脇役の覚醒?
三年ぶりの更新です。
もう読んでいらっしゃる方もいないかと思われますが…。
書き溜めはありませんので、また滞るかと思います。
「出立前の忙しい時間に邪魔をして申し訳ない」
コウキは慌しく出発準備を進める貴族の一行に声を掛けた。アエリックが代表して近づいてくる。
「いや、いろいろ世話になった。お嬢様も何か礼をしたいと仰っていたが、なにぶん急ぎの旅の途中だ。返せるものが何一つ無くて申し訳ない」
その場で頭を下げる護衛隊長に、コウキは答えた。
「俺たちの国の諺で、こんな言葉がある。袖触れ合うも他生の縁…道で袖が触れ合っただけの間柄でも、偶然ではなく深い理由があるのだろうから、その出会いを大切にしろということだ」
「そんな考えが根付いているとは、良い国なんだな」
どこか羨むようにアエリックは目を眇めた。
「そうだな。仲間はこの場ですれ違ったのあんたたちの行く道を心配している。だから、少し時間をもらえたら、餞別代わりに幾つかの贈り物をしたい」
コウキの申し出に警備隊長は驚く。
「いや、さすがにそれは…」
「あんたの年若い主たちを守るため、俺たちのわがままをきいてくれ」
あくまでもお願いの形で話を進める若者に、護衛隊長は根負けしたように苦笑いを浮かべた。
「ありがとう、お嬢様に申し出を伝えてくる」
許可が下りたあとの仕事は速かった。
コウゾは即座に馬車の車輪を大きな橇の上に固定する。馬車自体には防寒の術式を埋め込み、寒さを軽減した。その間に、イワオが街道まで続く荒野に石畳の通路を作り、街道に積もった雪は目が届く範囲までカエンが溶かしておいた。
一方、グレンはインベントリから、少量のマジックバックを見つけると、パンや肉、調味料、飲み物など、入るだけ詰め込んでニルダに渡した。
厳しい顔の怪訝な表情を浮かべたが、袋に手を入れてはっとし、深々と頭を下げた。
「心から礼を言わせて下さい。ご無礼、失礼いたしました。あなた方のご厚意、主ともども忘れることはないでしょう」
初めての、そして心からの感謝の言葉に、ハズレの仲間たちは無言で頷く。最後にカエンが炎の中に手を入れて、一羽の鳥を取り出した。炎を撒き散らす赤い鳥だ。カエンはそれを貴族の子供の元に連れて行く。
「これは…精霊なのか?」
「いや、これは幻獣の火鳥だ。名前を付けて、魔力を少し食わせろ」
カエンは少年の目の前に炎の鳥を差し出す。
「バーン。バーンがいい」
少年は火鳥に名付けてから、片手を翳した。バーンは嬉しそうにカエンの手から飛び立ち、貴族の少年の肩に止まった。
「熱くない」
驚いたように彼は呟き、片手で鳥の羽を撫でた。
「バーンはもうお前のものになった。お前の命が尽きるまで、バーンは従順な友であり、守護者になるだろう」
口では厳しいことを言いながら、ロウガとの別れを惜しんだ子供への餞を考えていたのだろう。カエンからの贈り物に、貴族の子供は声を詰まらせた。
「あ…りがとう」
照れたようにカエンはすぐに背を向け、仲間のところに戻っていく。こうして、ハズレの仲間たちは出来る限りことをして、死地に向う一行を見送ったのだった。
雪の中、馬に引かれて滑っていく馬車の周りを、炎の鳥が照らすように飛び、やがてその炎も見えなくなっていった。
「さて、俺たちもそろそろ本格的にこの場所の改造を始めるとするか」
貴族一行を見送り、遺跡の中に戻ってくるとコウキが気持ちを改めるように言った。
「そうだな、わいらも人の心配ばかりしてられないな」
「どれくらいの間、ここに住むのか分からないけど、最高に居心地の良い場所にしてやるよ」
双子が張り切って宣言する。
「下のダンジョンへの降り口も見つけなくちゃね。お宝がきっと沢山待ってるわ」
浮き浮きしながらミハルが両手をもみ合わせた。するとエドガーが片手を上げて言った。
「それなんだけど…この遺跡の所有者、多分グレン君だと思うよ」
「は?」
驚いて真っ先に声をあげたのは当のグレンだった。
「どういうことだ?」
ユーリが尋ねると、エドガーはグレンが初めて遺跡に入った時のことを語った。
「ミハルさんも気付いていたと思うけど、ここの結界はずっと機能してなかったんだ。でも、グレン君が足を踏み入れた瞬間、カチッて音がして結界が生き返った。どうして、グレン君なのかは分からないけど、多分所有権を得ていると思うんだ」
エドガーの意見は頷けるものがあったので、コウキはグレンに言った。
「この遺跡が所有者がいることを前提に作られているのなら、どこかに操作できる何かの装置があるはずだ。グレン、分からないか?」
「そんなこと、急に言われても…」
どうして脇役の自分に、そんな大変な役目が回ってくるのか、慌てながらグレンは周囲を見回した。その時、仔狼のロウガが彼のズボンの裾を咥えて引っ張り出した。
「お、何か見つけたのか、ロウガ」
出来の良いペットを褒めるように、コウキはグレンの背中を押してロウガの後を付いていかせる。丁度、貴族の一行が馬車を停めた辺りまで行くと、ロウガは地面を掘り出した。
「なんだ、何がある?」
一緒についてきた仲間たちの間から、イワオが飛び出して地面に両手を押し付けた。
「なんか埋まってる。グレン、ここに手を当ててみろよ」
「う、うん。こうかな?」
言われるまま、グレンが両手を地面に付けた途端、そこから青い光が走り幾何学模様を描きながら遺跡の中に広がっていった。ガタガタと何かが動く音がして、大きな岩が重なりあっただけの遺跡が石造りの建物に変わっていく。
「おお!」
「凄い!」
仲間たちから歓声があがり暫くの間、彼らはイリュージョンのような光景に見入っていた。やがて、光が消えて音が止むと、そこは立派な大広間に変わっていた。そして、大広間の壁際の中央には、周囲を見下ろすように高くなった場所があり、玉座が一つ置かれていた。
「グレン、座ってみろ」
コウキに促され、グレンは恐る恐る階段を上り、玉座に腰を下ろしてみた。どこからともなくファンファーレが鳴り響き、半透明の着飾った人々が現れた。
『ご帰還、おめでとうございます』
『我らの主の帰還に乾杯だ』
『万歳、ルーエ…』
賑やかな歓声はすぐに霧散していく。
「え、何?幽霊?」
震え上がってミハルはユーリの背中に張り付いた。
「残像のようなものじゃないのか、霊的な波動は感じなかった」
冷静にユーリは答え、周囲を見渡す。
「グレン、何か分かったか?」
コウキは玉座で沈黙している『脇役』に声を掛けた。すると、グレンは不意に背筋を伸ばし、長い足を組み合わせた。
「黙れ、神子よ。我は創造神ラーエ・アモの息子にして、レアムの帝王ルーメン・テネブラーエ・アモンの正統なる後継者、グレン・テネブラーエ・アモンなるぞ」
そう言い放った瞬間、逆座の男の姿は白銀の髪と真紅の瞳の美男子に変わっていた。その頭に魔族の証である角が二本そびえていた。




