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ティカルの奴隷は定時で帰りたい  作者: 吉川すずめ
第五章 王宮の窓際族
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第22話 毎朝襲来、王直々の起床サービス

「おい、起きろ」


 このところ、目覚まし代わりはヤシュ様の居室強襲だ。

 ヤシュ様が来る頃にはサキルはとっくに仕事に出ていて、部屋には寝ぼけた私だけが残されている。

 つまり、朝寝坊というわけ。


 土木課にいた頃は日の出とともに動く生活だったのに、パルになってからというもの、すっかり怠惰な暮らしを送っていた。


 最初は出仕に遅刻して謝る日々が続いた。


 それが、ある朝、前触れもなくヤシュ様がやってきて、寝ている私を叩き起こしたのが始まりだった。


「おはようございます。着替えますから外に出ててください」


 寝ぼけ眼のままヤシュ様を追い出す。公開生着替えはさすがに恥ずい。


「社章よし、社員証よし」


 首輪と刺青を確かめて部屋を出ると、ヤシュ様が仏頂面で待っている。


「なぜ俺が毎朝シャクを起こしに来ねばならぬのだ。王だぞ?」

「別に頼んでませんけど? ヤシュ様が勝手に押しかけてくるんじゃないですか」

「シャクが遅刻ばかりするから仕方なく来ているのだ」

「それは……ごめんなさい、じゃなくて、ありがとうございます」


(毎朝いい顔を拝めるのも悪くないか)


 こうして、寝坊が直らないループが完成した。


 ◇


「今日も特にやることはない。そこに座っていろ」


「はいはい」


 執務室では、いつも通りヤシュ様の左隣で置物役を仰せつかる。


(今日は、サキルが文官ズ担当なのね)


 文官ズの後ろにサキルの姿を見つけ、軽く手を振ると、口パクで何か訴えてきた。なんて言ってるんだろう? 読み取れない。


 それにしても、ヤシュ様の机にはコデックスが山と積まれている。

 あれだけの書類仕事に加え会議も儀礼もこなすのだから、一国を預かるというのは大変なことだと、毎日感心させられる。


「暇か。暇ならこれでも読んでいろ」


 ヤシュ様が乱暴にコデックスを放り投げる。コデックスが「どさっ」と目の前に落ちてきた。

 だから、初日に備品は大事にって言ったじゃん。


 拾い上げると、それは役人の税着服を調べた報告書だった。置物にこんなもの見せるんじゃなーい。


「これヤシュ様の仕事でしょ、なんで私に……あ、ここ間違ってます」


 書類を「ずい」と突き返す。


「これ、税の『着服』ですよね。なんで事実がカカオを『盗んだ』になってるんですか。盗むのと着服じゃ態様が違います」


「そうか。チャーク・ツィブ、今一度精査せよ」


 ヤシュ様が専務に書類を差し戻す。


「褒美だ。食え」

「いただきます」


 かぼちゃの種が口に放り込まれる。もぐもぐ。


「おいしいですね」


「ひゅっ」


 サキルが息をのんだ。手で口を覆い、耳が赤い。なぜ?


 その後もサキルと立ち話をしながら置物任務をこなしていると、ヤシュ様が割り込んできた。


「おい、シャク、あれは?」


 寂しんぼか。


「今日の評議会の議題です。なんで私に聞くんですか、専務に聞いてください」


 スケジュール管理は秘書長でもある専務の仕事だ。パルとはいえ私に担当業務はない。

 ヤシュ様に向かってぷくっと頬を膨らませ、少し不満顔を見せる。


「シャクから聞きたかった」


 なんだそれ。誰から聞いたって同じでしょう。


「ひっ」


 またサキルが奇声を上げた。

 ほんとうに大丈夫だろうか。


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