王城招致
王城レウェンは、
近くで見ると想像以上に白かった。
石は磨かれ、
壁は高く、
空に向かって
誇るように塔が伸びている。
「……趣味悪くはねぇな」
ガルムが小声で言う。
「軍事拠点としては、
合理的すぎるわね」
セシリアが淡々と返す。
リュミは、
城門を見上げて
小さく息を吸った。
「……空が……
少し、
遠いです……」
ソーマは、
その感覚が
自分にも分かることに
気づいていた。
(……ここは……
“空より、人の意志が強い場所”だ)
◆
◆王城内部
長い回廊。
赤い絨毯。
壁に並ぶ歴代王の肖像。
どの目も、
どこか似ている。
(……選ぶ側の目だ)
使者に導かれ、
一行は
謁見前の控えの間に通された。
「ここで待て」
扉が閉まる。
ガルムが、
即座に低く言った。
「気ぃ抜くな。
ここは戦場だ」
「分かってる」
ソーマは頷いた。
◆
◆王の前へ
やがて、
重厚な扉が開く。
「入れ」
広間は、
想像よりも静かだった。
玉座に座るのは、
壮年の王。
鋭い目。
疲れを隠さない顔。
「相馬颯真」
名を呼ばれただけで、
空気が締まる。
「前へ」
ソーマは、
一歩進み出た。
ガルムとリュミ、
セシリアは
半歩後ろで止まる。
◆
◆王の問い
王は、
しばらくソーマを見つめ、
やがて言った。
「空を止めたそうだな」
「……結果的に、です」
「謙遜は要らん」
王は、
指を組んだ。
「聞こう。
お前は、
未来を支配できるのか?」
直球だった。
セシリアが、
息を呑む。
ソーマは、
一拍置いて答えた。
「……できません」
広間が、
わずかにざわつく。
「だが、
選ぶことはできます」
「違いは?」
「支配は、
一つに決めることです」
ソーマは、
王の目を見た。
「選ぶとは、
失われる未来も、
見ることです」
◆
◆王の思惑
王は、
目を細めた。
「つまり、
お前は
“兵器”にはならん、と?」
「……はい」
ガルムが、
内心で
よく言った、
と呟いた。
「だが――」
王は続ける。
「お前がいる限り、
王国は
他国よりも
先を見られる」
「……それは……
否定しません」
「ならば、
王国に
忠誠を誓え」
空気が、
一気に重くなる。
リュミの指が、
わずかに震えた。
◆
◆答え
ソーマは、
すぐには答えなかった。
耳奥は、
静かだ。
予報は、
来ない。
(……これは……
俺が選ぶ番だ)
ソーマは、
はっきりと言った。
「……誓えません」
王の眉が、
ぴくりと動く。
「理由を言え」
「忠誠は、
選択肢を
一つにします」
ソーマは、
一歩も引かない。
「俺は、
選択肢を
減らす立場には
立てません」
◆
◆沈黙と評価
長い沈黙。
玉座の間に、
自分の呼吸音だけが
響く。
やがて、
王は小さく笑った。
「……なるほど」
その笑みは、
怒りでも
慈悲でもない。
「測候院が、
囲っている理由が分かった」
王は、
背もたれに
深くもたれた。
「忠誠は要らん」
一同が、
息を呑む。
「だが、
拒否も許さん」
◆
◆王の提案
「お前は、
王国の“外部観測点”として
扱われる」
「……外部?」
「命令は出さぬ。
だが――
王国に関わる
重大災厄については、
必ず声をかける」
セシリアが、
即座に理解した。
「……責任だけ、
共有する形……」
「そうだ」
王は、
ソーマを見る。
「逃げ場は、
残してやる」
「……感謝します」
「礼を言うな。
これは、
保険だ」
◆
◆退室
謁見が終わり、
一行は
静かに広間を後にした。
廊下に出た瞬間、
ガルムが
大きく息を吐く。
「……寿命縮んだぞ」
「同感です」
セシリアが額を押さえる。
リュミは、
ソーマを見る。
「……大丈夫、
でしたか?」
「……ああ」
ソーマは、
小さく笑った。
(……世界より、
人の方が……
分かりやすいな)
だが、
その分――
厄介だ。
王城を出た瞬間、
空が
少し近づいた気がした。
耳奥で、
かすかな気配。
――(……人との対話……
完了……)
(……次は?)
――(……まだ……
続く……)
ソーマは、
王城を振り返らず、
前を向いた。




