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戦えない元補給係の廃ダンジョン食堂 ~血まみれのSランクを救ったら、最強探索者たちの帰還拠点になりました~  作者: sakumaaa
第十五事件 残る責任と続けられる仕事

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足りないのは、弁当より椅子だった

 奥村さんは、弁当を手に持ったまま眠っていた。


 声をかけるべきか迷っていると、こちらへ顔を向けずに言った。


「起きてます」

「目が閉じていましたが」

「休憩ですから」


 水曜の朝。西口物流休憩所へ、借りていた運搬箱を返しに来た。

 ここは規制線の外にある。迷宮の仕事が止まっても、町の荷物は通るし、配送員は眠くなる。十六の席には、作業着の人がまばらに座っていた。


「温め直しましょうか」


 俺が弁当を指すと、奥村さんは首を振った。


「それより、座って食べ終わる時間が欲しいですね」


 蓋の内側に箸を置き、鳴りかけた電話を止める。

 交代相手が来るまで、客の忘れ物を受け取る役も兼ねているらしい。


 俺は、昨日の十八食の話をした。

 配達先に人がいなかったことまで話すと、奥村さんはそこで笑った。


「運ぶ人が二人いて助かりましたね」

「一人なら、電話しながら箱を下ろしていたかもしれません」

「それ、ここでもやってます」


 彼は自分の膝にある弁当を見た。

 笑い話の場所が、急に近くなった。


 ◇


 壁際の席にいた配送員が、空の紙コップを片づけた。


「帰路亭の人ですよね」

「はい」

「弁当、注文できます?」


 俺は鞄へ手を伸ばした。

 しかし相手は、料理の種類より先に時間を聞いた。


「朝の荷下ろしが終わったあと、食べられますか。八時だったり九時だったりします」

「事前に時刻を決めてもらえれば」

「それが読めなくて」


 注文票を出しかけた手が止まる。


「冷えててもいいんです。ただ、車へ持って戻ると次の連絡が来るから。座って味噌汁まで飲めると、助かるんですけど」


 奥村さんが、自分の食べかけを持ち上げた。


「まさにこれです」


 弁当を増やせば解決すると思っていた。

 でも、欲しいと言われているのは、箱の中の料理だけではなかった。


 俺は注文票をしまった。


「何時ごろ、この席が空きますか」


 今度は奥村さんへ尋ねた。


「ここを全部、食堂にしてしまうのは困りますよ。仮眠も、待ち合わせもありますから」

「はい。用途を変える相談ではありません」


 断られる前に答えたつもりだったが、奥村さんは少し笑った。


「そこまで警戒しなくても。隣、見ます?」


 ◇


 休憩所に隣接した空き区画は、以前売店だったという。

 運営会社の担当が鍵を開けてくれた。奥村さんが一存で貸すのではない。


 中へ入ると、床に棚の跡が残っていた。

 入口から奥まで、数歩で見渡せる。


「前より小さいですね」


 つい口に出すと、担当はうなずいた。


「大きい場所の空きは、今はありません」


 俺は広さの説明を聞きながら、椅子を並べる位置を考えた。

 十二席なら、通り道を残せそうだった。厨房は作る必要がある。給排水と換気を確認しなければ、店として使えるかも決まらない。


 何もない部屋を見ているうちに、前の厨房を収めようとしていた。

 あの冷蔵庫は入らない。作業台も長すぎる。棚の向きが逆になる。


 ひとつずつ困ってから、気づいた。

 持ち出せなかった物を置く場所で、悩んでいた。


「真壁さん?」


 呼ばれて顔を上げた。


「いえ。ここでできる形から、考えます」


 担当に、設備工事の可否と家賃の条件を出してもらうことにした。

 その場では借りると答えなかった。


 奥村さんが入口脇へ立つ。


「ここで調理ができれば、向こうの休憩所へ料理だけ出す形もありますね」

「食べる席と、待つ席を分けられます」

「うちの客を全員そちらへ追い出さないでくださいね」

「まだ、看板も掛けていません」


 彼は笑って、鍵を担当へ返した。


 ◇


 昼過ぎ、航さんに場所を見てもらった。

 今日の配送依頼ではないと先に伝え、こちらが頼む現地確認の分は払うと決めてから来てもらった。


 彼は部屋より先に、荷物を下ろす場所を見た。


「車を止める時間は、決めた方がいいです。ここ、ほかの便も使うので」

「入口を空けておけばいい、ではないんですね」

「自分の車だけなら、そうですけど」


 俺は、また紙へ自分に都合のよい線を引くところだった。

 荷受けの時刻を確認事項へ加える。


「金曜の話は、どうしますか」


 車のことを尋ねると、航さんはポケットの鍵へ触れた。


「売る方も、考えてます。俺が乗りたいからって、母さんに待ってもらい続けるのは違うので」


 俺は、次の注文を保証するような言葉を探さなかった。


「決めたら教えてください。車が変わっても、頼める仕事は相談したいです」

「はい」


 彼が帰ったあと、神代さんへ空き区画の話を送った。

 すぐに『見たい』と返ってきて、そのあとに『今日は当番。明後日なら』と続いた。


 俺も、明後日、と返した。

 今すぐ来てもらわなければ店が消えるわけではない。


 夕方、宮前さんから電話があった。


『六年前の本社側の照会結果が、まとまりました。明日、実物の札も含めて説明します』


 店を作る話とは、別の予定だった。

 どちらも、今の俺の仕事だった。


 明日の時刻を確認し、電話を切る。

 それから奥村さんへ、朝食に何を食べたいか尋ねた。


「決まりました?」

「建物はまだです。献立の相談です」

「じゃあ、卵焼き。立ったままじゃなくて、皿で食べたいです」


 俺は新しい紙の一番上へ、卵焼き、と書いた。

 十二席をどう埋めるかより、先に書くことができた。

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