第5話 狩る者
正樹と佳輝はタッグを組んだ。
だが、すぐに島を動き回ることはしなかった。
今は状況を把握することを優先する。
二人は高台に身を潜め、周囲の音に耳を澄ませていた。
佳輝
「……銃声が、色んな所から聞こえてますね」
正樹
「そうだな」
「最初は四〇人いた」
「俺が分かっているだけでも、一人は死んでいる」
正樹は耳を澄ます。
先ほどまで聞こえていたショットガンらしき銃声は、いつの間にか聞こえなくなっていた。
正樹
「ショットガンらしい銃声も聞こえなくなった」
「もしかしたら……」
佳輝
「確実に人数は減ってきてますね」
正樹
「そういうことだ」
「狙撃銃があるかどうか分かるだけでも、動くかどうか決められるんだが……」
正樹は地面に木の枝を使い、簡単な地図を書き始めた。
自分がこれまで歩いてきた場所。
最初に遭遇した男の位置。
そして、現在地。
正樹
「俺が分かるのは、こんな感じだ」
「佳輝はどうやってここまで来た?」
佳輝も地面に地図を書き加えていく。
二人の歩いてきた経路を照らし合わせる。
正樹
「俺、俺が倒した奴、佳輝……って感じの配置だな」
「大体五〇メートルくらい離れてるのか」
佳輝
「そんなに近かったんですか?」
正樹
「山道だし、見通しも利かない」
「遠く感じるだけだと思う」
佳輝
「なるほど……」
正樹は地図を眺める。
正樹
「銃を手に取らなかった人の武器も確認したいんだけど……」
「リスクが高いな」
佳輝
「ここに留まっていてもいいんじゃないですか?」
正樹
「それもありだと思う」
「俺たちのことがバレていたらマズいけど……」
「ここに人がいるとは、普通は思わないだろう」
その時だった。
――ガサッ。
二人の動きが止まる。
――ガサッ。
草をかき分ける音。
ゆっくりだが、確実に近づいている。
佳輝
「……正樹さん」
正樹
「来てるな」
正樹は佳輝を見る。
正樹
「佳輝は俺から離れろ」
「俺の右側に身を隠せ」
「もしヤバそうなら……撃ってくれ」
佳輝は驚いた顔をした。
佳輝
「え……?」
正樹
「佳輝、頼む」
「俺を助けると思ってくれ」
「できるだけ俺がやるようにする」
佳輝は一瞬迷った。
そして――。
銃のグリップを握り直した。
佳輝
「いえ!」
「やります!」
「俺だって、やれます!」
正樹は佳輝を見つめる。
正樹
「……頼む」
「二人で生き残るぞ!」
佳輝
「はい!」
音が近づいてくる。
やがて、男の声も聞こえ始めた。
男
「何なんだ、ここは……」
「ちゃんとした道もないのかよ」
「ここの草、ウザいな……」
男は周囲の草を見回す。
そして――。
男
「撃ってみるか」
パァン!
パパンッ!
乾いた銃声が響いた。
正樹
(無駄に撃ちやがって……)
(自分の場所を知らせるなよ)
男
「銃はいいけどよ……」
「ナイフとかくれればいいのに」
「この草、マジでウゼェ」
正樹はスコープを覗いた。
男の姿が、視界に入る。
正樹
「銃を捨てろ!」
突然の声に、男が立ち止まった。
だが、正樹の姿は見えていない。
男
「どこだ?」
「出てこい!」
正樹はスコープから男を外さない。
男が周囲を見回す。
男
「コノヤロー!」
パパン!
パパパパーン!
男が適当に撃ち始める。
正樹
(……こいつもダメだな)
その時――。
佳輝
「ここだ!」
正樹
「……!」
佳輝が立ち上がった。
その顔は完全に強張っている。
男
「そこか!」
男が佳輝へ銃口を向ける。
その瞬間――。
パーン!
乾いた銃声が一発だけ響いた。
男の身体が大きく揺れ、その場に崩れ落ちた。
静寂。
正樹は銃を下ろした。
そして佳輝を見る。
正樹
「……何やってる!」
佳輝
「す、すみません……」
「囮になれば、正樹さんが撃ちやすいかと思って……」
正直に言えば、撃ちやすかった。
男は完全に佳輝へ意識を向けていた。
正樹から見れば、動きの止まった相手を狙うだけだった。
だが――。
正樹は佳輝の元へ歩いていく。
怒ったような顔をしていた。
佳輝
「あっ……」
「……すみません」
正樹
「……無事で良かった」
佳輝
「え?」
正樹
「あまり俺を信用するな」
「もし俺が外していたら、佳輝がやられてたぞ」
「自分を一番に考えろ」
「死んだら、何にもならない」
佳輝
「……はい」
「すみません」
正樹は少し黙った。
そして――。
正樹
「……助かった」
佳輝が顔を上げる。
正樹
「ありがとう」
「簡単に狙えた」
「佳輝のおかげだ。助かった」
正樹は深々と頭を下げた。
佳輝
「やめてください」
「俺が勝手にやったんですから」
正樹
「いや……ありがとう」
「でも次は、やられる前にやるんだ」
「それしか、生き残る方法はない」
佳輝
「……分かりました」
そして、少しだけ笑う。
佳輝
「二人で生き残るんですからね!」
正樹
「……そうだ」
正樹は倒れた男を見る。
正樹
「アイツの弾倉を調べよう」
「それから場所を移す」
「銃声を聞いて、誰かが寄ってくるかもしれない」
二人は男の装備を確認した。
しかし――。
弾倉は、すべて空だった。
正樹
「……撃ち尽くしてるな」
佳輝
「本当に無駄撃ちだったんですね……」
正樹
「そういうことだ」
二人は周囲を警戒しながら、その場を離れた。
――その頃。
正樹たちがいた高台へ、一人の男が近づいていた。
男
「こっちから聞こえたはずなんだけどな……」
独り言を呟きながら、男は高台を登っていく。
男
「ここじゃないのか?」
その時。
男の足が何かに引っ掛かった。
男
「ん?」
足元を見る。
そこにあったのは――。
先ほど正樹に撃たれた男の身体だった。
男
「……ビンゴ」
しゃがみ込み、装備を確認する。
男
「弾はないか……」
「持っていくよな、普通」
男は首元に残った傷を見る。
そして、少しだけ口元を緩めた。
男
「首に一発……」
「銃に慣れてるのか?」
男は立ち上がった。
そして、誰もいない森を見渡す。
男
「まぁいい」
「面白そうだ……」
「殺しがいがあるな」
男は笑いながら、森の中へ消えていった。
正樹と佳輝は、まだ知らない。
自分たちがすでに――。
誰かに狙われ始めていることを。




