鍋を運ぶ人は、帰り道も選ぶ
夕飯の食材は、一便遅れて倉庫へ着いた。
俺が車の後ろを開けると、仁科さんが伝票を見せた。出発と到着を、違う人の字で記してある。
「受け取り、手伝ってもらえたんですね」
「俺が全部やったことにしたら、次も俺しか呼べない」
俺は顔を上げた。
「その通りです」
「口で言うだけなら簡単だろ」
仁科さんは笑わず、箱を下ろした。水と医療品を先に通し、食材は遅れたが無くしていない。俺が夕飯の時刻を頭で足し引きしていると、藤森さんが軒下から呼んだ。
「鍋、こっち。洗った物から使うよ」
椀はもう並んでいる。火の場所も水の受け手も決まっていた。俺が到着するまで、誰も夕飯の始まりを止めていない。
「手伝います」
「じゃあ、そこの野菜」
藤森さんが指した仕事をした。店主が先頭に立つために、人の始めた作業をやり直す必要はない。
◇
午後四時前、神代さんから連絡が来た。
旧橋の向こうに残っていた二人が、上流側の道を通り、医療へ引き継がれた。叔母の脚は受け入れ先で診る。先に運んだ二人と合わせ、少年が教えた四人全員の所在と引き継ぎ先が分かった。
音羽さんは四人の欄へ確認を記した。町の他の家の欄は、まだ空白だ。
「ここが終わったから、町全体が終わりではありません」
「分かっています」
それでも、この四人を迎えた仕事は閉じていい。閉じないまま次を増やすと、誰がどこへ渡ったか分からなくなる。
音羽さんが少年を呼んだ。
「叔母さんと、外側の受け入れ所で会えます。いま診察中です」
「俺も行ける?」
「同行する人と便を決めます。行きますか」
少年は倉庫の中を見た。
「こっち、また移るの?」
「可能性はあります。戻る時に場所が分かるように、連絡先を渡します」
考えてから、少年は上着を着た。
「行く」
ターミナルで食札を持てなかった手が、今日は自分の行き先を選んでいた。
◇
夕飯を配るころ、仁科さんに母親から電話が入った。隣市の受け入れ先へ着いたという。
「向こうで、手伝う仕事を探すって」
「仁科さんは?」
「止めない。向こうの仕事は、向こうの人と決めるだろ」
仁科さんは車の鍵をテーブルへ置いた。
音羽さんにも、朝の二十人全員が受け入れ先に着いたと確認が届いていた。
「こっちは燃料があと二日ほど。みんな、俺が運ぶと思ってるかもな」
「今日の便はお願いしました。明日も頼むなら、断れる形にします」
「断ったら?」
「別の便を探します」
当然の返事に聞こえるように言った。実際は、いま代わりの車を知らない。それでも、仁科さんが断れない契約を先に作る方が悪い。
俺たちは今日使った便と燃料を記した。音羽さんは用紙を受け取り、町で確認できる費用と、まだ承認が要る費用を分ける。
「明日の分まで自動で依頼したことにはしません」
「助かる。母さんに電話してから決める」
音羽さんは別の車を探す係へ連絡した。仁科さんが休む場合も、住民の食事が止まらないように。
午後遅く、少年が同行者と外へ出た。音羽さんが少年の到着を確認してから、初期七十四人の表を一行更新した。朝の二十人と、少年一人。倉庫に残るのは五十三人。
橋の向こうの四人は、この七十四人から引かない。
◇
夜、神代さんが戻った。
「少年は?」と俺。
「叔母さんに会えた。話はできてる。診察は続く」
安心してよい所と、まだ分からない所を、彼女は分けて話す。
俺は二人分の食事を取り、神代さんの隣へ座った。手を洗っている間にも、藤森さんたちは朝の鍋をどう回すか話している。ここに残る人が、俺の返事を待たずに動いていた。
「道は、明日も通れそうですか」
「分からない。今日は通れた」
神代さんが箸を取る。俺も食べた。
前の店で閉店後に二人で食べていた時間だけは、ここまで運べたらしい。
「明日も移る?」
「安全な場所が変われば。鍋は一緒に」
彼女は皿を見てから言った。
「それ、食べ終わってから考えよう」




