答えが揺らぐ日
王都の朝は、
昨日と同じように始まった。
鐘が鳴り、
市場が動き、
人が歩き出す。
だが――
一つだけ、
確実に違っていた。
広場に集まる人の並び方が、
変わっていた。
昨日までのような
一直線の列はない。
代わりに、
小さな集まりが
点々とできている。
「……今日は……
どう思う?」
「……風、
昨日より……
冷たくないか……?」
「……掲示板……
読んだ?」
小さな声。
小さな判断。
小さな迷い。
それらが、
街に散っていた。
青年は、
いつもの場所に立っていた。
だが――
人の数は、
明らかに減っている。
昨日の問いが、
効いていた。
彼は、
一度だけ
深く息を吐き、
声を上げた。
「……皆さん」
集まった人々が、
顔を上げる。
「今日は、
昨日と同じで
問題ありません」
その言葉は、
今までと同じ。
だが――
反応が違った。
「……昨日と……
同じ、って……?」
「……昨日……
南区……
避けろって……」
「……でも……
今朝は……
何も……?」
青年の眉が、
ほんの一瞬
動く。
「……大きな変化は
ありません」
それは、
これまでなら
十分だった。
だが今日は、
誰かが
続けて聞いた。
「……じゃあ……
小さな変化は……?」
沈黙。
青年は、
言葉を探した。
それは、
彼が初めて
探した沈黙だった。
遠くで、
ソーマは
その光景を見ていた。
(……揺れた……)
(……答えが……
“自動”じゃ
なくなった……)
青年は、
ゆっくりと言う。
「……小さな変化は……
各自で……
判断してください」
ざわめき。
誰かが、
小さく笑った。
「……それ……
昨日の人と……
同じこと……」
空気が、
確かに
変わった。
青年は、
それ以上
言葉を重ねなかった。
列は、
できない。
人々は、
自然に
散っていく。
完全な混乱はない。
だが、
完全な従属もない。
中途半端で、
不安定で、
人間的な状態。
その夜。
天象庁の屋上で、
リュミが
空を見上げていた。
「……空が……
動いています……」
「……嵐じゃない……」
「……でも……
止まっても……
いません……」
セシリアが、
観測値を確認する。
「……揺らぎ……
微増……」
「……でも……
危険域じゃない……」
ガルムが、
鼻を鳴らす。
「……不安定……
ってやつか……」
ソーマは、
静かに頷いた。
「……いい状態だ……」
帳面を開き、
一行、書き足す。
――答えは、
揺らいだ瞬間から、
人のものに戻る。
耳奥に、
低い圧。
――(……安定度……
低下……)
――(……だが……
崩壊……
未達……)
ソーマは、
夜空を見上げた。
(……まだ……
終わらない……)
(……でも……
戻れた……)
王都は、
再び
息を始めていた。
不揃いで、
面倒で、
危うい。
それでも――
人が生きる形で。




