重さに慣れるな
王都は、
再び動き始めていた。
人々は、
立ち止まり、
考え、
話し、
それから歩く。
完璧ではない。
むしろ、
効率は悪い。
だが――
誰も、完全には委ねていない。
ソーマは、
その光景を
遠くから見ていた。
(……いい……)
(……だが……
危うい……)
重さは、
最初は意識される。
だが、
人は慣れる。
そして――
慣れた重さは、
再び誰かに
預けたくなる。
◆
午前。
天象庁に、
一件の報告が届いた。
「南区の住民が、
独自の判断表を
作成しています」
「……判断表……?」
ガルムが眉をひそめる。
「はい。
空の様子と、
行動の対応を
簡単にまとめたものです」
セシリアが、
資料に目を落とす。
「……合理的……
だけど……」
ソーマは、
すぐに気づいた。
(……早すぎる……)
◆
その日の午後。
広場の片隅で、
紙が配られていた。
「曇り・風弱→通常行動」
「雲低・無風→屋内推奨」
人々は、
便利そうに
それを受け取る。
「……これ……
分かりやすいな……」
「……考えなくて
済む……」
その言葉に、
ソーマの胸が
わずかに痛んだ。
(……始まった……)
◆
青年も、
それを見ていた。
彼は、
もう答えを
与えていない。
だが――
答えが、勝手に生まれ始めている。
青年は、
小さく呟いた。
「……人は……
答えを……
作る……」
それは、
自分への
言葉でもあった。
◆
夕方。
天象庁の屋上。
リュミが、
不安そうに
言った。
「……空が……
また……
重く……」
セシリアが、
計測を確認する。
「……局所集中……
兆候あり……」
「……人の判断が……
一箇所に……
寄り始めてる……」
ガルムが、
舌打ちする。
「……便利すぎると……
ダメだな……」
ソーマは、
静かに頷いた。
「……重さに……
慣れ始めてる……」
◆
その夜。
ソーマは、
帳面を開いた。
――重さは、
慣れると
形を失う。
――形を失った重さは、
再び
誰かに
乗せられる。
――だから、
慣れるな。
ペンを置く。
(……問いを……
投げ続ける……)
(……答えが……
固まる前に……)
王都の空は、
また
沈黙に近づいている。
だが――
今度は、
その沈黙に
気づく者がいる。
それが、
唯一の救いだった。




