それぞれの鑑定結果
職業が変わっているだけではなく、何故か水魔法のスキルを持っていた。ミハルがそのことを告げると、仲間たちが自分たちも鑑定して欲しいと頼んだ。
ミハルは動揺しながらも、その場にいる他の仲間達を鑑定して紙に書き出していった。
コウキ・ワタライ
年齢17歳
職業 村人A+2(高校生・生徒会長)
スキル 采配・指揮・剣術
カエン・ゴウ
年齢18歳
職業 火属性の魔法士(高校生・風紀委員長)
スキル 火魔法・剛腕
バルト・エドガワ
年齢17歳
職業 ニート弱(高校生・寮長)
スキル 惰性・剥ぎ取り
ユウリ・ワタライ
年齢17歳
職業 槍使い(高校生・生徒会長)
スキル 槍術・術式展開
「いろいろ突っ込みどころ満載だな。まず、エドガー…なんで名前が違うんだ?ニート弱って強になったらどうなる?」
眉間に皺を刻んでコウキが突っ込む。
「え~、そんなことを僕に聞かれても…」
エドガーが答えている途中で、村人A+2に進化した男は続ける。
「まあ、それは後でいいか。鑑定で分かったのは、俺たちは男女で別々の学校だったということだな。俺とユーリがそれぞれ生徒会長ってことは、何かの集まりの時に召喚されたんだろう」
「お前たち、家名が同じだが…双子か何かか?」
カエンがコウキとユーリの名字に気付いて尋ねるが、二人は不満そうに顔を見合わせる。
「いや、多分親戚くらいじゃないのか。あの双子のような特別な絆は感じない。むしろ、私はミハルのほうが近しい存在に思える」
ユーリが嫌そうな顔で答え、ミハルはそれに笑顔で「私もです!ユーリ様」と答える。
「もう一つ分かったことがある。この世界で渡されたカードとミハルの鑑定に齟齬が生じているが、おそらく俺たちは自発的に自分の情報を隠蔽した可能性がある。記憶を失う前の俺たちは、召喚された後のことを警戒していたのかもしれない」
腕組みしながらコウキは自分の考えを口にした。
「それが本当だとして現状は変わらないけどな」
ユーリが冷静に指摘し、仲間たちも「それもそうか」と頷く。
「日常生活に付いては少しずつ記憶が戻ってるから、そのうち何かのきっかけで、自分自身のことも思い出すんじゃないかな」
ミハルやユーリとの会話を持ち出して、エドガーは言う。焦っても仕方がない。今はこの世界で生き延びることだけを考えるしかなさそうだった。
その夜降り始めた雪は、朝になっても降り続き、結界の外は一面の銀世界に変わっていた。貴族の一行は悪天候の中、出立の準備をしていた。とは言え、特に荷物もないようだから、あっという間に支度も終わる。
ハズレの仲間たちは自分たちの焚き火を囲み、グレンの倉庫から出したカップラーメンを啜りながら、その様子を眺めていた。
「大丈夫なのでしょうか。外の雪、三十センチは積もってましたけれど…」
一晩眠って顔色が良くなったルナが、異世界人たちを心配して囁く。ちなみに彼女の本当のデータはこうだった。
ルナ・コウヅキ
年齢16歳
職業 治療魔導師(高校生・生徒会庶務)
スキル 治療魔法全般
「魔法を使える護衛も何人かいるから大丈夫じゃないのか」
コウキはそう答えながらも、まだ幼い貴族の少年を見ている。少年は子犬のロウガが気になるようで、チラチラとこちらを気にしていた。そのうち、護衛の目が離れた隙にタタッと勢い良く走って近づいてきた。
「ロウ!」
少年はまっすぐ子犬に駆け寄ると両腕に抱きしめた。ロウガは困ったように首を傾げながらも大人しくしている。
「お前は暖かいな。僕と一緒に来ないか?」
「キュウン」
賢い子犬は申し訳なさそうに鳴いた。少年は眉を下げて灰色の毛皮を撫でる。
「いや、そうだな。ここにいたほうが遥かに安全だ。達者でな」
この先に待ち受けている危険を知っているのか、貴族の少年は諦めたように囁く。まだ幼さの残る子供に誰も掛ける言葉がなかった。少年は立ち上がると、ハズレの仲間たちを見回して言った。
