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戦えない元補給係の廃ダンジョン食堂 ~血まみれのSランクを救ったら、最強探索者たちの帰還拠点になりました~  作者: sakumaaa
第四事件 生配信は撤退を映さない

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19/23

救助中につき、スポンサー紹介は中止です

 一ノ瀬レオは、スポンサー進行ボタンを押した。


 地上スタジオの全員が息を止める。


 画面に、提供企業のロゴが出た。


 白い装甲。


 風術式用の双短剣。


 高耐久撮影機材。


 一ノ瀬さんは、そのロゴを一つずつ見た。


 それから、カメラへ顔を向けた。


『本日のスポンサー紹介は、中止します』


 国見さんが目を見開く。


『帰還橋が崩落。撮影担当一名が負傷。救助と撤退を優先します』


 白い装甲の胸から、スポンサー送信端末を外す。


『これは予定どおりの演出ではありません。安全になったところだけを見せる番組でしたが、安全ではないところにいます』


 桐谷さんが声を出す。


『レオさん、契約』


『帰ってから違約金を払う』


『高いですよ』


『再生数で割れば安い』


 冗談の形をしていた。


 顔は笑っていない。


『救助中につき、スポンサー紹介は中止です』


 端末を切った。


 映像は主カメラだけになる。


 一ノ瀬さんは、桐谷さんの背中から撮影背嚢を下ろした。


『待って』


『二十七キロ』


『二十六・八です』


『細かい』


『機材なので』


『人間を持つ。機材は置く』


『僕の仕事が』


『お前の仕事は、帰ってから編集すること』


 一ノ瀬さんが、自分の糖質パックを桐谷さんへ渡す。


『飲め』


『レオさんの分です』


『俺は弁当食った』


『半分、本郷さんに』


『見てたのかよ』


『撮影担当なので』


 桐谷さんは糖質パックを半分飲み、一ノ瀬さんへ返した。


 二人で一本。


 平等ではない。


 必要量にも足りない。


 だが、ゼロよりはいい。


 一ノ瀬さんが撮影背嚢を壁へ立てかけた。


 レンズを、西保守路の三角印へ向ける。


『ここへ置きます』


 桐谷さんが言う。


『拾えるなら、帰りに』


『命令するな』


『撮影担当なので』


 映像が固定される。


 一ノ瀬さんの腕部端末には、安全記録用の低解像度カメラが残る。


 配信用ではない。


 同じ中継網を通るため十八分遅れるが、移動方向と姿勢だけは地上監視へ送られる。


 画面の中で、一ノ瀬さんは桐谷さんを背負った。


 白い装甲と、黒い撮影服。


 二人分の重さで立ち上がる。


 西保守路へ入り、画面から消えた。


 配信の主映像には、無人の通路だけが残った。


「赤、午後四時十五分」


 国見さんが言う。


「青、午後三時五十七分。一ノ瀬と桐谷、西保守路へ移動開始」


「神代さんの現在地」


『第二分岐』


 救助回線から返答。


「赤、午後四時十五分。救助隊、第二分岐」


「二班の距離は」


 羽鳥さんが紙地図へ指を置く。


「最短で四百メートル。でも、西保守路は途中で上下に分かれる」


「一ノ瀬さんは道を知りません」


「風で選べる」


「説明を」


「地上へ抜ける方から、空気が降りてる。止まって感じれば分かる」


「負傷者を背負い、風術式を使ったあとです」


「だから、こっちから風を送る」


 羽鳥さんが旧送風室を示す。


「地上のファンは生きていますか」


 設備担当が確認する。


「予備電源で一基だけ」


「最低出力で起動。神代さん側から一ノ瀬さんへ向けて空気を流します」


「粉塵が上がります」


「三十秒だけ。方向が分かればいい」


 午後四時十七分。


 旧送風機を起動。


 地上の大きな羽根が、六年ぶりに回る。


 風量は弱い。


 それでも、迷宮の静かな保守路では十分だった。


