第22話 毎朝襲来、王直々の起床サービス
「おい、起きろ」
このところ、目覚まし代わりはヤシュ様の居室強襲だ。
ヤシュ様が来る頃にはサキルはとっくに仕事に出ていて、部屋には寝ぼけた私だけが残されている。
つまり、朝寝坊というわけ。
土木課にいた頃は日の出とともに動く生活だったのに、パルになってからというもの、すっかり怠惰な暮らしを送っていた。
最初は出仕に遅刻して謝る日々が続いた。
それが、ある朝、前触れもなくヤシュ様がやってきて、寝ている私を叩き起こしたのが始まりだった。
「おはようございます。着替えますから外に出ててください」
寝ぼけ眼のままヤシュ様を追い出す。公開生着替えはさすがに恥ずい。
「社章よし、社員証よし」
首輪と刺青を確かめて部屋を出ると、ヤシュ様が仏頂面で待っている。
「なぜ俺が毎朝シャクを起こしに来ねばならぬのだ。王だぞ?」
「別に頼んでませんけど? ヤシュ様が勝手に押しかけてくるんじゃないですか」
「シャクが遅刻ばかりするから仕方なく来ているのだ」
「それは……ごめんなさい、じゃなくて、ありがとうございます」
(毎朝いい顔を拝めるのも悪くないか)
こうして、寝坊が直らないループが完成した。
◇
「今日も特にやることはない。そこに座っていろ」
「はいはい」
執務室では、いつも通りヤシュ様の左隣で置物役を仰せつかる。
(今日は、サキルが文官ズ担当なのね)
文官ズの後ろにサキルの姿を見つけ、軽く手を振ると、口パクで何か訴えてきた。なんて言ってるんだろう? 読み取れない。
それにしても、ヤシュ様の机にはコデックスが山と積まれている。
あれだけの書類仕事に加え会議も儀礼もこなすのだから、一国を預かるというのは大変なことだと、毎日感心させられる。
「暇か。暇ならこれでも読んでいろ」
ヤシュ様が乱暴にコデックスを放り投げる。コデックスが「どさっ」と目の前に落ちてきた。
だから、初日に備品は大事にって言ったじゃん。
拾い上げると、それは役人の税着服を調べた報告書だった。置物にこんなもの見せるんじゃなーい。
「これヤシュ様の仕事でしょ、なんで私に……あ、ここ間違ってます」
書類を「ずい」と突き返す。
「これ、税の『着服』ですよね。なんで事実がカカオを『盗んだ』になってるんですか。盗むのと着服じゃ態様が違います」
「そうか。チャーク・ツィブ、今一度精査せよ」
ヤシュ様が専務に書類を差し戻す。
「褒美だ。食え」
「いただきます」
かぼちゃの種が口に放り込まれる。もぐもぐ。
「おいしいですね」
「ひゅっ」
サキルが息をのんだ。手で口を覆い、耳が赤い。なぜ?
その後もサキルと立ち話をしながら置物任務をこなしていると、ヤシュ様が割り込んできた。
「おい、シャク、あれは?」
寂しんぼか。
「今日の評議会の議題です。なんで私に聞くんですか、専務に聞いてください」
スケジュール管理は秘書長でもある専務の仕事だ。パルとはいえ私に担当業務はない。
ヤシュ様に向かってぷくっと頬を膨らませ、少し不満顔を見せる。
「シャクから聞きたかった」
なんだそれ。誰から聞いたって同じでしょう。
「ひっ」
またサキルが奇声を上げた。
ほんとうに大丈夫だろうか。




