やば、語彙多すぎだろ!
朝、目が覚めた。
「……やば」
隣で少女が言う。
終わった。
「なあ、まだそれ続いてんの?」
「やば」
肯定か否定か分からんが、たぶん肯定だ。
―――
街に出る。
「やば!」
「やば〜」
「やばやば」
完全に“やば社会”が完成していた。
だが昨日と違う点がある。
――みんな、普通に生活している。
パン屋。
「やば」
店員がパンを差し出す。
俺は昨日の経験を思い出し、3ゴールド出す。
「やば!!」
成功。
もう理解している自分が怖い。
―――
宿に戻る。
おばさんが言う。
「やば〜」
これは多分「おかえり」。
「……ただいま」
思わず返すと、
「やば」
ちょっと優しい“やば”。
完全に会話になっている。
―――
昼。
俺は気づいた。
「これ、もう普通に生活できるな……?」
少女が頷く。
「やば」
つまりYES。
「いや慣れって怖いな」
「やば」
同意っぽい。
―――
夕方。
街の人たちも完全に適応していた。
ケンカしてる二人。
「やば!!」
「やば!!!」
めっちゃ怒ってる。
仲直り。
「やば〜」
「やば〜」
めっちゃ平和。
感情表現が全部“やば”に圧縮されているだけで、意味は通じている。
――これ、完成してるんじゃね?
―――
その時。
視界にウィンドウ。
「言語アップデート ver.1.4」
もうやめろ。
「フィードバック:語彙が少なすぎる」
いやでも成立してるぞ?
「改善を行います」
やめろって。
「適用開始――」
俺は思わず叫んだ。
「今のままでいいって!!」
少女、
「やば!?」
同意だよな!?
―――
光が一瞬、街を包んだ。
静寂。
そして――
「おはようございます。本日は誠に晴天に恵まれ、活動に最適な気候条件が整っておりますね」
長い。
振り向くと、宿のおばさんがめちゃくちゃ丁寧に喋っていた。
「……え?」
少女を見る。
少女は口を開く。
「言語機能の最適化により、表現力の大幅な向上が確認されました」
誰だお前。
―――
街。
さっきまで“やば”しか言ってなかったパン屋。
「当店自慢の焼きたてパンは、小麦の風味を最大限に引き出す製法により、外側は香ばしく内側はしっとりとした食感を実現しております」
長い長い長い。
客も負けてない。
「それは非常に魅力的ですね。ぜひとも一つ購入させていただきたいのですが、価格はいかほどでしょうか」
急に会話が重い。
―――
通り。
「現在の治安状況は極めて安定しており、特筆すべき問題は発生しておりません」
兵士も進化してる。
いや進化しすぎてる。
―――
俺は呟いた。
「……極端なんだよ毎回」
少女が頷く。
「その指摘は的確であると考えられます」
戻れ。
「やば」
戻った。
安心するなこれで。
―――
夕方。
俺は疲れていた。
会話一つ一つが長すぎる。
「なあ、前の“やば”の方が楽じゃなかったか?」
少女は少し考えてから言う。
「簡潔な表現には迅速性と直感的理解という利点が存在していました」
珍しく分かる。
「だろ?」
少女、
「やば」
やっぱこれだわ。
―――
その時、またウィンドウ。
「言語アップデート ver.1.5」
嫌な予感しかしない。
「フィードバック:長すぎる」
ようやく気づいたか。
「調整を行います」
頼むぞ今度こそ。
―――
数秒後。
少女が口を開く。
「……いい感じに調整されましたね。無駄がなく、それでいて必要な情報はきちんと伝わる、バランスの取れた言語体系になったと思います」
おお。
普通だ。
ついに来た。
「……これだよこれ!!」
俺が言うと、少女は頷いた。
「はい。これが理想的な状態です」
完璧だ。
ついにこの世界、まともになった――
その瞬間。
遠くで声がした。
「やばー!!」
まだ残ってる!!
振り向くと、子供たちが全力で走りながら叫んでいた。
「やば!やば!やば!」
少女が静かに言う。
「なお、一部環境において旧バージョンが保持されています」
なんかバグってる!!
俺は空を見上げて言った。
「この世界、一生安定しないだろ……」
次回、エリアごとに言語バグ発生???次回もお楽しみに!もし面白いと思っていただけたら、評価やブクマしていただけると励みになります!




