです!」


「落ちる……?」


 ソーマの背筋が強く震えた。


(落ちる……って……

 空が落ちる……?

 何が――)


 衛兵は恐怖に顔を歪めながら言った。


「空の層が……薄くなっている。

 魔術師団は“世界のまくが裂けかけている”と……」


 リュミエールが息を呑む。


「膜が……裂ける……?」


「もしそれが本当なら――」


 衛兵は言葉を続ける。


「“魔力嵐”では済まない。

 王都に“空の崩落ほうらく”が起きるかもしれない、と……!」


 ソーマの耳奥が激しく跳ねた。


 ザザザザザ――!!


(……来る!!)


 しかし――


『………………』


 予報の声はどこにもない。


(なんでだよ!!

 こんな時に限って……なんで“沈黙”なんだ!!)


 胸の奥が叫びそうになる。


 リュミエールがソーマの手を掴んだ。


「ソーマさん……大丈夫です。

 沈黙は、何か“大きすぎるもの”を前にした時に起きる現象です」


「安心できるかよ……

 “何か”が来るのは分かるのに、内容が分からない」


 ガルムが斧を握り、短く言い切った。


「分からなくてもいい。

 お前が沈黙を聞いてるんなら、それは“本物”だ。

 ――行くぞ。王都に入る。情報を集める」


 衛兵が門を開ける。

 奥には広い街路が伸び、遠くの空が不気味に渦を巻いている。


 ソーマは深く息を吸った。


(沈黙が教えてるのは一つだ。

 “何かが落ちてくる”。

 ……それだけは確実なんだ)


 三人は、揺れる空の下――

 王都レウェンへと足を踏み入れた。

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