世界の反応
風が去った翌朝。
避難所となった仮設天幕には、
まだ砂の匂いが残っていた。
だが――
そこにあったのは、
生き残った人々の声だった。
「助かった……」
「本当に、全員……?」
そのざわめきが、
ゆっくりと実感へ変わっていく。
ソーマは、
少し離れた場所で
その光景を見ていた。
(……救えた)
だが、
胸の奥は
軽くなってはいない。
(……今回は、だ)
◆
◆測候院への報告
王都へ戻ると、
天象庁の空気が
明らかに変わっていた。
書類の山。
急ぎ足の研究員。
そして――
増えた視線。
「……あれが……」
「全員避難させたって……」
「理論無視だぞ……」
セシリアが、
小声で言う。
「……完全に、
“観測対象”になりましたね」
「前からだろ」
ガルムが肩をすくめる。
「……質が違うわ。
今は……
“見張られてる”」
◆
◆測候院・臨時評議
小会議室ではなく、
正式な評議室。
それ自体が、
異例だった。
セイル・アルヴェインは、
中央に立ち、
簡潔に報告を終える。
「……以上が、
南部強風事案の顛末だ」
ざわめき。
年配の測候官が、
眉をひそめる。
「……全員、
避難させた?」
「はい」
「成功確率は?」
「……計算していません」
一瞬、
空気が凍る。
別の者が、
声を荒げた。
「無謀だ!
偶然成功しただけだろう!」
セイルは、
静かに言った。
「偶然かどうかは、
次を見れば分かる」
全員の視線が、
ソーマに集まる。
◆
◆三つの視線
会議後。
セイルは、
ソーマだけを残した。
「王家から、
正式な接触要請が来ている」
「……やっぱり」
「神殿もだ。
“奇跡の巫女と予報持ち”
という組み合わせに、
強い関心を示している」
リュミが、
思わず身をすくめる。
「……そして……
測候院内部も、
割れ始めている」
「割れ?」
「君を
“理論外の異物”として
排除したい派と、
“次世代観測モデル”として
保護したい派だ」
ソーマは、
苦笑した。
「……面倒ですね」
「だが、
避けられない」
◆
◆ノアの異変
その夜。
ノアが、
一人で廊下に立っていた。
窓の外を、
じっと見つめている。
「どうした?」
ソーマが声をかける。
「……増えてる……」
「何が?」
ノアは、
ゆっくり振り返った。
「……“見てるもの”が……」
背筋が、
わずかに冷える。
「……歪みか?」
「……いや……
人だよ……」
ノアは、
静かに言った。
「……人が……
“未来を見る目”を……
持ち始めてる……」
◆
◆噂は力になる
王都では、
すでに噂が
別の形に変質していた。
・予報持ちは、選べる
・未来は一つじゃない
・神ではなく、人が立った
それは、
希望であり――
同時に、
危険な思想でもある。
セシリアが、
苦い顔で言った。
「……予測不能なものが、
人に広がるのは……
いつだって、
災厄の前兆よ」
「……でも……」
リュミが小さく言う。
「……空は……
前より……
静かです……」
◆
◆新しい予報
その夜。
ソーマの耳奥で、
静かな声が鳴った。
――(……観測者……
増加……)
「……やっぱりか」
――(……世界は……
“一人”より……
“複数”を……
恐れる……)
ソーマは、
窓の外を見る。
灯りの下で、
人々が笑い、
話し、
生きている。
(……俺一人じゃない)
(……それは、
救いでもあり……
嵐でもある)
◆
◆次の波
ノアが、
静かに告げた。
「……次は……
“人が選ぶ未来”を……
止めに来る……」
「誰が?」
ノアは、
迷いなく答えた。
「……世界の……
深いところ……」
ソーマは、
拳を握った。
(……来るなら、来い)
(今度は……
俺一人じゃない)
王都の空には、
雲が集まり始めていた。
それは、
嵐の兆しではない。
“意思”が集まる前触れだった。




