第2話:言語アップデートに失敗しました(多分)
次の日、目が覚めた瞬間から違和感があった。
「おはようございます。良い朝ですね」
……普通だ。
俺は飛び起きた。
「え、普通に喋った!?」
横にいた宿のおばさんが微笑む。
「はい。本日は天気も良く、過ごしやすい一日になりそうです」
完璧な自然言語。
どうしたこの世界。
ついに改善されたのか。
昨日の「餌。」からの進化がすごすぎる。
「……アップデートされたのか?」
俺が呟くと、視界にウィンドウが出た。
「システム更新が完了しました」
おお。
「言語最適化パッチ ver.1.1」
やるじゃん運営。
「これにより、会話はより自然になります」
めちゃくちゃいいじゃん。
―――
街に出る。
「いらっしゃいませ!今日は何をお探しですか?」
店員、普通。
「このパン焼きたてなんですよ、よかったらどうぞ」
めっちゃいい人。
「最近は平和で助かりますねぇ」
最高かこの世界。
昨日までの“混雑率は低いです”はどこ行った。
俺は思った。
――運営、ありがとう。
―――
だが異変はすぐに来た。
「お客様、こちらの商品は大変“ヤバい”です」
……ん?
店員が真顔でパンを持っている。
「ヤバい?」
「はい、とても“エモい”味わいとなっております」
誰だアップデート担当。
「今なら“バチ安”で提供しております」
混ざってきてる。
現代日本語のスラングが。
しかも使い方が微妙に間違ってる。
別の店。
「この剣、マジでチートなんで」
急に軽い。
「攻撃力が鬼です。普通に無双できます」
語彙どうした。
「ただし耐久値が秒で死にます」
情報は正確なのが腹立つ。
通りを歩く兵士。
「現在の治安、ガチで安定してます」
ガチで言うな。
「不審者は秒で確保します」
昨日より怖い。
あの少女を見つけた。
ローブ姿で、相変わらず無表情。
だが――
「やあ」
……やあ!?
「アップデートの結果、会話は改善されました。たぶん」
たぶん言うな。
「どうだ?自然でしょ」
どこで覚えたその口調。
「いやなんかおかしくなってない?」
俺が言うと、少女は少し考えてから言った。
「それな」
軽い軽い軽い。
「現在の言語は“トレンド反映型”です」
絶対やばいやつ。
「つまり?」
「最近よく使われている言葉を優先して出力します」
SNSかここは。
「精度は?」
「雰囲気です」
終わった。
その時、空から声がした。
「緊急アップデートのお知らせ」
またか。
「一部ユーザーから“キモい”との報告を受けました」
誰だ正直者。
「そのため、さらなる改善を行います」
やめろ。
絶対ろくなことにならん。
「適用中――」
待て。
「3、2、1」
やめろって。
次の瞬間。
少女が口を開いた。
「我、言語、完全理解」
おい。
「されど語彙、崩壊気味」
戻り方おかしい。
兵士が走ってくる。
「不審者、発見、したかも」
疑問形やめろ。
街の人々もざわつく。
「パン、うま、すぎ、ワロタ」
「価格、高い、泣いた」
「今日、天気、神」
単語単語になってる!!
俺は頭を抱えた。
「なんで毎回極端なんだよ!!」
すると少女が真顔で言った。
「バランス、調整、未実装」
それ昨日聞いた。
「現在、状態、試験運用」
試験運用ここでするな。
そして視界にまたウィンドウ。
「言語アップデート ver.1.2」
もういいって。
「コンセプト:シンプル・イズ・ベスト」
やな予感しかしない。
「適用完了――」
一瞬の沈黙。
そして少女が言った。
「……やば」
それだけかよ。
兵士も言う。
「……やば」
街の人も。
「やば」
「やば」
「やば」
語彙、死んだ。
―――
俺は空を見上げて言った。
「この世界、アップデートするたびにバカになってないか?」
すると最後に、どこからか声がした。
「仕様です、やば」
誰だよ。
とうとう言語アップデートが入りました!
自然な会話とは何かを追求した結果、
なぜかスラングが混入しました(笑)
たぶん次も改善されます(?)
ここまで読んで「ちょっとでも面白い」と思っていただけたら、
評価・ブクマなどしていただけると励みになります!
これはフレンドリーなお願いです。




