避難所で、商売の話をする
藤森さんは、救援用の米袋と、倉庫の外にある町内の協力拠点から来た注文書を並べた。
「六食。昼までに作れる?」
「場所と食材が決まれば」と俺。
「その返事を聞きたかった」
外側で補修に当たる作業者の昼食だ。注文した人は、倉庫の五十三人へ出す食事もここで作っていると聞き、まとめて頼めると思ったらしい。
「救援用の米で六食増やすのは、なし」と藤森さん。
「もちろんです」
「ただで手伝ってもらうのも、なし。私たちが仕事として受けるなら、材料と代金と休みを決める」
倉庫の人が聞いていた。茶碗を置き、藤森さんへ向く。
「ここで商売をするの?」
責める声ではない。どこから自分の食事が減るのか、確かめたい声だった。
「あなたたちの分を売らない」と藤森さん。「六食は別の厨房と別の材料で作る」
「同じ人が作るなら、そっちが先にならない?」
「ならないように、受ける時間を分ける。無理なら断る」
俺は二つの紙を少し離した。重ねれば、一つの数字だけ見てしまう。温かい昼食が五十三人に届く仕事と、六食の注文で収入を作る仕事。働く人は同じでも、条件は同じではない。
◇
町内の協力拠点には、使用条件を確認できる厨房があった。藤森さん自身が見に行き、材料を注文した側が用意すること、作業者六人の受け取り先と代金の担当を確かめる。使える設備の範囲は、そこで管理する人に聞いた。
俺は倉庫側の昼の担当を整理した。藤森さんが数時間抜けても、昨日までに組んだ班が五十三人分を出せる。出せないなら、六食を受けない。その順番で話す。
注文した担当者が、申込書の「炊き出し協力」と書いた欄を示した。
「ここに署名を」
「これは有償の六食です」と藤森さん。「救援の協力欄には書けません」
「形式は同じなんですが」
「同じにしたら、材料を持って来た人も、作った人も、次はただでいいと思われる」
彼女は声を荒げなかった。担当者は別の注文書を取り出し、代金と受け取り時刻を書き直した。書類が変わるまで、藤森さんは鍋を火にかけない。
「避難所で金の話をするなんて、気が引けませんか」
俺が聞くと、彼女は不思議そうな顔をした。
「お金の話をしないで、人の時間を使う方が気が引ける」
たぶん、俺の耳が痛い答えだった。
◇
翌朝、倉庫の五十三人の朝食は地元班が出した。俺は受領の数を見てから、藤森さんのいる外側へ向かう。
六人分は、別に受けた材料で作られていた。作業者が汗を拭く席へ届ける前に、注文者が容器を数え、支払い方法と受け取りを確認する。救援用の米袋は倉庫に残ったままだ。
「向こうは?」と藤森さん。
「五十三人の朝は受領済みです。昼も別班が準備しています」
「なら、こっちの六を出す」
作業者が六つ受け取り、料金の記録が残った。彼らは救助を受ける住民ではなく、今日は働いて食べる客だ。どちらが偉いわけでもない。
倉庫へ戻ると、昨日質問した人が昼食を受け取っていた。
「六食、うちの米を使った?」
「使っていません。別の厨房で、別の材料です」
「藤森さんは戻る?」
「午後に。本人の休みの時間も取ります」
相手は頷き、椀を持って席へ戻った。注文一件で食堂が続くわけではない。それでも、「ただで来てくれる人」しかいない場所から、一人の仕事の値段が書ける場所へ進んだ。




