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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第四章

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神殿の視線

王城を出た瞬間、

ソーマは無意識に空を見上げた。


雲は流れている。

風もある。


だが――

重さが違う。


「……さっきより、

 空が軽いですね」

 リュミが小さく言った。


「ああ。

 人の圧が、

 少し抜けた」


セシリアが肩をすくめる。


「王家は“管理”を選んだ。

 でも……

 次は、

 もっと厄介よ」


ガルムが眉をひそめる。


「神殿か」


◆白い階段


王都中央区。

大聖堂へ続く白い階段の前で、

一行は足を止めた。


空に一番近い建物。

尖塔は雲を裂き、

鐘楼は街を見下ろしている。


「……ここは……

 空と……

 似てます……」

 リュミが呟いた。


「似てる?」

 ソーマが聞く。


「……“見下ろす”場所です……」


その瞬間、

鐘が鳴った。


一回。

低く、

重い音。


◆大神官マリエル


迎えに現れたのは、

白と金の法衣を纏った女性だった。


年齢は読めない。

穏やかな微笑。

だが――

視線は鋭い。


「ようこそ、

 予報持ち(よほうもち)様」


その呼び方に、

ソーマは一瞬だけ眉を動かした。


「私は、

 大神官マリエル」


リュミが、

小さく息を吸う。


「……大神官……」


「緊張なさらず」

 マリエルは微笑む。

「今日は、

 裁きではなく……

 確認ですから」


セシリアが、

内心で

一番嫌な言い方ね、

と呟いた。


◆神殿の問い


大聖堂の内部は、

静まり返っていた。


信徒の姿はない。

祈りの気配だけが、

空間に満ちている。


マリエルは、

祭壇の前で立ち止まった。


「あなたは、

 空と話したそうですね」


「……話した、

 というほどじゃ……」


「でも、

 応えは返ってきた」


マリエルは、

ゆっくり振り返る。


「それは、

 神託と何が違いますか?」


直球だった。


◆神託との違い


ソーマは、

少し考えてから答えた。


「……神託は、

 “従え”という形で

 来る」


マリエルの目が、

わずかに細くなる。


「私の予報は、

 “選べ”と来る」


沈黙。


リュミが、

胸に手を当てる。


「……神託は……

 信じる人を……

 導きます……」


「予報は?」

 マリエルが問う。


「……迷わせます……」

 リュミは正直に答えた。


マリエルは、

小さく笑った。


「なるほど……

 危険ですね」


◆神殿の恐れ


マリエルは、

祭壇に手を置く。


「信仰とは、

 “選ばない”ことで

 人を救います」


「選ばない?」


「神が選ぶからです」


ソーマは、

はっきり言った。


「……それは、

 楽です」


マリエルの笑みが、

一瞬だけ消える。


「人は、

 選ばなくて済む」


「でも……

 その代わり、

 考えなくなる」


ガルムが、

小さく頷いた。


「確かにな」


◆神殿の提案


マリエルは、

再び微笑んだ。


「では、

 提案をしましょう」


嫌な予感が、

背中を走る。


「あなたの予報を、

 神託として扱う」


「……何?」


「神殿が解釈し、

 神の言葉として

 民に伝える」


セシリアが、

即座に言った。


「……歪める気ですね」


「整える、と

 言ってください」


マリエルは、

穏やかに答えた。


「混乱は、

 信仰の敵です」


◆拒否


ソーマは、

即答だった。


「……断ります」


マリエルは、

驚かない。


「理由を」


「俺の予報は、

 責任を引き受ける人間に

 だけ渡すものです」


「民は?」


「選ぶ力を、

 奪われる」


大聖堂の空気が、

わずかに重くなる。


リュミが、

一歩前に出た。


「……神は……

 空の顔……」


「……空が悲しむとき、

 私たちは……

 考えます……」


マリエルは、

その言葉を

静かに聞いた。


◆神殿の判断


やがて、

大神官は

ゆっくりと息を吐いた。


「……分かりました」


意外なほど、

あっさりだった。


「あなたを、

 神託の器には

 しません」


「……それは……」


「ですが」

 マリエルは続ける。

「危険視はします」


微笑みが、

戻る。


「信仰を揺らす存在は、

 いつか……

 試される」


ソーマは、

静かに頷いた。


「……覚悟は、

 あります」


◆外へ


大聖堂を出ると、

空気が一気に変わった。


「……はぁ……

 あそこは……

 王城より疲れる……」

 ガルムが呻く。


セシリアも、

珍しく同意する。


「信仰は、

 理屈が通じない分……

 怖いわね」


リュミは、

空を見上げた。


「……空は……

 何も……

 言っていません……」


ソーマも、

耳を澄ます。


――静かだ。


だが――

確かに感じる。


(……見てるな)


王家。

神殿。

測候院。


三つの視線が、

交差し始めている。


(……これが……

 人の世界か)


空より、

ずっと複雑で――

ずっと危険だ。

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