全員が一回で喋れない世界、会話進まない
朝。
「おはよう……いや違う、こんにちは……いや待って、今朝だからおはよう」
少女が言う。
「どれだよ」
「最適な挨拶を再検討しました」
時間かけすぎだろ。
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俺は体を起こす。
「……今日は静かだな」
少女が頷く。
「静かです……いや違います、少し鳥の声がします……いやでも全体的には静かです」
「まとめろ!!」
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外に出る。
通りの人。
「今日はいい天気……いや曇ってる……いやでも明るいからいい天気です」
どっちだよ。
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パン屋。
店員が言う。
「いらっしゃいませ……いや、ようこそ……いやどっちでもいいです」
「迷うな」
「これはパンです……いや正確には焼いた小麦製品です……いやパンです」
戻るな。
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俺はパンを取る。
「これ一つで」
店員、
「3ゴールドです……いや2.9でもいい気が……いややっぱ3です」
「ブレるな!!」
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通り。
兵士が来る。
「現在の治安は安定しています……いや完全ではありません……いやでも大きな問題はありません」
「信用しづらいな」
「安心してください……いや少し警戒してください……いやバランスよくお願いします」
どんな指示だよ。
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少女が言う。
「今回のアップデートでは、発言の精度向上が目的です……いや違います、慎重さの追加です……いや両方です」
「結局なんだよ」
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広場。
男が女に話しかける。
「好きです……いや気になってます……いや好き寄りです」
弱い。
女、
「ありがとう……いや嬉しい……いやどう返せばいいか分からない」
成立してない。
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男、
「付き合ってください……いや検討してください……いや一度考えてください」
会議か。
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女、
「いいですよ……いやちょっと待ってください……いややっぱいいです」
どっちだよ!!
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俺は頭を抱えた。
「会話進まねえ!!」
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その時。
パン屋の店員が走ってくる。
「大変です……いやそこまで大変じゃないです……いややっぱ大変です」
どっちだよ。
「パンが……いやパンじゃないかもしれません……いやパンです」
結局パンかよ。
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少女が冷静に言う。
「状況説明を行います……いやあなたが見た方が早いです……いや説明します」
決めろ。
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遠くで煙が上がる。
「火事です……いや煙だけです……いや火もあります」
全部じゃねえか。
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兵士が叫ぶ。
「消火します……いや様子を見ます……いややっぱ消火します」
早くしろ!!
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水をかける。
「消えました……いやまだです……いや今消えました」
信用できねえ。
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俺は叫んだ。
「一回で言え!!」
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少女が答える。
「それは困難です……いや可能です……いや現状では困難です」
「もういい!!」
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その時、空にウィンドウ。
「ユーザーフィードバック」
来た。
「“会話が長くて進まない”」
その通り。
「改善を検討します」
やめろ。
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少女が言う。
「次のアップデートでは、発言の簡略化が行われます……いや行われない可能性もあります……いや行われます」
「信用できねえ!!」
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俺は空を見上げた。
「この世界、結論出す気ないだろ……」
少女が一言。
「あります……いやないかもしれません……いやあります」
「どっちだよ!!」
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