『風が来た』


 神代さんが言う。


「三十秒で停止します。風下へ進んでください」


『了解』


「一ノ瀬さんたちは風上を選ぶはずです」


『選ばなかったら?』


「そのときは迎えに行く距離が増えます」


『分かりやすい』


 午後四時十九分。


 入口の帰還確認端末が鳴った。


 一枚。


 二枚。


 三枚。


 四枚。


 東退路から、本郷さん、安西さん、塚本さん、牧野さんが帰還した。


 全員、自力歩行。


 本郷さんの右手に擦過傷。


 安西さんの盾に亀裂。


 塚本さんは中継器を一台放棄。


 牧野さんは進行表を握ったまま泣いていた。


「一ノ瀬と桐谷は!」


 国見さんが駆け寄る。


「橋の西です」


 安西さんが息を整える。


「一ノ瀬が、俺たちを帰した。桐谷を引き上げて、西へ戻った」


「負傷は」


「桐谷の左足。一ノ瀬は風を使った」


「食料を渡せましたか」


「橋の向こうです」


 予想どおりだった。


「四名、帰還確認。医療班へ」


 俺はホワイトボードの四人を緑で囲う。


 残り二人。


 救助隊四人。


 迷宮内は六人。


「私たちだけ帰ってきて」


 牧野さんが言う。


「一ノ瀬さんの判断です」


「でも」


「待つ側にも仕事があります」


「何を」


「二人が帰ったとき、誰が何を食べられるか教えてください」


 牧野さんは涙を拭いた。


「レオさんは、辛いもの。桐谷は、温かい甘いものが好きです」


「アレルギーは」


「二人とも、ありません」


「では、医師の許可が出たら出します」


 役割を持った人間は、待つだけの人間より少し呼吸が楽になる。


 午後四時二十五分。


 神代さんから連絡。


『西保守路、下段分岐。血痕あり』


「量は」


『少ない。左側の壁。二人分の足跡』


「進行方向は」


『風上』


 正しい道を選んでいる。


「距離、百六十メートル」


 羽鳥さんが言う。


「その先で通路が狭くなる。人を背負ったまま通るのは無理」


「迂回路は」


「ない」


『聞こえた』


 神代さんが答える。


『私が前から引く。後ろで消防が支える』


「一ノ瀬さんへ、先に食料を」


『了解』


 救助隊が進む。


 画面には、十八分前の無人通路。


 壁へ置かれた主カメラが、誰もいない西保守路を映し続けている。


 視聴者には配信停止画面。


 地上の俺たちには過去。


 現在にいる二人を見ているのは、帰還札の弱い反応と、血痕と、足跡だけだった。


 午後四時三十一分。


『声がする』


 神代さんが言った。


『一ノ瀬!』


 遠くで、返事。


『こっちだ! 桐谷が動けない!』


「接触時刻、赤の午後四時三十一分」


 国見さんが書く。


 映像内時刻は、午後四時十三分。


 画面の過去では、一ノ瀬さんがまだ現れない。


 救助回線の現在では、神代さんが二人を見つけた。


『桐谷、意識あり。左足首、腫れ。出血少量。一ノ瀬は歩ける。かなり消耗してる』


「糖質パックを半分ずつ。水は少量。桐谷さんの足首を固定」


『了解』


「撮影機材は」


 一ノ瀬さんの声が入った。


『置いてきた』


「正しい判断です」


『二千万円です』


 桐谷さんが言う。


「人より安い」


『それ、レオさんにも言われました』


「学習が速くて助かります」


『真壁』


 神代さんが呼ぶ。


「何です」


『帰る。六人で』


 救助隊四人。


 救助対象二人。


「午後四時三十六分、帰還開始」


 俺は六人分の予定帰還線を、赤で引いた。


 十分後。


 帰還確認端末に、六枚の札が地上へ近づく表示が出た。


 同じ時刻。


 監視画面の十八分前では、一ノ瀬さんがまだ暗い通路で桐谷さんを背負っている。


 現在と過去が、初めて同じ方向へ歩いていた。


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