地図にない出口は、出口ではない
南外縁に、昨日までなかった隙間が見つかった。
仁科さんが持ってきた写真には、線路の古い盛り土と、外側の道路標識が一枚に写っている。距離だけ見れば近い。写真の真ん中にある白い斜面を、何人がどう下りられるかは写っていなかった。
「向こうが見えてる」と仁科さん。
「見えるのと、帰れるのは違います」と俺。
「知ってる。だから持ってきた」
彼は写真を音羽さんへ渡した。自分で住民を集めるより先に、確認する相手を選んだ。
神代さんは消防の班と現地へ行く。俺も地図を持って付いて行きたくなったが、彼女が先に言った。
「真壁さんは受け取り側の条件を聞いて。道があっても、その先で誰も迎えなかったら困る」
「分かりました」
経路を調べる人と、町を出た人を迎える仕事は別だ。俺は音羽さんの隣で、外側の担当へ連絡する。写真の場所、連絡できる先、もし荷物だけが出た時に受け取れるか。人が通る話は、まだしない。
◇
倉庫の掲示板の前に、久野さんがいた。
「娘の所へ行ける?」
「新しく見つかった所を調べています。人が通れるかは、まだです」
「また『まだ』か」
「はい」
同じ返事を続けるのは、こちらもつらい。だが一度の写真で「行ける」と言えば、その言葉で荷物をまとめる人がいる。
「先に分かったことから知らせます」
「私が一番に行くって言ってるわけじゃないよ」
「分かっています」
「早く帰りたいだけ」
久野さんは掲示板から離れた。彼女が食堂の当番を降りたことは、外へ行く順番を早める条件でも遅らせる条件でもない。
昼は藤森さんの班が五十三人分を出した。数日前の休業が終わり、本人が今日の仕事を受けている。俺は受領を確認した後で、神代さんから届いた短い報告を開いた。
「隙間の内側は歩ける。外側への段差は、まだ確認中」
歩けた距離を矢印で伸ばしたくなる。だが報告はそこまでだ。
◇
夕方、消防と神代さんの班が戻った。外側の道路標識を近くで見られたが、手前の段差と路面の状態は、人員移送に使うにはまだ検討が要るという。
「私なら下りられる」と神代さん。「でも、背負って六人は運べない」
「誰も頼んでいません」と俺。
「顔が頼んでた」
否定できなかった。最短の線を見れば、強い人の腕で埋められる距離に思えてしまう。人の数が増えると、その計算は真っ先に壊れる。
音羽さんは確認できた区間と、まだ使わない区間を色分けした。外側の受け取り担当も、荷物だけなら試験を受けられると返事をした。
「明日は、まず箱です」
「住民には?」と俺。
「見つかったことは知らせます。通行可能とは書きません」
久野さんへも、同じ紙を渡した。彼女は読んで、丸をつけてほしい場所を指す。
「私の希望、消えてないね」
「消えていません」
「なら、待てる。箱の結果までは」
希望と通行許可は、同じ線で結ばない。地図にない出口は見つかった。出口と呼べるかどうかは、明日の箱と、その先にいる人の返事が決める。




