店を閉める日を決めておく
藤森さんが、店の札を裏返した。
札といっても、町内の協力拠点で受ける有償注文の小さな案内だ。帰路亭の看板ではない。そこには「本日休み」とだけ書いてある。
「倉庫のご飯まで止まると思われるよ」と俺。
「だから、先に掲示した。今日は町の配食担当が持ってくる。私の班が無休で鍋を持つ日じゃない」
数日前から決めていた休みだった。急に手を止めたわけではない。それでも、朝の倉庫に藤森さんの声がないと、俺は火の位置を見に行ってしまう。
代替の食事は、外側の担当が用意した物を倉庫の配膳係が受け取る。温かい鍋でない日があっても、食事がない日にはしない。体調上の条件がある人の分も、事前に照合していた。
「俺が少し作れば」と言いかける。
藤森さんが、裏返した札を指した。
「その『少し』で、誰の休みを埋めるつもり?」
「俺のです」
「帰路亭の店主には、向こうの仕事もあるでしょ」
俺は答えない。代わりを作るための休みを、自分がつぶすなら、仕組みは一歩も進まない。
◇
朝食の受け取りを確認するのは、久野さんから椀の仕事を習った三浦君だ。昨日までと同じ五十三人が倉庫にいる。彼は乾いた物を希望する女性の分も、本人の返事が取れた範囲で別に受け取った。
「手伝う?」と聞くと、首を振られた。
「数の紙はもうある。運ぶ人も来る。真壁さんがいるなら、昨日の札の字を直してほしい」
それは食事の仕事ではない。札の「休み」の字が小さくて、入口から見えなかった。
俺は太いペンで書き直した。五十三人分の配食へ手を出すより、ずっと役に立つ。少し悔しい。
神代さんが装備を持って来た。
「今日は昼まで、私も空き。散歩する?」
「待機は?」
「次の担当へ渡した」
彼女は返事を待つ。俺の休みを、救助の合間に押しつけないために。
「少し歩きましょう。昼の受領が来るまで」
「受領が来たら戻る?」
「見たいのは山々です」
「見なくても食べられる日、試せるよ」
倉庫から離れた道を歩いた。遠くまで行かない。住民が行く道と救助の動線を避け、戻る時刻は互いに決めた。
◇
散歩の途中で、俺の端末が鳴った。配食の担当からの受領連絡だ。
「五十三人の所在は音羽さんの原本、食事は担当の受領で閉じています」
報告を読み上げると、神代さんは頷いた。
「じゃあ、戻らなくていい?」
「戻っても直す所がありません」
それを自分の口で言ってから、少し笑った。
昼、藤森さんは自分の部屋で休んでいる。彼女の班に追加の注文は入れず、今日の休業は本当に一日続いた。緊急の医療と避難の連絡先は食堂の札と別に残してある。
俺と神代さんは、用意していた昼の包みをベンチで開いた。
「珍しい。真壁さんが客みたい」
「注文したら、自分で作るつもりでした」
「それは客じゃない」
彼女が笑う。俺も食べた。
休業日の食事が届いたことより、休業日が予定どおり終わったことに、今は少し驚いている。




