問いを投げる者
広場の空気は、
完全に止まっていた。
誰も動かない。
誰も口を開かない。
ソーマと青年、
二人の間にだけ、
目に見えない張力が走っている。
青年が、
先に口を開いた。
「……問い、ですか」
「ええ」
ソーマは頷く。
「答えじゃない」
人々が、
ざわめく。
「……答えが欲しいのに……」
「……なんで今さら……」
ソーマは、
その声を
真正面から受け止めた。
「……今まで……
あなたは……
“正しい行動”を
教えてきた」
青年は、
否定しない。
「はい。
それが
混乱を減らす」
「……事実です」
ソーマは、
一歩だけ
前に出た。
「……では……
あなたの答えが
間違っていたら
どうなりますか」
空気が、
ざわりと
揺れる。
青年の眉が、
ほんのわずかに
動いた。
「……その可能性は……
低い」
「……低い……
ですね」
ソーマは、
重ねる。
「……では……
ゼロではない」
沈黙。
人々の視線が、
青年に集中する。
「……もし……
あなたの言葉で……
誰かが死んだら……」
「……誰が……
責任を負うんですか」
青年は、
すぐには答えなかった。
初めて――
広場に
時間が戻る。
誰かが、
喉を鳴らす。
青年は、
ゆっくりと
息を吸った。
「……それは……
私の責任です」
その言葉に、
人々が
ざわつく。
「……じゃあ……
全部……
あんたが……?」
「……それって……
怖くないか……?」
青年は、
微笑みを保ったまま
言った。
「だからこそ、
私は
慎重に
選んでいます」
ソーマは、
首を横に振った。
「……違う」
「……それは……
慎重じゃない」
「……独占です」
一瞬、
空気が凍る。
青年の目が、
鋭くなる。
「……あなたは……
人々を……
不安に戻したいのですか」
「……いいえ」
ソーマは、
即答した。
「……不安は……
もう……
ここにあります」
「……あなたが……
抱え込んでいるだけだ」
ざわめきが、
大きくなる。
「……抱え込んでる……?」
「……確かに……
全部……
あの人が……」
青年は、
初めて
言葉を選ぶように
間を置いた。
その沈黙が、
答えだった。
ソーマは、
続ける。
「……問いは……
怖い」
「……でも……
問いは……
分散する」
「……答えは……
安心させる……」
「……でも……
集中する」
広場の空気が、
少しずつ
変わっていく。
誰かが、
ぽつりと
言った。
「……じゃあ……
今日は……
どうすれば……」
ソーマは、
その声を見る。
そして――
答えなかった。
代わりに、
こう言った。
「……あなたは……
空を見ましたか」
沈黙。
「……隣の人と……
話しましたか」
人々が、
顔を見合わせる。
「……危ないと思ったら……
立ち止まれますか」
青年が、
口を開きかけ――
止めた。
ソーマは、
最後に
はっきりと言った。
「……今日は……
あなたが決めてください」
答えは、
与えられなかった。
だが――
広場は、
崩れなかった。
列は、
できない。
代わりに、
小さな輪が
いくつも
生まれ始める。
青年は、
その光景を
黙って見ていた。
彼の表情から、
微笑みが
消えている。
耳奥に、
低く、
重たい圧。
――(……集中……
崩壊……)
――(……分散……
進行……)
ソーマは、
目を閉じた。
(……引き金は……
もう一度……
引いた……)
だが今度は、
壊すためではない。
戻すために。
王都の空は、
まだ
何も言わない。
だが――
人の声が、
再び
増え始めていた。




