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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第三章

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人と世界の境界

意識が、

ゆっくりと戻ってくる。


最初に感じたのは、

風だった。


冷たくもなく、

熱くもない。

ただ、

確かに“流れている”。


(……空気が……

 戻ってる……)


目を開けると、

見慣れた天井。


天象庁の医務室だ。


「……起きた……」


かすれた声に、

すぐ反応があった。


「無茶しすぎだ、

 ほんとにな」


ガルムが、

腕を組んで立っている。


「……生きてるか?」


「……なんとか」


◆同じ高さに立った証


リュミが、

ベッドの横に座っていた。


目は赤いが、

泣いた様子はない。


「……ソーマさん……

 同調が……

 追いつかなかった……」


「いや……

 十分だ」


ソーマは、

天井を見つめたまま言った。


「……今回は……

 “立てた”」


セシリアが、

難しい顔で頷く。


「立てた、どころじゃないわ。

 観測記録……

 完全に壊れてる」


「壊れた?」


「“人が、

 世界の判断を止めた”

 って現象、

 理論に存在しないの」


ノアは、

窓際で空を見ていた。


「……でも……

 世界は……

 否定しなかった……」


◆世界の沈黙


ソーマは、

耳に意識を向けた。


――静かだ。


予報も、

声も、

ノイズもない。


だが――

不安はなかった。


(……聞こえない……

 けど……)


(……背中は……

 向けられてない)


リュミが、

静かに言った。


「……空は……

 今……

 見てます……」


「見てる?」


「……判断を……

 保留して……」


セシリアが、

小さく笑った。


「つまり……

 “無視できなくなった”」


◆境界線の変化


数刻後。


セイル・アルヴェインが

医務室に現れた。


「体は?」


「……立てます」


「なら、

 話がある」


廊下を歩く間、

ソーマは

視線を感じていた。


研究員たちの視線。

敬意とも、

恐怖ともつかない。


セイルは、

屋上で足を止めた。


「……王都は、

 切り離されなかった」


「……はい」


「世界は、

 君を……

 災害として扱えなくなった」


ソーマは、

ゆっくりと息を吐いた。


「……それは……

 良いことですか?」


セイルは、

即答しなかった。


「良くもあり、

 悪くもある」


◆“個”ではなく“位置”


セイルは、

続けた。


「君はもう、

 一個人として

 扱われない」


「……位置、ですか?」


「そうだ。

 境界点だ」


セシリアが補足する。


「世界と人の間にできた、

 “話が通じてしまう場所”」


ガルムが、

鼻を鳴らす。


「ややこしい立場だな」


「……逃げられませんね」


「逃がさない」

 セイルは静かに言った。

「だが……

 守る」


◆新しい予報の形


その瞬間。


ソーマの耳奥に、

久しぶりに

“音”が戻った。


だが――

違う。


女性アナの声ではない。


――(……こちらは……

   境界観測……)


短く、

淡々とした声。


――(……今後……

   予報は……

   確率ではなく、

    選択肢として提示される……)


ソーマは、

目を閉じた。


(……来たな……)


――(……選ぶのは……

   常に……

   人……)


声は、

それだけを告げて

消えた。


◆覚悟の更新


リュミが、

そっと手を握る。


「……一人じゃ……

 ありません……」


ガルムが、

肩を叩く。


「背中は任せろ」


セシリアは、

眼鏡を押し上げた。


「理論は……

 後で追いつかせる」


ノアは、

穏やかに微笑んだ。


「……世界は……

 もう……

 “君を消せない”……」


ソーマは、

空を見上げる。


雲が流れ、

風が吹く。


いつもの空。


だが――

確実に、

同じ高さにある。


(……未来は……

 聞くものじゃない)


(……選び続けるものだ)


王都の上で、

人と世界の境界は――

静かに、

確かに、

更新された。

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