明日の昼は、まだ予約できない
昨日、鍋を置いた空き地には、朝から白い測量杭が立っていた。
「午後、地面を調べます。火は使えません」
設備担当の返事を聞き、俺は昨日の受領票を鞄へ戻した。あの紙は昨日の五十三食が届いた証拠で、今日もここで作っていい許可証ではない。紙にそのくらいの力があれば、店の家賃の更新もずっと楽だった。
旧鉄道倉庫では、朝食を待つ人たちが椀を手にしている。藤森さんは昨日のうちに冷たい朝食を別に用意していた。予定が崩れても、朝の一食は止まらない。
「昼は?」と彼女。
「場所を探します。住民は移さず、作る人だけ動く案で」
「また車に積むなら、仁科さんに先に聞いて」
もっともだった。昨日運んだ人が今日も運ぶと思うのは、俺の都合だ。
食事の表を持って倉庫の入口へ戻ると、年配の男性が声をかけてきた。
「明日と明後日の昼も、こっちで頼めるか。家内が温かい物なら食べられるんだ」
断りにくい理由を、彼はきちんと持っていた。
「今日の昼は作ります。明日以降の場所は、まだ決まっていません」
「でも、昨日は出たろう」
「昨日出せた場所が、今日は使えなくなりました」
男性は椀を握り直した。約束しなければ安心できない。俺も分かる。ただ、作れない日の約束を取れば、安心の形をした欠食になる。
「奥さんの食事の条件は今日も引き継ぎます。明日の分は、夕方までに提供場所と担当を確かめて知らせます」
「夕方か」
「遅くてすみません」
「いや。できないって分かったの、朝でよかった」
男性は朝食を取りに戻った。言ってよかったのかどうか、俺にはまだ分からない。
◇
仁科さんは車の横で、荷台の留め具を直していた。
「昼の道具を運んでもらえますか。昨日と同じ量です」
「今日の一便なら。夕方は別の仕事がある」
「帰りの道具は?」
「俺には積めない」
そこで初めて、昼食を出した後の鍋をどう戻すかが空白になった。昨日は俺が次の便まで考えていたつもりで、仁科さんの予定に借りを作っていたらしい。
音羽さんに相談すると、彼女は倉庫の図面ではなく、当日の使用確認表を出した。
「北側の舗装地なら、火気の担当が午前中に確認できます。水は別の給水口を現地で確認してください。使えると決まる前に料理を始めないで」
「道具を戻す便も必要です」
「地区の小型台車を一台、担当を決めて借ります。仁科さんの夕方を押さえません」
真壁一人の気合いで舗装地も台車も手に入らない。音羽さんは確認先へ連絡し、俺は藤森さんに昼の献立を聞いた。
「昨日の汁を温め直す?」
「昨日の残りは安全を確認できません。新しく作ります。米と野菜で、少し薄い汁に」
「じゃあ、切るのは私の班。あなたは食数」
彼女が地元の二人を呼んだ。俺は五十三人の食事条件を見直す。食べる住民は五十三人。調理に出る二人も、その中だ。俺たち外部の作業者の食事は別に準備してある。
舗装地の火と水が使えると確認されたのは、昼にはまだ間に合う時刻だった。仁科さんが一便だけ道具を運び、帰りの台車は別の担当者が引く。彼の車を、人も鍋も無制限に運ぶものとして数えなかった。
◇
湯気が立つと、朝の男性が奥さんと一緒に受け取りへ来た。
「薄めにしてあります。熱いので、少し置いてから」
藤森さんが先に渡す。男性は俺を見た。
「明日も、この場所か」
「まだ言えません」
「そうか」
奥さんが椀を持ち上げ、ひと口飲んだ。俺たちは返事を待ってしまったが、彼女はただ「温かい」と言った。その一言を、明日への契約書にしてはいけない。
倉庫の受け取り側から五十三食の照合が届いた。鍋と椀の返却担当も、時刻どおり戻ってくる。今日の昼に限れば、出すところから片づけまで閉じられた。
俺は掲示板へ「次の昼食は、本日十六時に担当と場所を知らせます」と書いた。
「予約は取らないの?」と藤森さん。
「場所も人も決まらないうちには」
「店主らしくないね」
「店主だからですよ。売れない昼食の注文を受けたら、返金より先に腹が減ります」
藤森さんが短く笑った。俺は自分の椀を取り、立ったまま掲示板を見ていた手を下ろした。
今日の一食は届いた。明日の約束は、今日の仕事が終わってから作る。