「世話になった。あの不浄場は本当に素晴らしかった。そなたたちは優れた術者なのだな。あの水の魔法陣も、薄絹のように美しい紙も、父上への良い土産話になった。もし…お会いすることが出来れば、自慢させてもらうぞ」
寂しげな声だった。生きて父親に会うことは難しいと、貴族の少年は悟っているのかもしれない。
「どうか、お気を付けて。皆様の旅路の無事をお祈りさせていただきます」
思わずルナが声を掛ければ、少年は軽く頷いて馬車のほうへ戻っていった。
「何とかならないんでしょうか、ユーリ様。化け物がうろつく大雪の中を、あんな馬車一つで移動出来るはずないですよ」
小さな子供の身を案じて、ミハルが訴える。
「ああ、そうだな」
ユーリも複雑そうな表情を浮かべていた。出来るだけ異世界人とは関わらないとみんなで決めたものの、彼らの事情を知ってしまえばその誓った心も折れそうになる。
「コウキ、馬車の改造くらいなら一時間もあればできるぞ」
「その間に、わいが街道まで出られる道を作っておくし…」
双子の兄と弟が、コウキに提案するミハルが鑑定した二人の本当のデータはこうなっていた。
コウゾウ・タクミダ
年齢17歳
職業 錬金術師(高校生)
スキル 錬金術・鍛冶
イワオ・タクミダ
年齢17歳
職業 土属性の魔法士(高校生)
スキル 土魔法・石工
「関わらないほうがいいよ。この世界に何が起きようとも、それは彼らの問題だよ。どれだけ足掻いても、滅びる時は滅びるんだ」
思いがけないほど冷淡な口調でエドガーが呟いた。言った本人も戸惑ったように俯いて続けた。
「僕の個人的な意見だけどね」
「俺もエドガーの意見に賛成だ。よく考えてみろ。俺たちの世界の文明レベルは、ここより段違いに進んでいる。下手に手を貸して、当てにされても面倒だ」
カエンの意見は変わっていなかったし、その主張も間違っていない。
「それでも僕は手助けしたい。ほんの少し手を貸すことで、あの人たちの生存率が高まるなら、なんとかしてあげたいよ」
いつもは一歩引き気味のグレンが、食い下がる。
「コウキ君、君はどうしたい?」
リーダーであるコウキに、グレンは正面から尋ねた。
「俺には、お前たちを守る義務がある。記憶もないのにおかしいかもしれないが、それが俺の役目だと頭の中に刻み込まれている。ここにいない四人も含めた全員を、元の世界に連れて帰るのが俺の目的だ。その邪魔になるのなら、この世界のなんであろうと切り捨てる」
コウキは戸惑うことなく答えた。
「だが、ここで票決を取ったら、俺は五対三で負けるだろうな。ユーリも迷っているようだし…まあ、旅立つ者たちに餞を贈るくらいはいいんじゃないか」
最初の台詞を聞いて落胆していた仲間たちの顔に笑みが浮かび、コウキの足元で子犬がはしゃぐようにじゃれ出した。
「ああ、分かった。ロウガもグレンの味方だったんだろ。六対三、一人棄権だったな」
「わう、わう!」
抱き上げれた子犬は尻尾を大きく振りながら、文句を言っている。その微笑ましい光景を眺めていたミハルが「ひっ!」と悲鳴を上げた。
「どうかしたか、ミハル」
ユーリが尋ねる。
「今、その子を鑑定したら恐ろしい事実が…」
ミハルは慌てて紙に鑑定したばかりのロウガの情報を書き出した。
ロウガ・カイ
年齢17歳
職業 仔狼(高校生・生徒会書記)
スキル 高速情報処理・解析・咆哮
「なんだ、お前。犬じゃなくて狼だったのか」
飼い主のコウキは灰色の毛皮を撫でて驚いたように言う。
「そこか?そこなのか!」
「17歳なのに仔狼とか、高校生とか、いろいろおかしいだろ!」
双子は呆れて叫び、ミハルも頭を抱えている。
「もー、可愛い上に仕事が出来る狼ってずるくない?」
なぜかミハルは、ロウガに対抗意識を燃やしているようで、冷静にエドガーが突っ込んだ。
「ミハルさんも驚く方向がズレれるよ」
「ガウ!」
ミハルを嘲笑うように灰色の仔狼は吠えてみせた。




