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戦えない元補給係の廃ダンジョン食堂 ~血まみれのSランクを救ったら、最強探索者たちの帰還拠点になりました~  作者: sakumaaa
第十四事件 町を出る人の弁当

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配達先に、食べる人がいなかった

 十八食を積んできたのに、受け取る人がいなかった。


 資材置場の門は開いていた。

 だが、人影がない。昨日指定された場所には、積み重ねられた空の台車だけが残されていた。


 航さんは、車を敷地の端へ止めた。


「電話、しますか」

「はい。荷物はまだ下ろさないでください」


 十一時半。

 予定どおりに着けば、その場ですぐに渡せるはずだった。


 ◇


 今朝、最初に手渡したのは一つだけだった。

 面接へ向かう美津子さんの弁当だ。


「汁気、出ませんか」

「傾けなければ大丈夫です。念のため袋は別にしました」

「じゃあ、電車で振り回さないように気をつけます」


 代金を受け取ると、美津子さんは弁当の袋を鞄と反対の手に持った。

 車の脇から、航さんが声をかける。


「駅まで乗ってく?」

「あなたは仕事の準備。私はバスで間に合うから」


 航さんは「分かった」と短く返し、母親が角を曲がるのを見届けてから荷台へ戻った。


 残りは現場用の十八食。

 仕上がった順に蓋をし、確認した温度と時刻を控え、借りた保温容器へ入れた。航さんは荷崩れしないよう積み、俺が作業台の片づけを終えるのを待った。


 出発前の連絡では、配達先に変更なしと返事があった。

 それなのに今、ここには誰もいなかった。


 ◇


 一つ目の番号は呼び出しが続いた。

 二つ目へかけると、注文を決めた責任者が出た。


『すみません。作業場所が分かれました。弁当の受け取りも移したつもりで』

「こちらには、変更の連絡が届いていません。いま資材置場です」


 相手が、近くにいる誰かへ確認する声がした。

 待つあいだ、俺は荷台へ目を向けた。

 容器の蓋は閉じたままだった。


『十二人は南の休憩場所へ、六人は東の作業所へ移っています』

「同じ時間に休憩しますか」

『東の六人が先です。もうすぐ休憩に入ります』


 住所だけ聞いて電話を切りそうになった。

 航さんが、小さく手を上げた。


「東って、川沿いの仮設ですか。工場の裏ですか」


 確認すると、川沿いだった。

 航さんはうなずき、俺へ手を出した。相手に断ってから電話を渡す。


「車はどこまで入れますか。入口で受け取れます?」


 彼は地名を二つ挙げ、道順を確かめた。

 俺が知っているのは、紙に書かれた配達先だった。

 航さんが知っているのは、車が荷物を積んで曲がる道だった。


「東を先に回ります。南は何時までなら大丈夫ですか」


 俺が電話を受け取り、休憩時刻と受け取り担当を決め直す。

 変更で増える走行分の費用も、その責任者へ確認した。請求を航さんの仕事代から引くことにはしない。


 電話を切り、荷台の扉を開けた。


「六つ、手前へ」


 航さんが言った。

 俺は封をした弁当を六つ数え、先に開ける容器へ移す。残りの十二は閉じておく。

 中の料理を組み替えるのではない。配る順だけを直した。


「近道なら、元の資材道を」


 言いかけると、航さんが首を振った。


「そこは通行規制の内側です。遠回りでも町の一般道を回ります」


 俺は地図へ目を戻した。

 つい数日前まで、こちらが言い聞かせていたことだった。


「お願いします」


 車が動き出す直前、厨房へ戻る時刻が遅れる見通しを連絡した。

 借りた場所を返す仕事も、配達の成功に隠してはいけなかった。


 ◇


 川沿いの入口で、作業員が手を振っていた。

 航さんは案内された場所へ止め、エンジンを切った。


「六食、お持ちしました」


 俺が蓋を開けると、受け取りの人が数えた。

 最後の一つへ伸びた手の指先が、土で黒くなっている。


「手を洗ってから、食べます」


 こちらが言うより先に、相手が笑った。

 六人が休憩へ向かい、弁当がそれぞれの手へ渡る。


「間に合いましたか」

「大丈夫です。まだ湯も沸かしてないですから」


 肩の力が少し抜けた。

 料理の感想を待っている時間はなかった。受け取りを確認して、残りの十二食へ戻る。


 航さんが荷台の扉を閉めた。


「次、行きましょう」


 以前、納品のときに美津子さんから聞いたのと、同じ調子だった。

 本人は気づいていないらしい。


 南の休憩場所へ着いたときには、予定より遅れていた。

 俺はまず受け取り担当へ謝り、十二食を並べた。


「こっちの連絡が抜けたんです。すみません」


 相手も頭を下げる。

 どちらが悪いかを決める話より先に、食事を渡したかった。


 作業員の一人が、蓋を開けた。


「あ、温かい」


 それだけだった。

 けれど、俺には注文をもう一つもらったときより、はっきり聞こえた。


 十八食が届いた。

 空の容器を積むとき、航さんが俺の方を見た。


「帰り、軽いですね」

「売れましたから」


 彼が笑った。

 運んだだけではなく、食べる人に渡した帰りだった。


 ◇


 厨房へ戻ると、責任者が次の仕込みを始める準備をしていた。

 連絡した時刻までに戻れたが、余裕はなかった。借りた容器を洗い、決めていた片づけを終えてから返す。


「明日も同じ数ですか」


 尋ねられ、俺は首を振った。


「まだ注文はありません。今日の分だけです」

「分かりました」


 その返事に、少しだけ怖くなった。

 うまくいった一回が、そのまま明日の仕事にはならない。


 航さんが、受け取りの確認を二枚並べた。

 六と十二。

 俺は合計を確かめ、支払いの連絡先へ電話をかけた。


 届いたことを確認して、今日の代金を受け取る。

 まだ、仕事は終わっていなかった。

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