名を呼ばれる責任
王都で、
名前が飛び交い始めていた。
「……あの人が……
言ってた……」
「……天象庁の……
ソーマ……」
「……広場の……
あの青年……」
噂は、
内容よりも先に
名前を運ぶ。
それは、
責任が
個人に集まり始めた
証拠だった。
青年は、
それを
強く実感していた。
広場に立つと、
以前のような
期待の視線はない。
代わりに、
測るような目。
「……今日は……
どう思います?」
問いは、
以前より
鋭くなっていた。
青年は、
一瞬だけ
言葉を選ぶ。
「……私の意見は……
参考の一つです」
自分でも、
驚くほど
弱い言い方だった。
その瞬間、
誰かが言った。
「……じゃあ……
あなたじゃなくても……」
言葉は、
途中で止まる。
だが――
意味は、
十分だった。
青年は、
初めて
自分の足元を
見た。
列はない。
輪もない。
人々は、
留まらず、
それぞれの場所へ
散っていく。
自分の声が、
絶対ではなくなった。
それは、
敗北ではない。
だが――
安堵でもなかった。
その日の午後。
天象庁に、
小さな陳情が
相次いで届いた。
「……判断材料が欲しい」
「……答えじゃなくて……
目安を……」
セシリアが、
紙を置く。
「……今度は……
私たちの番ね……」
ガルムが、
腕を組む。
「……矢面に……
立て、ってか……」
ソーマは、
深く息を吸った。
(……来たな……)
屋上で、
リュミが
静かに言った。
「……ソーマさん……
呼ばれています……」
「……名前が……
空に……
引っかかっています……」
それは、
逃げられない
合図だった。
ソーマは、
帳面を閉じた。
(……問いを投げた……)
(……次は……
受け止める番だ……)
広場に向かう途中、
誰かが
声をかけた。
「……あの……
ソーマさん……?」
立ち止まる。
「……昨日の……
問い……」
「……あれで……
家族と……
初めて……
話しました……」
言葉は、
それだけだった。
感謝でも、
非難でもない。
事実だ。
ソーマは、
短く頷いた。
「……それで……
十分です……」
名前を呼ばれるということは、
期待と、
不満と、
失望を
同時に背負うことだ。
それでも――
名もなき“正しさ”より、
名のある“不完全”の方が、
まだ人に近い。
王都の空は、
まだ重い。
だが――
誰の名前も、
飲み込んではいなかった。




